色褪いろあ)” の例文
壁には、色褪いろあせたミレーの晩鐘の口絵が張ってあった。面白くもない部屋だ。腰掛けは得たいが知れない程ブクブクして柔かである。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
この神苑の花が洛中らくちゅうける最も美しい、最も見事な花であるからで、円山公園の枝垂桜しだれざくらが既に年老い、年々に色褪いろあせて行く今日では
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それは、色褪いろあせた古金襴こきんらんの袋に入っている。糸はつづれ、ひも千断ちぎれているが、古雅こがなにおいと共に、中の笛までが、ゆかしくしのばれる。
宮本武蔵:02 地の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
像のりたるは色褪いろあせて、これを圍める彩畫ある板壁さへ、半ば朽ちて地にゆだねたれど、中には聖母兒せいぼじ丹粉にのこあざやかかなるもなきにあらず。
まことにおつるは、色彩いろどりのとぼしい忠相の生涯における一紅点こうてんであったろう。たとえ、いかに小さくそして色褪いろあせていても。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
看護員は犇々ひしひしとその身をようせる浅黄あさぎ半被はっぴ股引ももひきの、雨風に色褪いろあせたる、たとへば囚徒の幽霊の如き、数個すかの物体をみまはして、ひいでたるまゆひそめつ。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
其の老人達の色褪いろあせた式服にもはなやかな昔が数々折り込まれている様に、わたし達の老年にも一つや二つの思い出があろうと言うものですよ。
女の一生 (新字新仮名) / 森本薫(著)
皮膚の色褪いろあせたペルシヤ人、半黒焼のマレー人、亡国的なポルトガル人などの群に交って北京を出発してから半ヶ月後
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
そこで彼は昔の学生服のかはりにフロックコートを着け、昔よりは立木の少し延び、建物の少し色褪いろあせた寄宿舎に、しばらくぶりで快濶に帰つて来た。
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
内田さんも、あなたの様子にニコニコ笑って来るし、ぼく達も、笑ってむかえましたが、ぼくにとっては月の光りも、一時に、色褪いろあせた気持でした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
どこを歩いても昔の香が無い。三島が色褪いろあせたのではなくして、私の胸が老い干乾ひからびてしまったせいかもしれない。
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
梅花を渡るうすら冷たい夕風に色褪いろあせた丹頂の毛をそよがせ蒼冥そうめいとしてれる前面の山々を淋しげに見上げて居る。
鶴は病みき (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから、もう一人の色つやの悪い、せた、貧相な女の子の姿が、そのかたわらに色褪いろあせて、ぼおっと浮ぶ。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そこでは土地は色褪いろあせて呪われており、破壊が必要となる前に土地そのものが破壊されてしまうだろう。
火鉢ひばちあかいのも、鐵瓶てつびんやさしいひゞきに湯氣ゆげてゝゐるのも、ふともたげてみた夜着よぎうらはなはだしく色褪いろあせてゐるのも、すべてがみなわたしむかつてきてゐる——このとし
日の光を浴びて (旧字旧仮名) / 水野仙子(著)
ところでその内の一枚は、他の三枚にくらべて彫刻に塗りこんである絵具えのぐが莫迦に色褪いろあせています。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「いや、てれるというわけではない」又左衛門は火桶ひおけ鉄瓶てつびんから、湯を湯ざましへ移し、急須きゅうすと湯ざましとで湯をこなしながら、まるで色褪いろあせた情事を悔みでもするように云った
燕(つばくろ) (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
再度さいどの努力に新しくされた希望が續いた。最初のときと同じやうに、數週間はその希望は輝いてゐた。けれども同じやうに光薄ひかりうす色褪いろあせて行つた。一行も一言も私には屆かなかつた。
ころは春のすえということは庭の桜がほとんど散り尽して、色褪いろあせた花弁はなびらこずえに残ってたのが、若葉のひまからホロ/\と一片ひとひら三片みひら落つるさまを今も判然はっきりおもいだすことが出来るので知れます。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
お前は「欧羅巴ヨーロッパのKOREA」だ。絢爛の色褪いろあせた絵画織物テベストリーだ。Poogh !
……色褪いろあせた曇り日の光を背負い、頑固に肩をいからせ目を虚空に向けて突っ立っている彼の貧弱なからだを見上げ、急にぼくは少年航空兵募集の、あの戦時中のポスターを思い出した。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
色褪いろあせし花束は現れぬ。
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
むっちりと肥えた四十路よそじがらみのひとだった。幼子を抱いて、色褪いろあせた衣服もよけい着くずしているかたちだが、どこかには上流婦人らしい大容おおような風もある。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どうしてこんな物がこの家に伝わっていたのであろう、———色褪いろあせたおおいの油単ゆたんを払うと、下から現れたのは、古びてこそいるが立派な蒔絵まきえ本間ほんけんの琴であった。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
青葉の間に散りぎわの悪い色褪いろあせた花をのこして、なぎの日のような煙った淡さで咲いていた。
田舎がえり (新字新仮名) / 林芙美子(著)
「赤毛のゴリラ」の顔は見る見る土のように色褪いろあせていった。ああ生命は風前のともしびである。
流線間諜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
竹の柱をい、筵編むしろあみの揚蔀あげじとみに、色褪いろあせたとばりなどめぐらして、並木の松の数ほど白粉おしろいの女たちが出ていて
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
藤原時代なるものは色褪いろあせました。ようやく、平家栄花の勃興期に入りましょう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)