畢生ひっせい)” の例文
畢生ひっせいの智恵を絞って、ここに宝を埋めた人達のやった通りにやって見せるのも一興だろうと思って、こんな細工をやって見せたのだ。
古城の真昼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その中には、篤胤大人畢生ひっせいの大著でまだ世に出なかった『古史伝』三十一巻の上木じょうぼくを思い立つ座光寺の北原稲雄きたはらいなおのような人がある。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
学者が学問をもって畢生ひっせいの業と覚悟したるうえは、自身に政治の思想はもとより養うべきも、政壇青雲の志は断じて廃棄せざるべからず。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
いまかつて自制の人でないのはなく、何れも皆自己に割り当てられたる使命の遂行に向って、畢生ひっせいの心血をそそぐを忘れなかった。
寛永二十年の晩秋、彼が、岩殿山の一洞にこもって書いた「五輪書ごりんのしょ」は、武蔵としても、畢生ひっせいおもいをうちこんで筆を執ったものにちがいない。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雪之丞畢生ひっせいの大願は、これまでの経過から言えば、徐々に確実に運んでゆけば、必ず十分な成果を挙げることが出来ると信じられるのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
男児畢生ひっせい危機一髪とやら。あたらしい男は、つねに危所に遊んで、そうして身軽く、くぐり抜け、すり抜けて飛んで行く。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
二十八歳の時には選ばれてバイロイトの祝典劇場でワグナー畢生ひっせいの傑作「ニーベルンゲンの指輪」の世界初演にラインの乙女の大役を演じました。
お蝶夫人 (新字新仮名) / 三浦環(著)
現在に於ても、また将来に於てもそのために畢生ひっせいの力を尽して自己の生命の有らん限り、この運動を続けようと思う。
吾人の文明運動 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
... しめて来たまえ(大)夫や実に難有ありがた畢生ひっせい鴻恩こうおんだ」谷間田は卓子ていぶるの上の団扇うちわを取り徐々しず/\と煽ぎながら少し声を低くして
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
吉六は東栄にふんした後、畢生ひっせい東鯉と号したが、東は東栄の役を記念したので、鯉は香以の鯉角から取ったのである。
細木香以 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
いずれにしても、危険の刻々に迫るのを見て取った道庵は、ほとんど畢生ひっせいの力を出して、抑えてみたが、前にいう通り、道庵の力では相撲にならない。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
一生を棒に振ってかじりついて来た畢生ひっせいの事業である、いくら、こちらで金を出してやったからと云って、御本尊の小森に二割五分というのはいけない
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
せめて元田宮中顧問官でも生きていたらばと思う。元田は真に陛下を敬愛し、君をぎょうしゅんに致すを畢生ひっせいの精神としていた。せめて伊藤さんでも生きていたら。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
吾人ごじんはこれよりこの前後における、彼が畢生ひっせいの本領たる攘夷尊王説の発達変化について、観察するを要す。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
仮令たとい馨子凱歌の中に光栄の桂冠けいかんいただくを得ざりしにせよ、彼女の生はその畢生ひっせいの高貴なるほのおのあらん限を尽して戦い、戦の途上戦い死せる光栄ある戦死者の生也。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
吾輩が畢生ひっせいの研究事業である精神科学の根本原理……即ち心理遺伝と名づくる研究発表の結論となるべき実験が、芽出度めでたし芽出度しになる手筈になっているのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その子が、不出来であろうが、まずい顔をしていようが、まず息災そくさいにすくすくと伸びていくさまを見るほど、心安さはないのである。子供を育てるのは畢生ひっせいの大事業だ。
小伜の釣り (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
一八二二年、ベンサムは齢既に七十五の高齢に達したが、その畢生ひっせいの力を法典編纂の業に尽そうと欲する熱望はごうも屈することなく、老いてますますさかんなる有様であった。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
支那においても儒教は帝王の権力を固めるために利用せられたのと官吏となることを畢生ひっせいの目的としていた知識人がその官吏となるに必要な知識として学習せられて来たのと
氏が書に対する不明は、今その顕著なる物を求めていえば、彼の畢生ひっせいになるところの『大正名器鑑』の表紙である。『大正名器鑑』は彼の畢生の大事業であって大著述であった。
高橋箒庵氏の書道観 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
所謂いわゆる最後の通告を彼らに向って与えんとして、しかも幾度か躊躇したのである、けれどもこの場合となって、もはや一刻も猶予することは出来ぬ、彼は実に畢生ひっせいの勇気を鼓して
太陽系統の滅亡 (新字新仮名) / 木村小舟(著)
動きの多い空の雲の隙間すきまから飴色あめいろの春陽が、はだらはだらにし下ろす。その光の中に横えられたコンクリートの長橋。父が家霊に対して畢生ひっせいの申訳に尽力して架した長橋である。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
諭吉が机上きじょう学問がくもんじつにしたるものにして、畢生ひっせいの利益これより大なるはなし。
そこで謹慎きんしんするようになってから、はじめて、彼は、自分がこのひと月狂乱にとりまぎれておの畢生ひっせいの事業たる修史しゅうしのことを忘れ果てていたこと、しかし、表面は忘れていたにもかかわらず
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
それが彼の畢生ひっせいの大事業であった。あたかもフランスの地方の中流人らが、オルレアンの少女の歌をすっかり諳誦あんしょうするように、彼はその辞典の綱目をことごとく諳誦し得たかもしれない。
なんという浅はかな人たちなのであろう! ゴリラ言語までを研究し、遠き第四紀氷河時代カイノゾイク・エラにおいて、人類は猿類より出でゴリラより進化せる人猿同祖論に帰結するこそ父様畢生ひっせいの御研究なのだ。
令嬢エミーラの日記 (新字新仮名) / 橘外男(著)
公園の薄茶一碗突合わずに居た目賀田貞之進が、愚直と斥けられた今に及んで、たとい自分が芸妓を呼たいためといわないまでも、聞くさえが畢生ひっせいの恥辱のように思われ、どうしたらいいかということが
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
以テ彼ノ大学企図ノ大業ニ従フヲ以テ我畢生ひっせいノ任トナシ其任ヲ遂グルヲ以テ我無上の娯楽トナスノ外あえテ富貴ヲ望ムニ非ズ今ヤコノ書ノ発刊ニ臨ミテ之ヲ奇貨きかトシ又何ゾみだリニ巧言こうげんろうシテ世ヲあざむキ以テ名ヲもとメ利ヲ射ルノ陋醜ろうしゅうヲ為サンヤ敢テ所思ヲ告白シテ是ヲ序ト為ス
その間においてワグナーは畢生ひっせいの大傑作、——四部作の大楽劇「ニーベルンゲンの指環ゆびわ」のほとんど全部を完成したのである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
見台の上に、先師畢生ひっせいの大きな著述とも言うべき『古史伝』稿本の一つが描いてあったことも、半蔵には忘れられなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼はただ対者の欠陥を察し、これに智慧の光を注ぐことをもって、畢生ひっせいの念願とする。それが真の仁者である。が、世には往々おうおう仁者の偽物がある。
「呉を滅ぼさんは、わが畢生ひっせいねがいである。その目的に添うことならば、あらためて非礼を謝し、謹んで汝の言を聞こう」
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまたま外国修業の書生などがかえって来て、僕は畢生ひっせい独立の覚悟で政府仕官は思いも寄らぬ、なんかんと鹿爪しかつめらしく私方へ来て満腹の気焔きえんを吐く者は幾らもある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
卒業論文には、国史は自分が畢生ひっせいの事業として研究する積りでいるのだから、いやしくも筆をけたくないと云って、古代印度インド史の中から、「迦膩色迦王かにしかおう仏典結集ぶってんけつじゅう
かのように (新字新仮名) / 森鴎外(著)
畢生ひっせいの心血を傾注した最高等の探偵術を応用しつつ、無限の時空に亘って捜索の歩を進めた結果
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここぞ御自分の畢生ひっせいの御修行場と思召して、お頂上、中道ちゅうどう人穴ひとあな、八湖、到るところであらゆる難行苦行をなさいました、それからいったんお国許へお帰りになりまして
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
もし陛下の統治し給う大帝国の立法事業改良のために、臣の残躯を用い、臣をして敢えて法典編纂のために微力を尽すを得しめ給わば、臣が畢生ひっせいの望はこれを充たすになお余りありというべし。
法窓夜話:02 法窓夜話 (新字新仮名) / 穂積陳重(著)
畢生ひっせいの大願としている、例の復讐ふくしゅうの望みを聴き知ったのを幸い彼の計画の一切を、曝露ばくろして、存分につらい目を見せてやらねばならないと、決心したのであったが、しかし、この門倉平馬という
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
出征する年少の友人の旗に、男児畢生ひっせい危機一髪、と書いてやりました。
(新字新仮名) / 太宰治(著)
局面打破は、彼が畢生ひっせいの経綸なりき、果してしからば彼はこの経綸に孤負こふせざる手腕と性行とを具有したるか。手腕はイザ知らず、性行に到りては、優にこれを有す。しかり、彼は実に革命の健児なり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
もしいま都督が東南の風をおのぞみならば、わたくしが畢生ひっせいの心血をそそいで、その天書に依って風を祈ってみますが——
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一八七六年には有名な「スラヴ行進曲」を書き、翌七七年には畢生ひっせいの傑作歌劇「エウゲニ・オニエギン」を完成した。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
就中なかんずく彼が畢生ひっせいの心血をそそいだのは心霊問題で、これが為めには、如何いかなる犠牲をも払うことを辞せなかった。
工たり、商たり、また政治家たり。あるいは学成るもなお学問を去らず、畢生ひっせいを委ねて学理の研究または教育の事を勉むる者あり。すなわち純然たる学者なり。
学問の独立 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
山吹から来た門人らの説明によると、これは片桐春一が畢生ひっせいの事業の一つとしたい考えで、社地の選定、松林の譲り受け、社殿の造営工事の監督等は一切山吹社中で引き受ける。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……のみならず、その君の言明を、自分の畢生ひっせいの事業としている『精神科学的犯罪とその証跡』の第一例として掲げようとたくらんでいるスジミチが手に取る如くわかって来たのだ。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
畢生ひっせいの力をふるって、こう言ったお松の舌は雄弁でした。平静に、平静にとつとめながら、その間からほとばしる熱情が、火花のように散るのを、駒井はさかんなものをながめるかの如くに見つめて
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼はいまや、畢生ひっせいの智と力と、そして、のるかそるかの一擲いってきけて——越中魚崎での対上杉軍との戦場を捨て——急遽きゅうきょ、上洛の途中にあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
畢生ひっせいの大傑作「冬の旅」二十四曲は、一曲わずかに一フロリンずつで買われた。珠玉を鐚銭びたせんに代える如きものであるが、出版屋はそれをさえ恩に着せた。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)