鉄格子てつごうし)” の例文
旧字:鐵格子
新館の上層たる望楼は、屋根裏の一種の大広間で、三重の鉄格子てつごうしがはめてあり、大びょうをうちつけた二重鉄板のとびらでしめ切ってあった。
後世こうせい地上ちじょうきたるべき善美ぜんびなる生活せいかつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも圧制者あっせいしゃ残忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどおらしむるところの、まど鉄格子てつごうしのことなどである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
新吉は、曲馬団のファットマンのことを思い出し、門の鉄格子てつごうしとびらにつかまって、中のようすをいっしんにのぞいていました。
曲馬団の「トッテンカン」 (新字新仮名) / 下村千秋(著)
鉄格子てつごうしのある窓です。その鉄格子に顔をくっつけるようにして、カーテンのすきまから、部屋の中をのぞいて見ますと……。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
博士の足が、実験台よりもすこし高くなったところで、小山嬢は、手にしていたつなを壁際の鉄格子てつごうしにしっかりと結びつけた。
鞄らしくない鞄 (新字新仮名) / 海野十三(著)
陰湿いんしつ穴蔵部屋あなぐらべや、手さぐりで近寄ちかよると、鉄格子てつごうしさびがザラザラ落ちた。すると、ウーム……とうめきだしたかすかな人声。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はこんな鉄格子てつごうしやガラスごしにではなく、じかに青空と太陽が見たいんです。——いいえ、見ないで置くもんですか!
おおきな、鉄格子てつごうしのはまった、四かくはこくるませてきました。そのはこなかには、かつて、とらや、ししや、ひょうなどをれたことがあるのです。
赤いろうそくと人魚 (新字新仮名) / 小川未明(著)
おまんが梯子はしごを降りて行ったあと、吉左衛門はまた土蔵の明り窓に近く行った。鉄格子てつごうしを通してさし入る十一月の光線もあたりを柔らかに見せている。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
昼飯を終えるころから、日は高い鉄格子てつごうしの窓を通して流れ込み、コンクリートの壁をじりじりといた。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
わたしは、人をかきわけて、鉄格子てつごうしのはまったまどに向かった自分の場所ばしょへたどりつくと、両手りょうてあたまの下へあてがってあおむけにごろりとて、目をつぶりました。
みんなの視線が、鉄格子てつごうしのはまった、謹慎室きんしんしつの小さな窓のほうへ昇って行った。不細工ぶさいくな、野蛮な、にんじんの顔がのぞいている。彼はしかめっつらをしてみせた。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
鉄格子てつごうしをはめた窓の外には枯れ葉さえ見えないかしの木が一本、雪曇りの空に枝を張っていた。)
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
潜水艦の押しつぶされたとびら、鉄のたが、窓の鉄格子てつごうしについてる金色の隠花植物、表門の上に口をいてる怪物、あちらこちらに、思いもかけぬところには皆敷いてある、青い瀬戸の敷き石
脱獄のシーンに現われる二重の高塀たかべいの描く単純で力強い並行線のパースペクチヴ。牢屋ろうやや留置場の窓の鉄格子てつごうし、工場の窓の十字格子。終わりに近く映出される丸箱に入った蓄音機の幾何学的整列。
映画雑感(Ⅰ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
父母とともに行く歌舞伎座かぶきざや新富座の緋毛氈ひもうせんの美しい棧敷さじきとは打って変って薄暗い鉄格子てつごうしの中から人の頭を越してのぞいたケレンだくさんの小芝居の舞台は子供の目にはかえって不思議に面白かった。
山の手の子 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
かれは鉄格子てつごうしに顔をおしつけて、わたしを見た。
各寝室の鉄格子てつごうしの窓には灯火が上下し、新館の上層には一本の炬火たいまつが走り動き、かたわら屯所とんしょにいる消防夫らは呼び集められていた。
とつぜん仏壇の横手の鉄格子てつごうしが、外からむしりとられた。太いまっ黒な手が、外から窓へさしいれられた。人間の腕ではない。くろがねの巨手きょしゅだ。
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
中村係長は窓の所へ行って、鉄格子てつごうしに顔をくっつけるようにして、外を見はっている警官たちによびかけました。
青銅の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と、かれおもきたり、さらにまたの六号室ごうしつ鉄格子てつごうしなかで、ニキタが患者等かんじゃら打殴なぐっていること、モイセイカがまちっては、ほどこしうている姿すがたなどをおもす。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
「まったく、そうです。あんな鉄格子てつごうしのおりにれておく必要ひつようはありませんね。」といいました。
白いくま (新字新仮名) / 小川未明(著)
これもおのずから透明とうめいになり、鉄格子てつごうしの中にむらがった何匹かの猿を現して見せる。それからまた塀全体はあやつ人形にんぎょうの舞台に変ってしまう。舞台はとにかく西洋じみた室内。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
窓には鉄格子てつごうしがはまっている。外に出るわけにいかない。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
切り石のゆかと、一つのたたみ寝台と、鉄格子てつごうしをはめた一つの軒窓と、一つの鉄の二重扉にじゅうとびらとでできていて、地牢と呼ばれていた。
巨人ハルクのとじこめられた倉庫の、通風窓つうふうまどにはめられてあった鉄格子てつごうしが、きいきいとおとをたてはじめた。
火薬船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そうして貴方あなたはたとい三じゅう鉄格子てつごうしうちんでいようが、この幸福こうふくをもっているのでありますから。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
すっかり鉄格子てつごうしがはめてあったし、壁一重ひとえ向うのぐちには女中がいるのだし、窓の外は少しの空地を隔てて、高い塀が厳重に建てめぐらしてあったので、殆ど不安を感じることはないのだ。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
三人が初めて案内された病室には、束髪そくはつに結った令嬢が、熱心にオルガンをいていた。オルガンの前には鉄格子てつごうしの窓があって、その窓から洩れて来る光が、冷やかに令嬢の細面ほそおもてを照らしていた。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
地面がつきて水となってる所に、分厚ぶあつな錠前と三つの太い肱金すじかねとのついてる大きな低い円形の鉄格子てつごうしを、彼は認めたのだった。
いつものようにほおかぶりをし、その上にうす茶色の、かたのくずれた鳥打帽をのせていた。彼は、監房の鉄格子てつごうしをとんとんと叩いて、牛丸少年に早く食器をだせとさいそくした。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
福田氏はその前夜も就寝前に、書斎のドアにはちゃんと内部からしまりをして置いた。庭に面した窓には、皆鉄格子てつごうしがはめてあるのだし、無論締りも出来ていた。紙切を投げ込む隙間なんてあるはずがない。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そのまた鉄格子てつごうしの門の向うには棕櫚しゅろが何本もそよいでいる。
浅草公園:或シナリオ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ジャン・ヴァルジャンの前に親切にも鉄格子てつごうしを開いてやったのは、テナルディエの一つの妙策だったことも、また同様にわかるはずである。
吉岡清君よしおかきよしくんは、動物園のお猿のように、窓の鉄格子てつごうしにつかまってのぞきこんでいる。
大空魔艦 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鉄格子てつごうし
夜光人間 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
跣足はだしの爪先でそっと鉄格子てつごうしの方へ進み寄り、外をのぞき、指を口にあて、決心のつかないようなふうでしばらくたたずんだ。
真正面の大きい窓硝子が滅茶滅茶めちゃめちゃこわれて、ポッカリ異様な大孔おおあなが出来、鉄格子てつごうし肋骨ろっこつのように露出していた。その窓の下に寝台があって、その上に寝ているのは重症の赤星龍子だった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
騎馬門と徒歩門とはその鉄格子てつごうしが続いていて、そばに一つの小屋があった。ペロンネという建築者が建てたもので、墓地の門番が住んでいた。
ロープの端っこは、素早く機関車の鉄格子てつごうしに結びつけられた。
地中魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
壁に張ってある南京紙なんきんしの小さな花模様が、その鉄格子てつごうしに静かに整然と接していたが、それでも花模様のなごやかな様子は少しも乱されてはいなかった。
と、仏が、鉄格子てつごうしの中をのぞきこみながら、いうと
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鉄格子てつごうしと手錠とで禿鷹はげたかの幽閉されてる墓穴の中を吹き過ぎていたが、なおいっそう酷烈悲壮なる朔風きたかぜは、これらのはとのはいってるかごの中を吹いていた。