薬師やくし)” の例文
旧字:藥師
やがて、彼の影は、薬師やくしやつ東光寺の裏へ、獣の這うように這い寄っていた。時はもううしこくごろ。やつの内は灯一つ見えなかった。
またいお医者いしや出会であふことも有らうから、夫婦で茅場町かやばちやう薬師やくしさまへ信心しん/″\をして、三七、二十一にち断食だんじきをして、夜中参よなかまゐりをしたらからう。
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
うごめくものの影はいよいよその数を増し、橋むこうの向井将監の邸の角から小網町こあみちょうよろいの渡し、茅場町の薬師やくしから日枝神社ひえじんじゃ葭町よしちょう口から住吉町すみよしちょう口と
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
のちにうたはまにおいてその同じ桂の余木よぼくをもちいてらせられたのが、くだんの薬師やくし尊像そんぞうじゃとうけたまわっておる。ハイ、まことに古今ここん妙作みょうさく
丹下左膳:03 日光の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
その頃父は小立野こだつのと言うところの、げんのある薬師やくしを信心で、毎日参詣するので、私もちょいちょい連れられて行ったです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまここにお薬師やくしさまの霊験をかたろうとするものではなく、そのお薬師さまの裏のほうにある如来荘にょらいそうという、あまりきれいでないアパートの一室に
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
田端たばただの、道灌山どうかんやまだの、染井そめいの墓地だの、巣鴨すがもの監獄だの、護国寺ごこくじだの、——三四郎は新井あらい薬師やくしまでも行った。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
麻布網代町あざぶあみしろちょう小石川白山こいしかわはくさん渋谷荒木山しぶやあらきやま亀戸天神かめいどてんじんなんぞいつか古顔となり、根岸ねぎし御行おぎょうまつ駒込神明町こまごめしんめいちょう巣鴨庚申塚すがもこうしんづか大崎五反田おおさきごたんだ、中野村新井あらい薬師やくしなぞ
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
その途々みちみち、廊下にも、庭先にも、戸棚の上にも、床の間にも、金仏、木像、古いの、新しいの、釈迦しゃかも観音も薬師やくし弁財天べんざいてんも、大小あらゆる仏像が置いてあるのは
ところが外へ出て見ると、その晩はちょうど弥勒寺橋の近くに、薬師やくし縁日えんにちが立っている。だからふた往来おうらいは、いくら寒い時分でも、押し合わないばかりの人通りだ。
奇怪な再会 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
或る日新井あらい薬師やくしから江古田えこだの村あたりをあるいて、路傍の休み茶屋の豆腐屋を兼ねた店先に腰を掛けると、その家の老婆がしきりに嘉陵が携えていたヤシホの盃に目を
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
如来は、如実の道に乗じて、きたって正覚しょうがくを成す、とある通り仏の最上美称であって、阿弥陀あみだ釈迦しゃか薬師やくし大日だいにちなどをいうのであります。如来が一番むずかしいものとなっている。
伯父の家というのは、愛宕下の薬師やくしの裏通りのごたごたした新道にある射的屋であった。島田髷しまだまげに結って白紛おしろいをべったり塗って店にすわっていたのが、宝沢の従妹に当たるお玉であった。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
先年其古跡をたづねんとてしも越後にあそびし時、新道しんだう村のをさ飯塚知義いひつかともよしはなしに、一年ひとゝせ夏の頃あまこひために村の者どもをしたが米山よねやまへのぼりしに、薬師やくしへ参詣の人山こもりするために御鉢おはちといふ所に小屋二ツあり
さうして、ふわ/\して諸方ほう/″\あるいてゐる。田端たばただの、道灌山だの、染井の墓地だの、巣鴨の監獄だの、護国寺だの、——三四郎は新井あらゐ薬師やくし迄も行つた。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
へえ有難ありがたぞんじます、只今たゞいまつゑを持つてまゐりませう。近「もうつゑらねえから薬師やくしさまへをさめてきな。 ...
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
「百本杭」もその名の示す通り、河岸かしに近い水の中に何本も立つてゐた乱杭らんぐひである。昔の芝居はころなどに多田ただ薬師やくし石切場いしきりばと一しよに度々この人通りの少ない「百本杭」の河岸かしを使つてゐた。
本所両国 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
ちょうどこの駒形堂から大河を距てて本所ほんじょ側に多田の薬師やくしというのがありましたが、この叢林やぶがこんもり深く、昼も暗いほど、時鳥など沢山巣をかけていたもので、五月さつきの空の雨上がりの夜などには
先年其古跡をたづねんとてしも越後にあそびし時、新道しんだう村のをさ飯塚知義いひつかともよしはなしに、一年ひとゝせ夏の頃あまこひために村の者どもをしたが米山よねやまへのぼりしに、薬師やくしへ参詣の人山こもりするために御鉢おはちといふ所に小屋二ツあり
そしてたしかに、それが薬師やくしのおつげであると信じたですね。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
さて重二郎は母の眼病平癒へいゆのために、暇さえあれば茅場町の薬師やくし参詣さんけいを致し、平常ふだんは細腕ながら人力車じんりきき、一生懸命に稼ぎ、わずかなぜにを取って帰りますが
成程なるほど先刻さつき薬師やくしさまで見ましたが、薬師やくしさまより観音くわんおんさまのはう工面くめんいと見えてお賽銭箱さいせんばこが大きい……南無大慈大悲なむだいじだいひ観世音菩薩くわんぜおんぼさつ今日こんにちはからず両眼りやうがんあきらかに相成あひなりましてございます
心眼 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
温泉は川岸から湧出わきだしまして、石垣で積上げてある所を惣湯そうゆと申しますが、追々ひらけて、当今は河中かわなかの湯、河下かわしもの湯、儘根まゝねの湯、しもの湯、南岸みなみぎしの湯、川原かわらの湯、薬師やくしの湯と七湯しちとうに分れて
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)