生前せいぜん)” の例文
しもあの懐剣かいけんが、わたくしはかおさめてあるものなら、どうぞこちらに取寄とりよせていただきたい。生前せいぜん同様どうようあれを守刀まもりがたないたうございます……。
ただその生前せいぜん一枚のハガキが、その遺族の許に送られていたが、それによると、あの大将と最近大発見をしたから、やがて大金持になって
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして、はは生前せいぜん毎晩まいばんのように、さけをさかずきについであげたのをていて、ははのちも、やはり仏壇ぶつだんさけをさかずきについであげました。
さかずきの輪廻 (新字新仮名) / 小川未明(著)
即ち将軍は幕下ばくかの彼が為め死後の名を石に書き、彼は恩人の為に生前せいぜんの断片的記伝を紙の上に立てたわけである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかりとはいへども、生前せいぜんをとりてしたしかりしときだに、そのかたちるにかず、そのこゑくをたらずとせし、われら、きみなきいま奈何いかんせむ。おもひ秋深あきふかく、つゆなみだごとし。
芥川竜之介氏を弔ふ (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ゆっくりしてかえったので親の生前せいぜんにあうことが出来ず、その罰で今も日に三どずつ生水なまみずを吐いて、ひもじい思いをしているが、雀ははたごしらえをしていた苧桛おがせを首にかけたまま
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ちゝくなつた此際このさいにも、叔父をぢ都合つがふもとあまかはつてゐない樣子やうすであつたが、生前せいぜん義理ぎりもあるし、またをとこつねとして、いざと場合ばあひには比較的ひかくてき融通ゆうづうくものとえて
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
またせめては先生の生前せいぜんにおいて、予がいかにこの感泣かんきゅうすべきこの感謝かんしゃすべき熱心ねっしんと、いかにこの欣戴きんたいかざる衷情ちゅうじょうとをつぶさにいもいでずして今日に至りたるは、先生これをなんとか思われんなどと
生前せいぜんの日の遺言状ゆゐごんじやう秘密ひみつのごとくに刺草いらくさあひだに沈み
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ついでながら、わたくしわたくし生前せいぜん良人おっととの関係かんけいいま依然いぜんとしてつづいてり、しかもそれはこのまま永遠えいえんのこるのではないかとおもわれます。
生前せいぜん原稿を毎日書いていた位の男が、死ぬと急に原稿が何であるかということを知らなかったのはどうもおかしい。
生前せいぜん顔を合わすれば棒立ぼうだちに立ってよくは口もきけず、幼年学校でも士官学校でも学科はなまけ、病気ばかりして、晩年には殊に謀叛気むほんぎを見せて、恩義をわきまえたらしくもなかった篠原良平が
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
それからもうひと道中どうちゅう姿すがたくてはならないのが被衣かつぎ……わたくし生前せいぜんこのみで、しろ被衣かつぎをつけることにしました。履物はきものあつ草履ぞうりでございます。
「先生の身体は、もう亡くなっているのです。それは、先生の霊を生前せいぜんへお迎えするために使っている霊媒メディウムの御婦人の身体なのです。お判りですか」
西湖の屍人 (新字新仮名) / 海野十三(著)
赤鬼青鬼にひったてられて亡者もうじゃがこの鏡の前に立つと、亡者生前せいぜん罪悪ざいあくが一遍の映画となって映り出す。この大魔鏡だいまきょうこそは航時機タイムマシーンを併用して居る無線遠視器である。
十年後のラジオ界 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
それは第二の犠牲者たるふみ子の肩のところに貼ってある万創膏ばんそうこうについて生前せいぜんふみ子が、おできが出来たとか、傷が出来たとか言っていなかったかという質問である。鈴江は知らないと答えた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と、彼ははらわたからふり絞るような声で、愛弟あいてい生前せいぜんの名を呼んだ。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)