ゑひ)” の例文
旧字:
電車に乗つてから、暫らくの間信一郎は夫人に対するゑひから、醒めなかつた。それは確かに酔心地ゑひごゝちとでも云ふべきものだつた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
わづかにかく言ひ放ちて貫一はおごそかに沈黙しつ。満枝もさすがにゑひさまして、彼の気色けしきうかがひたりしに、例の言寡ことばすくななる男の次いでは言はざれば
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
姐さんはそれを聞いて、大喜びに喜んで、代りの晴着をこしらへて呉れた。お客はゑひからめて、真青な顔をして謝りに来た。
時平或日あるひ国経くにつねもとえんし、酔興すゐきやうにまぎらして夫人ふじんもらはんといひしを、国経もゑひたれば戯言たはぶれごととおもひてゆるしけり。
此方こなたに入らせ給へとて、奥の方にいざなひ、酒菓子くだもの種々さまざま管待もてなしつつ、うれしきゑひごこちに、つひに枕をともにしてかたるとおもへば、夜明けて夢さめぬ。
悪人の虚栄心は文学者や婦人のそれよりも更にはなはだしい事を記載し、「殺人者のゑひ」と題するボオドレエルの
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
やはり大分だいぶゑひがまはつてゐたのだらう。舞妓は椿餅にも飽きたと見えて、独りで折鶴をりづるこしらへてゐる。おまつさんとほかの芸者とは、小さな声で、誰かの噂か何かしてゐる。
京都日記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
霊枢年忌の論は恰も我俗に所謂厄年と符してゐる。兄上は今年其時に当つてをられる。聞けば矢の倉の発会にゑひに乗じて争論せられたさうである。是は気血動くの致す所である。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
そこで頭のなかは、重くろしい、煙のやうな、酒のゑひのやうな状態になつてゐる。
君が眠り得ぬ夜のために飲むべく云ひ置き給へりしベルモツトはさすがに舌なれぬ心地、だ知らぬゑひの案ぜられも致され、赤の葡萄酒をべに色のカツプに一つつがせてのちとこよこたはりさふらふ
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
それ兄様あにさまのお帰りと言へば、いもとどもこわがりてれ物のやうに障るものなく、何事も言ふなりの通るに一段と我がままをつのらして、炬燵こたつに両足、ゑひざめの水を水をと狼藉らうぜきはこれにとどめをさしぬ
大つごもり (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
女はこの目を見て、始めて沈鬱のゑひといふものを覚えたのである。
クサンチス (新字旧仮名) / アルベール・サマン(著)
「あれは何が泣くのでせう」と松川に問へば苦い顔して、談話はなしわきへそらしたるにぞしては問はで黙してめり。ために折角せつかくゑひめたれども、酔うて席にへずといひなし、予は寝室に退しりぞきつ。
妖怪年代記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
色も香もゑひをすすむる花の下
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
らうを踏むよなゑひごこち
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
時平或日あるひ国経くにつねもとえんし、酔興すゐきやうにまぎらして夫人ふじんもらはんといひしを、国経もゑひたれば戯言たはぶれごととおもひてゆるしけり。
奇遇に驚かされたる彼のゑひとみなかばは消えて、せめて昔のおもかげを認むるや、とその人を打眺うちながむるより外はあらず。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
二日の夜、よきほどのゑひごこちにて、年来としごろ大内住うちずみに、辺鄙ゐなかの人は三〇八はたうるさくまさん。三〇九かの御わたりにては、何の三一〇中将宰相さいしやうの君などいふに三一一添ひぶし給ふらん。
なれどもその夜は珍陀のゑひに前後も不覚のていぢやによつて、しばしがほどこそ多勢を相手に、組んづほぐれつ、み合うても居つたが、やがて足をふみすべらいて、思はずどうとまろんだれば
きりしとほろ上人伝 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
きふなんだかさびしくつて、ゑひざめのやうな身震みぶるひがた。いそいで、燈火ともしびあて駆下かけおりる、とおもひがけず、ゆきにはおぼえもない石壇いしだんがあつて、それ下切おりきつたところ宿やどよこながれるるやうな谿河たにがはだつた。
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
彼はくらふことかたはらに人無きごとし。満枝のおもて薄紅うすくれなゐになほゑひは有りながら、へるていも無くて、唯打案じたり。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
こたへて、そはあるじが持玉ふ年浪草としなみぐさに吾山があらましはしるせり、かの書を見玉へといひしに、兎角子とかくしは酒にもゑひたれば戯言たはふれていふやう、鬼のくるといふ事いかでそらごとならん
まらうどあるじもともにゑひごこちなるとき、真女子まなごさかづきをあげて、豊雄にむかひ、八八花精妙はなぐはし桜が枝の水に八九うつろひなすおもてに、春吹く風を九〇あやなし、こずゑ九一たちぐくうぐひす九二にほひある声していひ出づるは