莞爾にっこり)” の例文
御新造さまと呼ばれて莞爾にっこりあいよと笑った事、それやこれや小歌の我れに対する誠が一通りでないようで、かつまたあのやさしい小歌に
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
と言って莞爾にっこりとして、えてとがめることをしませんでした。お君が給仕としてこの室に入ることを許されている唯一の者であります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こうして莞爾にっこりに対するに莞爾にっこりを以てするのを一日の楽みにして、其をせぬ日は何となく物足りなく思っていた。いや、罪の無い話さ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
ちょっと指先で畳をこすりさまに、背後うしろを向いて、も一度ほほほ、と莞爾にっこりすると、腰窓をのぞいていた、島田と銀杏返いちょうがえしが、ふっと消える。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それだけじゃ、わからないね」老紳士は莞爾にっこりして、「ジャンという名前の子供は沢山いるからね。お父さんの苗字は何というの」
二人の母親 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
もとより邪淫奸智じゃいんかんち曲者くせもの、おやまは年齢とし二十二でございます、美くしい盛りで、莞爾にっこりと笑います顔を、余念なく見て居りましたが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
この山とこの池とは二重に反対した暗示をった容貌かたちを上下に向け合っている、春の雪が解けて、池に小波立つときだけあでやかに莞爾にっこりする
梓川の上流 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
けれども青眼は矢張やっぱりその眼をみはったまま返事をしませぬ。じっとその顔を見ていた王は、やがて莞爾にっこりと笑って申しました——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
わだかまりもなく言って、俯向うつむき加減に莞爾にっこりします。こんな無礼な仕打は、日頃の家光には見ようたって見られません。
「塩原君」と、中佐は始めて、参謀の方を向いて、莞爾にっこりとした。「今夜あたり、面白い話が聞けるかも、知れないよ」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そう云って莞爾にっこり笑うのさ、器量がえいというではないけど、色が白くて顔がふっくりしてるのが朝明りにほんのりしてると、ほんとに可愛い娘であった。
姪子 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
大阪あたりの娘らしいのが、「良平りょうへいさんよ」と云う。お新さんがお糸さんと顔見合わせて莞爾にっこりした。お新さんはそっと其内の椿の葉を記念の為にちぎった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
そしてそれを聞くと娘も初めて涙のうちに莞爾にっこりとして……そのうちに身体の調子が変ってきたのでしょう。お父様……もう死が手招きをしてまいりました。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
彼女は莞爾にっこりともしないで眼を通した。彼が新聞に出そうと思った広告の下書きであった。
或る日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「どうしたのです」と訊ねると、「生徒が持って来たのです」と先生は莞爾にっこり笑った。
廃墟から (新字新仮名) / 原民喜(著)
住職の老人には私は平時いつ顔馴染かおなじみなので、この時談はなしついでに、先夜見たはなしをすると、老僧は莞爾にっこり笑いながら、恐怖こわかったろうと、いうから、私は別にそんな感もおこらなかったと答えると
子供の霊 (新字新仮名) / 岡崎雪声(著)
「炭のことは私共に解らんで……」と莞爾にっこり微笑わらってそのまま首を引込めて了った。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
と呼びかけて亭主のいうに、ちょっとりかえってうれしそうに莞爾にっこり笑い
貧乏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
娘は柴折戸しおりどのところへ来ると今雨戸のところに立って見送っていた、私の方を振返ふりかえって、莞爾にっこりと挨拶したが、それなりに、掻消かきけす如くに中門ちゅうもんの方へ出て行ってしまった、こののちは別に来なかったから
雪の透く袖 (新字新仮名) / 鈴木鼓村(著)
「どうじゃな、お気に召されたかな?」老人は莞爾にっこりと笑ったが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
僕はもうこの時には悉皆すっかり落ち着いて莞爾にっこりと笑ってやった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
「やっと謎が解けました」と彼は莞爾にっこりした。
青い風呂敷包 (新字新仮名) / 大倉燁子(著)
奴は莞爾にっこりとビラを撒き手渡した
動員令 (新字新仮名) / 波立一(著)
「なにひと」とお政は莞爾にっこりした、何と云ッてもまだおぼだなと云いたそうで。「お前に構ッてもらいたいンで来なさるンじゃ有るまいシ」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
どうだい、芳さん、私も思わず知らず莞爾にっこりしたよ、これは帰って来たのが嬉しいのより、いっそその恰好が可笑おかしかったせいなのよ。
化銀杏 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そこで振返ってお松の面を見て莞爾にっこりと笑いました。お松は提灯の光でその面を見たけれども、その意味を解すことができませんでした。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と両人はすぐに駈出して小田原迄逃げたと云うが、其様そんなに逃げなくっても宜しい。此の武家ぶけ莞爾にっこり笑って直其の足で京橋鍛冶町へ参りました。
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
虹汀これを見て莞爾にっこりと打ち笑みつ。如何に喜三郎ぬし。早やさとり給ひしか。弥陀みだの利剣とは此の竹杖ちくじょうの心ぞ。不動の繋縛けばくとは此の親切の呼吸ぞや。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
高城鉄也は、ウイスキーを一丁、足の勇の為に通させながら、園花枝と顔を見合せて、悪戯いたずらっ子らしく莞爾にっこりしました。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
彼女はしとやかにそれを受けて、莞爾にっこりした。若い良人おっとはお礼ごころに巻煙草の函を老紳士の方へさしのべて
それを聞くと、私も今の自分の恐ろしさも消え果てて、充分酬いられたような気になって思わず莞爾にっこりとした。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
「あら、送って下さるの」マスミは莞爾にっこり笑いながら「でも遠いのよ。ずっと下町の方ですわ」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
小歌が莞爾にっこりと笑った時だけ、不知不識しらずしらずの間に自分も莞爾にっこりと笑い連れて、あとはただ腕組するばかりのことだから、年の行かぬ小歌にはたえかね接穂つぎほなく、服粧なりには適応にあわず行過た鬼更紗の紙入を
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
すると周作は莞爾にっこりとしたが、「ではなぜおれに破られたな?」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ああそれは難有ありがとう。毎度お気の毒だと思うんだけれど、ツイね私の方も請取うけとる金が都合よく請取れなかったりするものだから、此方こっちも困るだろうとは知りつつ、何処どっこへも言って行く処がないし、ツイね」と言って莞爾にっこり
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
はねの生えたうつくしい姉さんは居ないの。)ッて聞いた時、莞爾にっこり笑って両方から左右の手でおうように私の天窓あたまでて行った
化鳥 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「へえへえ、恐れ入りました」、と莞爾にっこりして、「じゃ、尋常ただのでもいから、屹度きっとよ。ねえ、阿母かあさん、だましちゃ厭よ。」
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
歯切れの良い調子、莞爾にっこりすると、漆黒の歯がチラリと覗いて、啖呵たんかの切れそうな唇が、滅法婀娜あだめいて見えます。
お母さまが白い衣服きものを着て立っておいでになりまして、姫を見ますと莞爾にっこりとお笑いになり、そのまま姫を軽々と抱き上げて、優しい手で髪を撫で上げながら——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
いわゆるお大尽の前へ、お金の包みを積み上げますと、お大尽は、莞爾にっこりと笑い
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「これはやや出来がよかった」別府将軍は、始めて莞爾にっこりと、頬笑ほほえんだ。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
只だ莞爾にっこりしたばかりで不審らしい顔もしません。やがて奥から嬉しそうにして出てまいった病人のお若さん、これもたゞ莞爾いたして伊之助のそばへぴったり坐り、別に挨拶をするでもなく澄している。
細君は莞爾にっこりした。そこで若い男は老紳士の方へ向きなおって
すると定吉は莞爾にっこりとしたが「千代千兵衛とやら申したな」
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お米は、莞爾にっこりして坂上りに、衣紋えもんのやや乱れた、浅黄を雪に透く胸を、身繕いもせず、そのまま、見返りもしないで木戸を入った。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また課長殿に物など言懸けられた時は、まず忙わしく席を離れ、仔細しさいらしく小首を傾けてつつしんで承り、承り終ッてさて莞爾にっこり微笑してうやうやしく御返答申上る。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
平次は場所柄にも似ず、莞爾にっこりとしました。ガラッ八の書いた字を、お君が拙いと言ったので可笑おかしかったのです。
美留藻は鏡の中から王の姿を見て莞爾にっこりと笑いましたが、王もこれを見て莞爾にっこりと笑いまして——
白髪小僧 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
彼を知りおのれを知るんでげすな、だから指を取られるとすぐに、お前は話せると言って莞爾にっこりと笑って、尋常に引上げたところがあれで味のあるところで、道庵さんが敵をとっちめながら
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうすると伊之助は莞爾にっこりいたして