防禦ぼうぎょ)” の例文
沼南の清貧咄はあながち貧乏をてらうためでもまた借金を申込まれる防禦ぼうぎょ線を張るためでもなかったが、場合にると聴者ききてに悪感を抱かせた。
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
泥の半乾きになった道を、近藤と、土方とが、結城兵二三を連れて、防禦ぼうぎょ陣地の選定に廻った。そして、柏尾かしおにいい所を見つけた。
近藤勇と科学 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
姉ト弟トハ徳光光子ノ愛情ガ第三者ニ移ルコトナキヨウ常ニ結束シテ防禦ぼうぎょシ、姉ハ弟ト光子トヲ正式ニ結婚セシムルタメニ努力シ
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
自分をねらう本所の殿様へは何よりの防禦ぼうぎょつらあて……が、ただ風の便りに栄三郎さまがお聞きなされたらどんなに悲しまれることか!
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
柿が肉のうちに渋味を蔵するのはからすに対して自己を保護するのである。栗が渋い内皮をもっているのは昆虫類に対する防禦ぼうぎょである。
「いき」の構造 (新字新仮名) / 九鬼周造(著)
医師の門をくぐるのと、それは矛盾むじゅんしているようであったが、本能的な自己防禦ぼうぎょが働く。自分の症状を軽く見せたいという気持が強かった。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
中傷なんていうものは、比較的罪のない、結局はやはり無力な、防禦ぼうぎょの手段なんだからね。だから、君の拳はおだやかにおさめてくれたまえ
(新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
その理由はもちろん薄弱であった。何の防禦ぼうぎょにもならないこともわかりきっていたが、庸三はわざとその問題には顔を背向そむけようとしていた。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
元来がんらいはこのを食害する獣類(それは遠い昔の)などを防禦ぼうぎょするために生じたものであろうが、こんな開けた世にはそんな害獣がいじゅうもいないので
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
「この戦乱に、何をうろついている。こうしてわれわれが、必死に防禦ぼうぎょ空壕からぼりを掘っておるのを、おもしろげに、見歩いているやつがあるか」
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人の心に取入るには、強盗に這入るような事をしなくてはならない。人の防禦ぼうぎょしない折をねらっていて、奇襲をやらなくちゃあならない事もある。
それは攻撃する側にとっても厄介千万なものだったが、ましてや消耗した力の残りを振り絞って防禦ぼうぎょする方にとっては、やり切れない苦難であった。
それにはまた、浦賀表うらがおもてへアメリカ船四そう、長崎表へオロシャ船四艘交易のため渡来したことが断わってあって、海岸防禦ぼうぎょのためとも書き添えてある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
かも中央の力微弱にしてこれをく制する無しとすれば、投資国は民国政府に信頼せず、自己の投資に対する利益を自ら保護し防禦ぼうぎょするに相違ない。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
五十六 この様に頻々ひんぴんの電報に警戒せられた為、米国の方では、夜の明けぬうちに余程用心した。出来るだけ頑強な防禦ぼうぎょ策を、考えもし、実行もした。
暗黒星 (新字新仮名) / シモン・ニューコム(著)
済南の防禦ぼうぎょ、徳州の回復に、其の材を認められて、平燕へいえん将軍となり、陳暉ちんき平安へいあん馬溥ばふ徐真じょしん等の上に立ち、呉傑ごけつ徐凱じょがい等とともに燕をつの任に当りぬ。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ほんとうに、ペストや、コレラがはいってきたよりもおそろしい、防禦ぼうぎょのできない事実じじつであったからであります。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
すなわち内側から土塀の方へ、鉄よりも堅く思われるような老木をビッシリ植え込んで、枝や葉を網のように参差しんしさせて防禦ぼうぎょの態を造っているからである。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
おれは一度失敗したくらいで、あの女をあきらめやしない。諦めないということを、君に告げ知らせにきたんだ。どうせ君はあらゆる防禦ぼうぎょ手段を講じるだろう。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
りつ子の防禦ぼうぎょのけはいはほんの一瞬間のことであり、自分では意識しない本能的なものであったが、それを感じたとたん、松山隆二はふいに身ぶるいをした。
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
これが真正の方針である。屁を勘定するのは人身攻撃の方針で、屁をひるのは正当防禦ぼうぎょの方針で、こうやって観海寺の石段を登るのは随縁放曠ずいえんほうこうの方針である。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかるに近頃の研究で甲状腺は全く食物の中毒作用を防禦ぼうぎょする大効能がある事を発見した。常に食物の消毒作用解毒作用をなして脳を保護する大忠臣だと解った。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
あるところまでよりしまらぬ襖子からかみを宮がおさえておいでになるのは、これほど薄弱な防禦ぼうぎょもないわけなのであるが、それをしいてあけようとも大将はしないのである。
源氏物語:39 夕霧一 (新字新仮名) / 紫式部(著)
それぞれ防禦ぼうぎょの策を講じ、以て安全の道を図らんと欲し、下山後苦心経営すること一日に非ずといえども、在来の観測所に比すれば、規摸はるかに宏大を要するが故に
「栗戸利休、実は松井田四郎太じゃ。根賀地君。これをつけて直ぐ防禦ぼうぎょに立て。あと三十分だッ!」
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
微細のあしあとを認め音響を聞き分くるといえるは、牝犬が牡よりは細心甚だしく、盗人防禦ぼうぎょにもっとも適すると同義らしいが、牡馬もまたかかる能あるはほぼ前に述べた。
当時村田は自身防禦ぼうぎょめに攘夷の仮面めんを冠て居たのか、又は長州に行て、どうせ毒をめれば皿までと云うような訳けで、本当に攘夷主義になったのか分りませぬが
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
それは人心の焦躁しょうそうと無意識的ではあろうが不当な欲求との集積から生れ出る流行性の熱病である。そしてその防禦ぼうぎょには、科学はそして大抵の学者もまた案外無力なものである。
千里眼その他 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
驚愕した義仲は、宇治、勢多の橋板を取り外し、そこへ軍勢を派遣して防禦ぼうぎょに当らせた。
だからこの八部衆の悪神と合戦をやってその悪神等を殺戮さつりくしてその降霰こうさん防禦ぼうぎょしなくてはならないということを主張するところから、その防禦に従事するところの僧侶が出来た。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
勝負は小勝負九度を重ねて完結する者にして小勝負一度とはこう組(九人の味方)が防禦ぼうぎょの地に立つ事とおつ組(すなわち甲組の敵)が防禦の地に立つ事との二度の半勝負に分るるなり。
ベースボール (新字新仮名) / 正岡子規(著)
防禦ぼうぎょともにこれを用いるゆえ、蜂の団体は多くの敵に勝って繁栄している次第であるが、この針には逆に向いたかぎがあって、いったんこれで人などをすとそのままになって抜けない。
進化論と衛生 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
「手動喞筒ポンプを廻せ! 手動喞筒を廻せ! おうい、喞筒を第一防禦ぼうぎょ甲板へはこべ!」
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「実にまるで防禦ぼうぎょのないところへ敵が突然襲撃して来るようなものだからな。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
防禦ぼうぎょの術にすぐれており、ホワイトプレーンズの戦いのとき、飛びくる弾丸を短剣で受けながし、弾丸が刃先をひゅうといってまわり、つかにかるくあたるのをたしかに感じたとさえ言った。
毛唐が真似して作っても乗る奴が一匹も居る気遣いがないし、防禦ぼうぎょの方法が全く無いんだからね。時速百二十ノット、航続距離二万海里かいりと云ったら大抵わかるだろう。その動力が問題なんだからね。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
湿地が何ゆえに生活上重大な関係があったかといえば、第一に稲は栽培しなかったろうと思わるるアイヌにあっては、交通の大なる障碍しょうがいである。従って敵人の襲撃に対する簡便なる防禦ぼうぎょである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
だが、雪子は羞明まばゆいのを犯して、兄の縫ふ傍に立つてゐる弟の裸身に眼をやると同時に、全面的に雪子に向つてき入らうとする魅惑を防禦ぼうぎょして、かの女の筋肉の全細胞は一たん必死に収斂しゅうれんした。
過去世 (新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
残った『荒鷲』六機が、栗山川の南にあるわが防禦ぼうぎょ陣地を攻撃した。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あのいまのひとの、ヘラヘラ笑いは、しかし、所謂民衆を軽蔑けいべつしている笑いでは無い。決してそんな性質のものでは無かった。わが身と立場とを守る笑いだ。防禦ぼうぎょの笑いだ。敵の鋭鋒を避ける笑いだ。
家庭の幸福 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「兵が足りんのだ。敵の防禦ぼうぎょ陣地はすばらしいものだそうだ」
一兵卒 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
今さらあの制度を復活するとなると、当時幕府を代表して京都の方に禁裡きんり守衛総督摂海防禦ぼうぎょ指揮の重職にある慶喜の面目を踏みつぶすにもひとしい。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「味方には、大事な防禦ぼうぎょの線。敵がれば、攻め入るに有利な一拠地きょち。——守将、中根正照を苦戦におちいらすな」
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近頃は正当防禦ぼうぎょのために、こう短く刈っているんだと云って、三分刈の濃い頭を笑いながらいて見せた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紋太夫は本能的に片手で防禦ぼうぎょ姿勢をとったが、千蔵はどうもしなかった。人がその躰内から一種の瓦斯ガス体を排泄はいせつするときの如く、顔をあかくして力み、歯をくいしばった。
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
庄造は、自分も急に起き直つて防禦ぼうぎょの姿勢を取りながら、続けざまに叫んだ。二階の年寄に聞かせたくないので、大きな声は立てなかつたが、抓るかと思ふと今度は引つ掻く。
猫と庄造と二人のをんな (新字旧仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「そこで僕はこう思うのだよ、人工の浮き岩を作ったのは、何かを防禦ぼうぎょするためだとね」
酒もめず弟子もいない庸三は、しばらくいるうちにすっかり孤独に陥って、酔って悪くからまってくる友達を防禦ぼうぎょするのに骨が折れ、神経がささくれ立ったように疲れて来たものだったが
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
この二つの防禦ぼうぎょ方法は、その翌日から実行されたのであったが、だが、陰獣大江春泥の恐るべき魔手は、その様な姑息こそく手段を無視して、それから二日後の三月十九日深夜、彼の予告を厳守し
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
また卵なども巣に運ぶといって、その防禦ぼうぎょにはほとんと手こずっていた。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)