おこり)” の例文
それを聞くと、ハッチソンは弾かれたように腰を浮かし、まるでおこりにでもかかったように慄えていたが、やがてとぎれとぎれな声で
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「幽霊も大袈裟だがよ、悪く、蜻蛉にたたられると、おこりを病むというから可恐おっかねえです。縄をかけたら、また祟って出やしねえかな。」
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
また、福島県信夫郡平野村、医王寺境内にある信夫荘司の墓石が、おこりを治するに特効ありとて、これを砕きて持ち去るそうである。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
この恐ろしいスッパ抜きはかえって気分をサバサバとさせ、私はおこりが取れたように一時に肩が軽くなって、涙さえ止まってしまいました。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「本人は歸りたいに決つてゐます。あんな蛸入道たこにふだうおこりわづらつたやうな、五十男の手掛になつて、日蔭者で一生を送りたい筈はありません」
おこりの様に身をおののかせながら、でも、そんなでいて、やっぱり上の話声に聞き耳を立てないではいられなかったのでございます。
人でなしの恋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
余は淡路町の下宿に「大文学者」という四字を半紙に書いて壁に張りつけながらおこりを病んでうんうん言っていたことがあった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
勿論一種の信仰療法クリスチャンサイエンスなんだが、まずデイは、おこり患者を附添いといっしょに一室へ入れ、鍵を附添いに与えて扉を鎖さしめる。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
春濤は失意にくわうるにおこりわずらい、毅堂の帰府を待ち得ず悄然しょうぜんとして西帰の途に上った。これらの事は皆『春濤先生逸事談』に記述せられている。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私は、その瞬間、ぞっとして、背筋を冷たいものが走った様に感じたのでございます——おこり発作ほっさにでもとらわれたようなふるえを感じて参りました。
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
私は着くや否父の並びに床をとってもらい、打臥したが、右の西崎医の診察ではおこりだというのでその手当をした。数日間は随分熱も高く出て苦しかった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
あねさん、どうしただね!」教父クームは家のなかへ入るなり声をかけた。「お前さんまだおこりをふるつてるだかね?」
さうかそんぢやよし/\けえれなんていふもんだからほつといきつきあんした、おこりちたやうでさあはあ、そんだからわしなんぼにもあゝいところへはんな
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
すでに、都を立つまえから彼は持病のおこりをわずらっていた。それもえぬうち征途についていたのである。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
私はまるで猛烈なおこりの発作におそわれたように、頭のてっぺんから足の爪先つまさきまで、がたがた震えました。
ゆうべ何もかも過ぎ去ったように思ったのは、おこりの発作ののちに、病人が全快したように思うるいではあるまいか。又あのなぞの目が見たくなることがありはすまいか。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
気イ沈着ける心持で力ア入れて踏張ふんばれば踏張る程足イ顫えるが、ういうもんだろう、わしんなに身体顫った事アねえ、四年前におこりイふるった事が有ったがね
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「都合のいい言葉だ」と去定は云った、「高熱が続けばおこり、咳が出れば労咳、内臓に故障がなくてぶらぶらしていれば気鬱症、——おまえ今日からでも町医者ができるぞ」
おこりでぶるぶる震え、考える力も動く力もなく、憂鬱の暗がりのなかで、何日も何日も病臥した。
昔大竜大湖のほとりかわぬぎ、その鱗甲より虫出で頃刻しばらくして蜻蜓のあかきにる、人これを取ればおこりを病む、それより朱蜻蜓を竜甲とも竜孫ともいいえてそこなわずと載せたを見て
う頭の芯がシーンと冷めたくなって、まるでおこりのように、ぶるぶるふるえてしまうんですからね、まったく、子供だましみたいな話なんですけど、僕はこの恐怖のために
鱗粉 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
甚内がおこりわずらい出したということを聞き込んで、押入ってついにこれを捕縛することができた。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
弥三郎やさぶろう!」——わたしは舌さえ動かせたなら、こう叫んでいたかも知れません。が、声を揚げるどころかわたしの体はおこりを病んだように、ふるえているばかりでございました。
報恩記 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
さすがの迷亭もこの不意撃ふいうちにはきもを抜かれたものと見えて、しばらくは呆然ぼうぜんとしておこりの落ちた病人のように坐っていたが、驚愕きょうがくたががゆるんでだんだん持前の本態に復すると共に
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
蚊のくちばしといえば云うにも足らぬものだが、淀川両岸に多いアノフェレスという蚊の嘴は、其昔其川の傍の山崎村にんで居た一夜庵いちやあんの宗鑑のはだえして、そして宗鑑におこりをわずらわせ
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
どれだけ歯を喰い縛ってみても止らないです。仕様がないからそのまま倒れて居るとやっぱり震えて居る。まるでおこりが起ったような有様。……で大方二、三時間も震えて居ったでしょう。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
炮烙を捨つるは頭痛を直すまじない、火吹竹はおこりの呪とかいへどたしかならず。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
手前たちはほんとの大学出の医者が毎日に来てくれるのを有難えとも思わねえんだろな?——ジョン、頭を打ち割られたお前も、——ジョージ・メリー、まだ六時間とたたねえ前におこりをやって
まるでおこりの落ちた病人よろしく、ケロリとしたもので
メフィスト (新字新仮名) / 小山清(著)
「なじょでがす? 爺様じんつぁまおこりは?」
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「印度洋の特有な悪性のおこりらしい」
氷れる花嫁 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
おこりふるふ電線に
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
おこりか。」
花はまるでおこりに憑かれたように、ワナワナと体を慄わせながら微かに頷くと、真名古に手を取られてよろめくように課長室を出ていった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
また民間にて、おこりにかかるものは茄子なすを食するを忌む。その意味に、茄子は熟して落ちぬものなれば、落ちぬを嫌う故であるとのことだ。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
「本人は帰りたいに決っています。あんな蛸入道たこにゅうどうおこりを患ったような、五十男の手掛けになって、日蔭者で一生を送りたいはずはありません」
突然、おこりがおちたという感じで、あれ程うめき苦しんでいた三笠老人が、グッタリと死人の様に動かなくなってしまった。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ふざけるな。おこりは俺の持病なんだ。この持病の苦しみを、いちいち他人へことわッてから寝ろというのか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
霊廟れいびょうの土のおこりを落し、秘符ひふの威徳の鬼を追ふやう、立処たちどころに坊主の虫歯をいやしたはることながら、路々みちみち悪臭わるぐささの消えないばかりか、口中こうちゅうの臭気は、次第に持つ手をつたわつて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それが群臣の耳に入ったので、多年兵を動かして人臣辛苦まざるにこの上北海を攻むるようではとても続かぬ故王を除くべしと同意し、おこりを病むに乗じ蒲団蒸ふとんむしにしてしいした。
素足のままふところ手をしておこりにかかったかのようにがたがた震えている者、きみの悪いほど、白い硬ばった顔でときどきびくんと発条ばねじかけのように首だけ後ろへ振向ける者
柳橋物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
が、そうではないような気がして、おこりの発作にでもかかったかのようにぶるぶる震えた。その顔のなにが自分をそんなぐあいにどぎまぎさせたのであろうか? 私はじっと見つめた。
甚内が鳥越橋でお処刑しおきになる最後の時の言葉に、おこりさえ患わなければ、召捕られるようなことはなかったのだ、我れ死すとも魂魄こんぱくをこのに留め、永く瘧に悩む人を助けんと言いながら
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
どれもこれも蒲団の下でまるでおこりでもわづらつてをるかのやうにガタガタ震へて、まだその上に、自分の毛皮外套のなかへ頭を突つこみかねないことを、ちやんとわしは知つてゐるのぢや。
若い伯爵はおこりに苦しみながら、突然、絶望に陥った。
ひどい移り気キャプリシュウで、何かにひどく熱中するかと思うと、すぐ飽きて、次の日になるとおこりでも落ちたように見向きもしなくなる。
巻いてしまいました。——あとは無我夢中、気の付いた時は、ここへ帰って来ておこりのようにふるえておりました
私はもう夢中でした。丁度おこりにでもかかった様に、身体が小刻みに絶えず震えていました。腋の下から冷いものが、タラタラと腕を伝って落ちるのが分りました。
また、おこりと称する病を治する方法は、梨を厚く切りて、これに向かいて呪文じゅもんを唱うるなり。
妖怪学 (新字新仮名) / 井上円了(著)
霊廟れいびょうの土のおこりを落し、秘符の威徳の鬼を追うよう、たちどころに坊主の虫歯をいやしたはさることながら、路々みちみち悪臭わるぐささの消えないばかりか、口中の臭気は、次第に持つ手をつたわって
伯爵の釵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)