“身顫(みぶる)” の例文
六郎の馬が前(さき)になって堂の前(まえ)まで往ったところで、馬が不意に物に狂ったように、身顫(みぶる)いしたために、六郎は馬から落ちてしまった。
頼朝の最後 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
彼は手さぐりで五六段ある梯子(はしご)のようなものを下りて行ったが、底の方の空気が異様に冷え冷えとしているので、思わず身顫(みぶる)いをした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
乱れた髪の上から、猿轡を食(は)まされ舞台の上に引据えられて、紅(くれない)の裳(もすそ)を乱したお村は、顔色を変えてゾッと身顫(みぶる)いしたようです。
こういう場合に立到(たちいた)ると、君江はなお更烈(はげ)しくいつもの癖が増長して、後になって我ながら浅間しいと身顫(みぶる)いする事も幾度だか知れない。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
羊の身顫(みぶる)いに夢を破る 二疋の羊が身顫いし雪を払って居るです。それがちょうど私の身体の雪を払うようになって居るのです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「へ、どうぞあなたから」——由蔵はこう云うと舌を出したが、にわかにブルッと身顫(みぶる)いをした。さも恐ろしいというように。
日置流系図 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると、仔羊は、身顫(みぶる)いをし、軟らかな脚をふんばり、鼻先へべろべろのものをいっぱいくっつけ、哀れっぽい調子で、乳をしゃぶりたがる。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
とうとうやつたな‥‥と、私(わたし)は思(おも)つた。そして、總身(そうみ)に身顫(みぶる)ひを感(かん)じながら立(た)ち留(どま)つた。中根(なかね)の姿(すがた)が見(み)えなかつた。
一兵卒と銃 (旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
日本服に着換えて、身顫(みぶる)いをしてようやくわれに帰った頃を見計(みはから)って婆さんはまた「どうなさいました」と尋ねる。今度は先方も少しは落ついている。
琴のそら音 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ベートーヴェンはその魂の中に清教徒(ピューリタン)的な或るものを持っていた。卑猥な思想や談話は彼を身顫(みぶる)いさせた。恋愛の聖性については強硬な考えをもっていた。
猫背(ねこぜ)な三味線の師匠は、小春日和(こはるびより)の日を背中にうけた、ほっこりした気分で、耳の穴を、観世縒(かんぜより)でいじりながら、猫のようにブルブルと軽く身顫(みぶる)いをした。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「…………」陳君は、怪老人の不気味な一言に、ぞッと身顫(みぶる)いして後退(あとじさ)りした。老人は、自ら亡霊ではないと云ったが、血の通った人間とは信じられない。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
諾(えゝ)、と返事をしなければならないと思ふ——しかも私は身顫(みぶる)ひをするのだ。あゝ、若しセント・ジョンと一緒になれば、私は自分を半分捨てなくてはならない。
一こえきわめて幽(かす)かながら紛るべくもあらぬその人である。同時に枝折戸は押された。省作は俄(にわ)かに寒けだってわなわなする。おとよも同じように身顫(みぶる)いが出る。
春の潮 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
心の中じゃ身顫(みぶる)いの出るほど嫌ってるんだが、あまり素気(そっけ)なくすると許嫁(いいなずけ)のところへ暴れ込まれ、せっかく纏りかけた縁談をぶち毀(こわ)されないものでもないと思って
彼はその顔をしばらく覓めていたが、やがてものに襲われでもしたように身顫(みぶる)いしながら外向いた。
蛮人 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ロッセ氏は、そういって、ぶるぶると身顫(みぶる)いをすると、急いでグラスを唇のところへ持っていった。
引被(ひっかぶ)って達引(たてひき)でも、もしした日には、荒いことに身顫(みぶる)いをする姐さんに申訳のない仕誼(しぎ)だと、向後(きょうご)謹みます、相替らず酔ったための怪我にして、ひたすら恐入るばかり。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ブルツと身顫(みぶる)ひして体を半分擡(もた)げかけると、目の前にお由の大きな体が横たはつてゐる。眠つたのか、小動(こゆる)ぎもせぬ。右の頬片(ほつぺた)を板敷にベタリと付けて、其顔を炉に向けた。
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
解剖上の醜悪なものにはいかに慣れている博士さえも身顫(みぶる)いを禁じ得ずに、首を取上げてみた。頸部と前顎に滅多斬りにきりつけた痕があるだけで、顔面は大体無傷であった。
忿怒(ふんぬ)の身顫(みぶる)いが傍聴人たちの間をつたわって行った。論告を了(おわ)って検事が着席すると
墓 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
私は振り返って奥穂高を仰いでいたが、その冷たい瞳に射すくめられて、身顫(みぶる)いした。
谷より峰へ峰より谷へ (新字新仮名) / 小島烏水(著)
最初は只(た)だよく面影(おもざし)の似た女としげ/\見惚(みと)れ、段々と傍へ寄って参って見れば姿こそ変っておりますが、身顫(みぶる)いの出るほどに惚れた根岸のお嬢さんでげすから、勘太も驚きましたね
アルチバセフの快楽主義にさえ身顫(みぶる)いしたロシア婦人は欧羅巴(ヨーロッパ)スタイルの淫事も、寝床で踊る未来派の怪奇も、断髪にする苦痛さえもなし、公爵婦人の名誉さえ瞬間に地に葬ったのです。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
いつのまにか叢(くさむら)の上に立ってこちらを見ているのは、例の、飛騨の高山の穀屋(こくや)の後家さんであります。その声を聞くと、竜之助が身顫(みぶる)いをしました。今の悪戯(いたずら)はこいつだ。年甲斐(としがい)もない噪(はしゃ)ぎ方だ。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
寛(くつろ)げた寝衣(ねまき)の胸に吹き入るしぶきに身顫(みぶる)いをしてふと台場の方を見ると、波打際(なみうちぎわ)にしゃがんでいる人影が潮霧の中にぼんやり見える。熊さんだと一目で知れた。小倉(こくら)の服に柿色の股引(ももひき)は外にはない。
嵐 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この歩き廻(まわ)って、ねとねとと汗の浮く真夏の夜だというのに、寒(さ)むそうに肩を窄(すぼ)めて、ぶるっと身顫(みぶる)いをすると、恰度(ちょうど)眼の前に来た分れみちのところで、鷺太郎から渡されたカンテラを、怖る怖る
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
すると先方はホラ気違ひが笑つたといふのでゾッと身顫(みぶる)ひに及び、気違ひにチーズやバタがいりますか、ゼイタクな、それを又、取りつぐ馬鹿がゐるのだからネ、と言つて怒るのである。フッフッフ。
二十一 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
間もなく寒垢離(かんごり)を取るような水の音、昼下がりの陽射しはポカポカするようでも正月四日の寒さに、水の音を聴いただけでゾッと身顫(みぶる)いが出ます。
お妾(めかけ)はいつでもこの時分には銭湯に行った留守のこと、彼は一人燈火(あかり)のない座敷の置炬燵に肱枕(ひじまくら)して、折々は隙漏(すきも)る寒い川風に身顫(みぶる)いをするのである。
妾宅 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ブルッと彼は身顫(みぶる)いしたが、みるみる精気が全身に充ちた。と刀が鞘(さや)走り、その切っ先から鍔際(つばぎわ)まであたかも氷の棒かのように、月の光に白み渡ったが
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
許宣は法海禅師に別れて、身顫(みぶる)いしながら帰り、針子橋の李克用の家へ往った。李克用は許宣から白娘子の話を聞いて、はじめて誕生日の夜に見た妖蛇の話をした。
蛇性の婬 :雷峰怪蹟 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
それでも、情愛こまやかに、追いつ追われつ、身顫(みぶる)いする林の上に大きな輪(わ)を画くのである。
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
さうだ——それが私には恐しいことだつたのだ——その他のことなら我慢も出來たけれども。また私はグレイス・プウルが私に向つてとび出して來るといふことを考へて身顫(みぶる)ひした。
池田良斎が答えると、俳諧師は驟雨(にわかあめ)にでも逢ったように身顫(みぶる)いをして
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
曾(かつ)て幾人かの人の血を流したかも知れない喧嘩刀で、自分の伜の命を斷つた不思議な廻り合せに清兵衞は何んとなく身顫(みぶる)ひを感じて居たのでした。
銭形平次捕物控:180 罠 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
紀州藩士でもないそんな武士が、このような時にあらわれて、自分に刃向かって来るとは何んだ! ——という怒りの感情が、兵庫を改めて身顫(みぶる)いさせた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
もしやこれが話にきく恐しい病気だったら、どうしようと覚えず身顫(みぶる)いをした。医者に見てもらった方がいいとは思いながら、耻(はずか)しさと恐しさが先に立って見て貰いには行けない。
心づくし (新字新仮名) / 永井荷風(著)
間もなく寒垢離(かんごり)を取るやうな水の音、晝下がりの陽射しはポカポカするやうでも正月四日の寒さに、水のお音を聽いただけでゾツと身顫(みぶる)ひが出ます。
と、柵(しがらみ)は身顫(みぶる)いをし物におびえたというように部屋の中を怖そうに見廻したが、ツト画像の前まで行き、夏彦の画像へ両手を投げ掛け譫言(うわごと)のように叫ぶのであった。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
いざといふ時、眉毛を濕(しめ)されると、全身に身顫(みぶる)ひが走りました。娘もそれつきり、といふ氣持なんです。
ブルッと一つ身顫(みぶる)いをしたが、噛みつきたげの兇猛の眼つきで、紋也の顔を見上げ見下ろした。
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
夢あればこそ我々はあらゆる疾苦と不平と懊悩にも堪えて、兎(と)にも角(かく)にも何万日という——考えただけでも身顫(みぶる)いを感ずるような、恐ろしい生活を続けて行くのです
「そうか」ととうとう十平太も不審の小首を傾(かし)げるようになった。と、見て取った手下どもは一時にゾッと身顫(みぶる)いをした。迷信深い賊の常として、幽霊を連想したのであった。
「神田の銭形平次兄哥を知らない者があるものか。顔を知らなくとも、名前だけは子供でも知っているよ。身に覚えのある野郎は、銭形と聴いただけでも身顫(みぶる)いする」
もう一度布を差し上げて、月の光に照らして見たが、庄三郎は思わず身顫(みぶる)いをした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「神田の錢形平次兄哥を知らない者があるものか。顏を知らなくとも、名前だけは子供でも知つて居るよ。身に覺えのある野郎は、錢形と聽いただけでも身顫(みぶる)ひする」
「これこれ若者、馬鹿なことを申せ、いずれお前は旅の人間(もの)でこの土地の様子を知らぬからこそさような太平楽も申しておれ、恐ろしいこの土地の話を聞いたら恐らく身顫(みぶる)いするであろうぞ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お富はぞっと身顫(みぶる)いをしました。十九の厄、これは一座をパッと明るくするような娘です。
銭形平次捕物控:050 碁敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
「では俺の血も絞るのか?」甚太郎はブルッと身顫(みぶる)いした。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)