辻褄つじつま)” の例文
児供のカタゴトじみた文句をならべて辻褄つじつま合わぬものをさえ気分劇などと称して新らしがっている事の出来る誠に結構な時勢である。
私たちが同室したことに対する釈明については、少しでも辻褄つじつまが合うことならどんなことでも、あなたの申し出をお引受けしましょう。
審判 (新字新仮名) / フランツ・カフカ(著)
「なるほど、辻褄つじつまは合うがね。だが僕は、君の云うような、安手な満足はせんよ。大いに出来ん。とにかく、もっと先を読んでみよう」
潜航艇「鷹の城」 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そのころには、病人の体もただ薬の灌腸かんちょうや注射でたしてあるくらいであった。頭脳あたまがぼんやりして、言うことも辻褄つじつまが合わなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
何やら訳のわからない紙片かみきれを鉄棒の間から突出しながら、辻褄つじつまの合わない脅迫めいた文句を、私に向って浴びせかけるではありませんか。
キチガイ地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
この申立てはよく辻褄つじつまが合っています。ピストルの音で驚いて飛出したから日記帳がそのまま机の上にほうり出してあったのです。
何者 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
はなしの辻褄つじつまがあわないので、さてはまだ知らないなと思ったので、四郎次郎はすぐ彼のくらわきへ寄った。そして声をひそめて
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ハイあれです、たしかにあれです、私はたしかに見ました」と辻褄つじつまのあわぬ返事、主人はいよいよ不思議そうに眉をひそめたが、やがてにわかに笑い出して
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
その後古い報知新聞を貸してれて、中を見ると明治十二年の七月二十九日から八月十日頃まで長々とかき並べて、一寸ちょい辻褄つじつまあって居ます。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こん度の自殺は、良心の苛責かしゃくの結果にきまっている。すべてが関聯しているじゃないか。すっかり辻褄つじつまがあうじゃないか?
犠牲者 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
どこと言って辻褄つじつまの合わんところもないが、それでいて子供の話のようになんとなく茫洋ぼうようとして捕捉し難いところがある。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
もともと地唄じうたの文句には辻褄つじつまの合わぬところや、語法の滅茶苦茶めちゃくちゃなところが多くて、殊更ことさら意味を晦渋かいじゅうにしたのかと思われるものがたくさんある。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
言うことばも唐突とうとつで、何だか辻褄つじつまが合わないよう——なので、大迫玄蕃は、いっそうゾッとして二、三歩、あとへ退った。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
単に言葉の上だけでもいいから、前後一貫して俗にいう辻褄つじつまが合う最後まで行きたいというのが、こういう場合相手に対する彼の態度であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
実際、嘘を云って、そうして辻褄つじつまの合わなくなることを完全に無くするにはほとんど超人的な智恵の持主であることが必要と思われるからである。
雑記帳より(Ⅱ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
今に猴神に室女を牲した遺式を行いながら毎年田畑のために猴狩りを催すは、崇めるのかにくむのか辻褄つじつまの別らぬようだが、昔猴を怕れ敬うた事も分り
辻褄つじつまの合はぬ囁きを、氣ぜはしく取交し、家の中には、今宵の晴れの儀式に招かれた親類縁者が數十人、これは默りこくつて、右往左往に動いて居ります。
つまり、二つの場面の間にはぽかんと大きな間隙かんげきが出来てしまっている。目が覚めてから、夢がどうも辻褄つじつまが合わなく見えるのは、その間隙の所為せいが多い。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そうすると、その老女は何か辻褄つじつまの合わないおどし文句を残して、そのままいなくなってしまいました。それから間もなくご病気が起こったのだそうで……。
これからぐお見舞申みまひまをさうとまをしますと、いや明日あすでよい、當方たうはうからむかへをよこすと、辻褄つじつまはぬことをうて、さツさとかへつてかれるのでござります。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
この男の言うことがどのくらいまで信用が置けるか知らないが、前後の話の辻褄つじつまはよく合うから七兵衛は
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ばくちを打ち、辻褄つじつまの合わぬちぐはぐなぼらを吹き合う、そしてその揚句あげくのはては恐ろしい喧嘩けんかだ。
純次はどうせ辻褄つじつまの合わないことをいう低能者ではあった。しかし今の言葉に清逸は、低能でない何人からも求められない純粋な親切を感ぜずにはいられなかった。
星座 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
手紙の終わりには、なおいろいろの弁解が付け加えてあって、やや辻褄つじつまの合わない点もあるが、筆者はすこぶる注意して書いたらしく、くどくどとならべ立ててあった。
と安達君はシドロモドロだったが、兎に角相手が納得する程度に辻褄つじつまを合せた。先日の敵討だ。
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
はしなくも話頭はなしがみずから犯した罪に、すこしでも触れると、すぐにビクつき、あるいは顔色かおいろが変わり、あるいは声がふるえ、あるいはその言うことに辻褄つじつまが合わなくなり
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
氏の説は快楽説として実に辻褄つじつまの合った者であるが、ただ一つ何故に個人の最大快楽ではなくて、最大多数の最大幸福が最上の善でなければならぬかの説明が明瞭でない。
善の研究 (新字新仮名) / 西田幾多郎(著)
そこで先方むこうももちろん私がダージリンに居たことをここで明かせば自分の身にも害が及ぶという位の事は知って居るものですから、私の話に応じてうまく辻褄つじつまを合わしたです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
青年等のごとく、何事にも辻褄つじつまを合せたがることの中には、何かしらおかしな所がある。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
辻褄つじつまの合わないところはあったが、しかし確かに丹生川平のために、働いたことは事実だったので、誰もが一応受け入れて、弦四郎をして依然として、丹生川平のこの別天地へ
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
友の態度にどこか辻褄つじつまの合わぬこと——矛盾のあることに、私はすぐに気がついた。
君は辻褄つじつまの合ったことが考えられるか、クレエゲル君、落ち着いて、ちょっとでも山や効果を作り出すことができるかね——血がいかがわしくむずむずして、いろんな度外れな感興が
絶えずくのが夫人の習慣になっていたが、なにしろ場合が場合であるので、きょうに限ってリザヴェッタはとかくに辻褄つじつまの合わないような返事ばかりするので、夫人はしまいに怒り出した。
わたくしどもが拝見しても脚本ほんとしたら随分悪い脚本……のない、辻褄つじつまの合わない、いまどきどうしてこんな時代なものを由良さんがなさるだろう? ……失礼ながらそう思った位でしたが
春泥 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
神聖観に護られて、固定のままあるいは拗曲ようきょくしたままに、伝った語句もある。だがたいていは、呪詞諷唱ふうしょう者・叙事詩伝誦でんしょう者らの常識が、そうした語句の周囲や文法を変化させて辻褄つじつまを合せている。
水の女 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
村田は、そんな辻褄つじつまの合わぬことを叫ぶと、ぱっと部屋を飛出した。
睡魔 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
『そこへ気が付いてから、瀬川君の為ることは悉皆すつかり読めるやうに成ました。どうも可笑をかしい/\と思つて見て居ましたツけ——そりやあもう、辻褄つじつまの合はないやうなことが沢山たくさん有つたものですから。』
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
が、それだと、しめくくりがゆるんでちと辻褄つじつまが合わない。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
なんという辻褄つじつまの合わぬことであろう。
改善は頭から (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
何だか辻褄つじつまの合わぬまずい文句だし、書風もお家流まがいの下手な手だね。昔の余り教養のないお爺さんでも書いたものだろう。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紫のハンカチを手渡しさせた……二年前の志村のぶ子と同じ役目を受け持たせた……という計画の辻褄つじつまがすっかり合って来るではないか。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もし、あの事件が禍根とすれば、武蔵の離郷がもっと幼少でなければ辻褄つじつまが合わないし、また、東作誌そのものが記載を逸している筈はない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれどもこの時御寮人ごりょうにんの前へ呼ばれた佐助の態度がオドオドして胡散臭うさんくさいのに不審が加わりめて行くと辻褄つじつまの合わないことが出て来て実はそれを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
辻褄つじつまの合ぬ囁きを、気ぜわしく取り交し、家の中には、今宵の晴れの儀式に招かれた親類縁者が数十人、これは黙りこくって、右往左往に動いております。
この哀話を断片的に二三の人からき、自分で勝手な辻褄つじつまを合わせてみたりしたものだったが、土地うちの人は、この事件に誰も深く触れようとはしなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そうだろう、そう来なくっては辻褄つじつまが合わん。第一余の理論の証明に関係してくる。ずこれなら安心。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その証拠固めをして、辻褄つじつまを合わせるだけでも、容易な捜索では追っつかないが、それは酔いのさめる時を待っておもむろに訊問をつづけても遅くはあるまいが、要するに
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その母が今更に武家奉公を不安らしくいうのは辻褄つじつまが少し合わないようにも聞えるのであった。
番町皿屋敷 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
どうですね、この辻褄つじつまのあった陳述に御子息の精神の異状が認められるでしょうか?
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「私もこの頃はうも時々お話に辻褄つじつまの合わないところがあると思っていました」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)