路傍ろぼう)” の例文
街を疾駆しっくする洪水のような円タクの流れもハタと止り、運転手も客も、自動車を路傍ろぼうに捨てたまま、先を争うて高声器の前に突進した。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
西洋の寺院は大抵単独に路傍ろぼう屹立きつりつしているのみであるが、日本の寺院に至っては如何なる小さな寺といえどもみな門を控えている。
金を路傍ろぼう土芥どかいのごとくみなすのはいかにもよくがなくいさぎよく聞こえるが、また丁寧ていねいに考えると金は決しておのれの物ではない。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
縁は不思議なもので、もしこの竹垣が破れていなかったなら、吾輩はついに路傍ろぼう餓死がししたかも知れんのである。一樹の蔭とはよくったものだ。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「それは、話さぬと申す訳ではないが、殿様より直命じきめいをうけてまいった大事……路傍ろぼうではちとおそれ多い気も致してな」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると、人の注意をくことを恐れたとみえて、二人の男はすばやく相談ののち馬車をめて、そこの路傍ろぼうの草の上へウォルタアだけをおろしたのである。
チャアリイは何処にいる (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
田舎へ行脚あんぎゃに出掛けた時なども、普通の旅籠はたごの外に酒一本も飲まぬから金はいらぬはずであるが、時々路傍ろぼうの茶店に休んで、梨や柿をくうのがくせであるから
くだもの (新字新仮名) / 正岡子規(著)
こころざしを異にすれば親でない、子でない、血縁は続いていても路傍ろぼうの人だ。瑠璃子! お前には、父さんの心持はわかるだろう。お前だけは、わしの心持は解るだろう。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
梅の花の一輪二輪とほころびるころの朝夕は、空気がまだ本当に冷えびえとしていて、路傍ろぼうには白刃しらはのような霜柱が立ち並び、水溜まりには薄い氷がはっています。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
三つばかり買いてなお進み行くに、路傍ろぼうに清水いづるところあり。わんさえ添えたるに、こしかけもあり。
突貫紀行 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
路傍ろぼうに立ったまま声をしぼって泣き続けた。私も父の背にしがみついて、しゃくり上げながら泣いた。
当時随行ずいこう部下の諸士が戦没せんぼつし負傷したる惨状さんじょうより、爾来じらい家に残りし父母兄弟が死者の死を悲しむと共に、自身の方向に迷うて路傍ろぼう彷徨ほうこうするの事実を想像し聞見もんけんするときは
瘠我慢の説:02 瘠我慢の説 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
馬や牛の群がえたり、うめいたりしながら、徘徊はいかいしだした。やがて、路傍ろぼうの草が青い芽を吹きだした。と、向うの草原にも、こちらの丘にも、処々、青い草がちら/\しだした。
雪のシベリア (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
そのとき、カッポ、カッポのおとちかづきました。百しょうにひかれて、おおきなうまがそのみちとおったのです。そして、路傍ろぼういているたんぽぽのはなうままれてくだかれてしまいました。
いろいろな花 (新字新仮名) / 小川未明(著)
とかれは路傍ろぼうの石につまずいてげたのはなおをふっつりと切らした。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
その四つつじから程遠からぬ路傍ろぼうで、悟浄は醜い乞食こじきを見た。
悟浄出世 (新字新仮名) / 中島敦(著)
刑事がこの厄介やっかいな男を制する間もなく、岡安は路傍ろぼうの大きな石を拾い上げると、パッとネオン・サインを目がけてうちつけた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今日きょうて過ぎた寺の門、昨日きのう休んだ路傍ろぼうの大樹もこの次再び来る時にはかならず貸家か製造場せいぞうばになっているに違いないと思えば
と、路傍ろぼうの稲田のれたにうれしさを覚え、朝の陽にきらめく五穀の露をながめては天地の恩の広大こうだいに打たれ、心がいっぱいになるのだった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それであればこそ路傍ろぼう耳朶じだに触れた一言が、自分の一生の分岐点ぶんきてんとなったり、片言かたことでいう小児しょうにの言葉が、胸中の琴線きんせんに触れて、なみだの源泉を突くことがある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
また足軽は一般に上等士族に対して、下座げざとて、雨中うちゅう、往来に行逢ゆきあうとき下駄げたいで路傍ろぼう平伏へいふくするの法あり。足軽以上小役人格の者にても、大臣にえば下座げざ平伏へいふくを法とす。
旧藩情 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
知らない路傍ろぼうの人からむちうたれたいとまで思った事もあります、こうした階段を段々経過して行くうちに、人に鞭うたれるよりも、自分で自分を鞭うつべきだという気になります。
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私はおろおろしながら二人の周囲をまわったり、父のそでを引いて止めたりしたが、そのうちふと、そこから半町ばかり下の路傍ろぼうの木戸の長屋に小山という父の友人のいることをおもい出した。
弘化こうか四年四月三十一日(卅日の誤か)藩籍を脱して(この時年卅六、七)四方に流寓りゅうぐうし後つい上道じょうとう大多羅おおたら村の路傍ろぼうに倒死せり。こは明治五、六年の事にして六十五、六歳なりきといふ。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
チビ公は暗然としておけを路傍ろぼうにおろして腕をくんだ。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
一年二年三年と経ち、それから五年過ぎた今日では、八十助にとって鼠谷仙四郎はもう路傍ろぼうの人に過ぎなかった。それには外にもう一つの理由があった。
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
長尾権四郎、本庄越前、藤田信吉、安田順易のりやすなど十二騎の家臣をしたがえ、路傍ろぼうに下馬して秀吉を待った。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
路傍ろぼうの淫祠に祈願をけたお地蔵様のくび涎掛よだれかけをかけてあげる人たちは娘を芸者に売るかも知れぬ。義賊になるかも知れぬ。無尽むじん富籤とみくじ僥倖ぎょうこうのみを夢見ているかも知れぬ。
いまのカーライルの言にあるとおり、いかなるいやしい、路傍ろぼう乞食こじきでも、腹がいているときに握飯にぎりめしを与えると、「三日も食わずにいたが、これは結構」といってありがたく頂戴ちょうだいする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
自分はこれらの主義を高く標榜ひょうぼうして路傍ろぼうの人の注意をくほどに、自分の作物が固定した色に染つけられているという自信を持ち得ぬものである。またそんな自信を不必要とするものである。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
私は、朝、正則に行って、正午までそこで学び、それからまた三時までは研数学館にいて、帰って来るとすぐ冷飯ひやめしをかき込んでは、四時にはもう籠をぶらさげて三橋附近の路傍ろぼうに立つのだった。
路傍ろぼうにてめぐりあった月賦げっぷの洋服屋の襟首に発射して、グズグズ云い訳けを云って時間を伸ばしているうちに、かの家ダニはほどよく相手の頸筋くびすじに喰いつくが故に
発明小僧 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
それを見ると無心な群集も、これを単なる路傍ろぼうのものとばかり、興味に眺めてもおられないとみえて
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私たち路傍ろぼうの立ち木にも、人間の脳髄と同じような考える器官もあれば、発声の器官もあるのです。これはみんな市長の谷博士がこしらえて、私たちにつけてくだすったのです
超人間X号 (新字新仮名) / 海野十三(著)
一学は、路傍ろぼうの井戸で絞って来た手拭で、胸毛を拭きながら、追いついて来た。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
房枝は、ひとりになって、路傍ろぼうに立っていた。通りがかりのおかみさんや、三輪車にのった男や、それから、近所のいたずらざかりの子供たちが、房枝を、じろじろと見て通る。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
天正の式部しきぶになれ、現代の新しい納言なごんになれ、などとはいかにもこの少女のよろこびそうな煽動せんどうだが、いくさの出先の路傍ろぼうで拾った一少女にも、すぐそんな同情と励みを約して連れ帰るなどは
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういって、黒川は路傍ろぼうに房枝をのこして、あたふたと向こうへ歩いていった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「かような路傍ろぼうにおいて、甚だしいしつけにはございまするが」
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると誰やら路傍ろぼうから
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)