腹掛はらがけ)” の例文
さっき胡坐あぐらをかいていた処へどっさり腰をおとすが否や、腹掛はらがけの中から汚れた古ぎれに包んだものをつかみ出したのは、勲章にちがいない。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ことし五歳で、体に相当した襦袢じゅばん腹掛はらがけに小さな草刈籠くさかりかご背負せおい、木製の草刈鎌を持って、足柄山を踊る男の子でありました。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「時にお前、蛇口を見ていた時に、なんじゃないか、先についていた糸をくるくるっといて腹掛はらがけのどんぶりに入れちゃったじゃねえか。」
幻談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
無雑作にほうり出して、切り立ての犢鼻褌ふんどしに、紺の香が匂う腹掛はらがけのまま、もう一度ドシャ降りの中へさっと飛出しました。
一人は素肌に双子ふたごあわせを着て一方の肩にしぼり手拭てぬぐいをかけた浪爺風あそびにんふうで、一人は紺の腹掛はらがけ半纏はんてんを着て突っかけ草履ぞうりの大工とでも云うような壮佼わかいしゅであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
半纏はんてん股引ももひき腹掛はらがけどぶから引揚げたようなのを、ぐにゃぐにゃとよじッつ、巻いつ、洋燈ランプもやっと三分さんぶしん黒燻くろくすぶりの影に、よぼよぼしたばあさんが、頭からやがてひざの上まで
露肆 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立派な衣装いしょう馬士まごに着せると馬士はすぐ拘泥してしまう。華族や大名はこの点において解脱の方を得ている。華族や大名に馬士の腹掛はらがけをかけさすと、すぐ拘泥してしまう。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腹掛はらがけだけをヅタツと謂ったり(北飛騨きたひだから能登のと)、はかまだけをデンタツというところもあるが(秋田県)、元来は「出立でたち」だから、仕事着の全体を一括していうのが正しいのである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
久し振りでいましてこんな嬉しいことはありません、久し振りで上下かみしもを見ましたよ、此の近所には股引もゝひき腹掛はらがけをかけた者ばかるから……かやや/\……これは嫁でございます
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
他は盲縞めくらじま股引ももひき腹掛はらがけに、唐桟とうざん半纏はんてん着て、茶ヅックの深靴ふかぐつ穿うがち、衿巻の頬冠ほほかぶり鳥撃帽子とりうちぼうしを頂きて、六角に削成けずりなしたる檳榔子びんろうじの逞きステッキを引抱ひんだき、いづれも身材みのたけ貫一よりは低けれど
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
文字もんじけて人中ひとなかけつくゞりつ、筆屋ふでやみせへをどりめば、三五らう何時いつみせをば賣仕舞うりしまふて、腹掛はらがけのかくしへ若干金なにがしかをぢやらつかせ、弟妹おとうといもとひきつれつゝきなものをばなんでもへの大兄樣おあにいさん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
径二、三尺にもおよぶ大きな捏鉢こねばちだとか、非常に立派な箕だとか、手の込んだ蓑だとか、形の面白い編笠だとか、または紺の麻布に染模様のある馬の腹掛はらがけだとか、それは様々なものの陳列を見ます。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
むねには腹掛はらがけ
とんぼの眼玉 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
無雜作に投り出して、切り立ての牘鼻褌ふんどしに、紺の香が匂ふ腹掛はらがけのまゝ、もう一度ドシヤ降の中へさつと飛出しました。
盲目縞めくらじま股引ももひきをはき、じじむさいメリヤスのシャツの上に背中で十文字になった腹掛はらがけをしているのが、窮屈そうに見えるくらい、いかにも頑丈な身体つきである。
勲章 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そでのないどてらだから、入れ所に窮して腹掛はらがけの隠しへでもじ込んで置くものと見える。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
紺の股引ももひき腹掛はらがけを着た米友は、例の眼をクリクリさせて、自分のまわりを取捲いている群集を見廻し、高さ一丈二尺ほどある漆塗うるしぬりの梯子を大地へ押し出して、それに片手をかけました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
へえ、何人前なんにんまへ出るえ。長「何人前なんにんまへなんて葬式とむらひぢやアるまいし、菓子器くわしきへ乗せて一つよ。弥「たつた一つかア。長「がつ/\ふとはらを見られるは。弥「ぢやア腹掛はらがけをかけてきませう。 ...
にゆう (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
黒縮緬くろちりめんひともん羽織はおり足袋たび跣足はだしをとこ盲縞めくらじま腹掛はらがけ股引もゝひきいろどりある七福神しちふくじん模樣もやうりたる丈長たけなが刺子さしこたり。これは素跣足すはだし入交いりちがひになり、引違ひきちがひ、立交たちかはりて二人ふたりとも傍目わきめらず。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ずっとひどいのは、まるで紙屑買としか見えなかった。腹掛はらがけ股引ももひきも一人まじっていた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
腹掛はらがけ突込つっこんで帰りましたが、悪い事は出来ないもので、これが紀伊國屋へあつらえた胴乱でございます、それが為にのちに蟠龍軒が庄左衞門を殺害せつがいしたことが知れます。これはのちのことで。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
彼は時々表二階おもてにかいあがって、細い格子こうしの間から下を見下した。鈴を鳴らしたり、腹掛はらがけを掛けたりした馬が何匹も続いて彼の眼の前を過ぎた。みちを隔てた真ん向うには大きな唐金からかねの仏様があった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)