犢鼻褌ふんどし)” の例文
これを差し留められるのは、彼等が縮緬ちりめん犢鼻褌ふんどしなど買つて、久し振りに沖から歸つて來る時の樂みを奪はれるやうなものであつた。
避病院 (旧字旧仮名) / 正宗白鳥(著)
八五郎は遊んで居る片手を働かせて、内懷から腹掛の丼から、犢鼻褌ふんどしつまで搜つて居ります。女巾着切と思込んだのです。
よく見ると、その上に殿様が裸のまゝ胡坐あぐらを掻いてゐた。ほんの素つ裸で、たつた一つ紅絹もみ犢鼻褌ふんどしを締めてゐるだけだつた。
七日がすぎると土手の甚藏が賭博ばくちに負けて裸体ぱだかになり、寒いから犢鼻褌ふんどしの上に馬の腹掛を引掛ひっかけて妙ななりに成りまして、お賤の処へ参り
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
冬でも着物のまま壁にもたれて坐睡ざすいするだけだと云った。侍者じしゃをしていた頃などは、老師の犢鼻褌ふんどしまで洗わせられたと云った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殊に漁師の常として海上で働くときは、丸裸の犢鼻褌ふんどし一つであるから、持物で誰彼を知ることは困難である。
屍体と民俗 (新字新仮名) / 中山太郎(著)
と、ぶつぶつ云いながら、一枚脱ぎ、二枚脱ぎ、ついに、真ッ裸になって赤い犢鼻褌ふんどし一つになってしまった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
犢鼻褌ふんどし無用の世となれば義理も大に欠いて然るべし。義理とは何ぞや。歳暮新春の進物はいうに及ばず人の家に冠婚葬祭の事あれば必ず物を贈答することなり。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そはとにかくに糞の歌も、厠の歌も、犢鼻褌ふんどしの歌も、腋毛わきげの歌も、かさの歌も歌として書に載せられをる事実は争ふべきにあらず。歌必ずしもことごとく上品ならんや。
人々に答ふ (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
取り食ふなどは昔噺むかしばなしの草双紙などには有る事にて、三歳の小児も今の世には信ぜざることなり、其鬼は青鬼か赤鬼か、犢鼻褌ふんどしは古きや新しきやなど嘲り戯れつつ……
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふざけ者が土用干の時の戯れのように犢鼻褌ふんどし一ツで大鎧を着たというのでは無く、鎧直垂を着けないだけであったろうが、それにしても寒いのには相違無かったろう。
蒲生氏郷 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
その頃江戸川べりに住んでいた私は偶然川畔かわべり散策ぶらついていると、流れをりて来る川舟に犢鼻褌ふんどし一つで元気にさおをさしてるのが眉山で、吉原よしわら通いの山谷堀さんやぼりでもくだ了簡りょうけん
私は日本で有名な海水浴場の傍に十週間住んでいたが、このような有様にいささかなりとも似通ったことは断じて見受けなかった。男は裸体でも必ず犢鼻褌ふんどしをしている。
ぢき裏の路地の奥に蓬莱豆をこしらへる家があつて倶梨迦羅紋紋くりからもんもんの男たちが犢鼻褌ふんどしひとつの向ふ鉢巻で唄をうたひながら豆を煎つてたが、そこは鬼みたいな男たちが怖いのと
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
生憎あいにく柱損じて如何ともするあたわず、急に犢鼻褌ふんどしを解き、かいを左右のげんに結び、二人極力これをうごかす、忽ちにしてふんどし絶つ。急に帯を解き、これを結び、蒼皇そうこう以て舟をる。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
たとへばワーテルローの陣に雷が落ちて将軍級のもの、ネーあたりが撃たれて死んだと云つても、雷をば角の生えたとらの皮の犢鼻褌ふんどしをした生物とはいかにしても聯想が向かない。
雷談義 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
而してそこで岡田の着物をぬがせ、彼は犢鼻褌ふんどしひとつの姿になってそこに立たせられた。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
心配するなッ、犢鼻褌ふんどしいたッても、お前方を殺すことじゃあねえぞ。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
木綿の布六尺、纏うて腰部を蔽ふもの、これを犢鼻褌ふんどしと謂ふ。越中、もつこう等はまた少しく異なれり。長崎日光のへんにて、はこべといひ、奥州にてへこしといふも、こはたゞ名称の異なれるのみ。
当世女装一斑 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
犢鼻褌ふんどしあごにはさむやはじめ 汶村ぶんそん
古句を観る (新字新仮名) / 柴田宵曲(著)
ば助けてやるがよし誰樣どなたも客人方に盜まれし品はなきやといふにとなり座敷の客は寢惚眼ねぼけまなこにてキヨロ/\しながら拙者は大事の者が見えぬなり早々さう/\詮議せんぎなされて下されよと云ゆゑ大事な者とは何なりやとひけるに客人ちと申兼たるが御寶おたから紛失ふんじつ致し然も昨日きのふかひたてなりと云ば皆々成程犢鼻褌ふんどしでござるか夫は
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
八五郎は遊んでいる片手を働かせて、内懐から腹掛の丼から、犢鼻褌ふんどしの三つまでさぐっております。女巾着切きんちゃくきりと思込んだのです。
彼はそれを犢鼻褌ふんどしのミツへはさんでいるか、または胴巻どうまきへ入れてへその上に乗っけているか、ちゃんと見分ける女なんだから、なかなか油断はできないよ
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ホワイトシャーツもまたその如し。然れどもメリヤスの肌着に至つては犢鼻褌ふんどしも同様にて、西洋にては如何なる場合にも決して人の目に触れしむべきものにあらず。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「人間も犢鼻褌ふんどし一つで、子供の枕もとで蚊を焼いて歩くやうになつちや、もうから意気地もない。」
犢鼻褌ふんどしだけを身につけた三人の日本人——小さな、背の低い人たちだが、恐ろしく強く、重いトランクその他の荷物を赤裸の背中にのせて、やすやすと小舟に下した——が
金松かねまつと云う奴がいて、其奴そいつこわれた碌でもねえ行李こりを持っていて、自分の物は犢鼻褌ふんどしでも古手拭でもみんな其んなけえ置くだ、或時おれが其の行李を棚からおろしてね、明けて見ると
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
我もそを聞きて半黒を善きもののやうに思ひし事あり。またこの夜四辻にきたなき犢鼻褌ふんどし炮烙ほうろく火吹竹ひふきだけなど捨つるもあり。犢鼻褌のたぐいを捨つるは厄年の男女その厄を脱ぎ落すの意とかや。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
此盆にも此の正月にも心付して呉れたお吉と気がついて八五郎めんくらひ、素肌に一枚どてらのまへ広がつて鼠色ねずみになりし犢鼻褌ふんどしの見ゆるを急に押し隠しなどしつ、親分、なんの、あの、なんの姉御だ
五重塔 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
どんなに眠かったか、素肌の上に半纏はんてん一枚羽織って、胸毛と一緒に、掛守かけまもりと、犢鼻褌ふんどしが、だらしもなくはみ出します。
もっとも地獄の沙汰さたも金次第というから犢鼻褌ふんどしのカクシへおひねりを一つ投げこめば鬼の角も折れない事はあるまいが生憎あいにく今は十銭の銀貨もないヤ。ないとして見りャうかとはして居られない。
(新字新仮名) / 正岡子規(著)
男の犢鼻褌ふんどし女にあって腰巻と云うの類か。男の越中は婦女のオンマ。物同じくして名を異にするものあに独り下駄のみならんや。つらつら足駄を眺むるに二枚の歯あり三個の眼ありこれ其の赤裸の本体。
偏奇館漫録 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
侍者じしやをしてゐたころなどは、老師らうし犢鼻褌ふんどしまであらはせられたとつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
裸といったって、勿論必ず犢鼻褌ふんどしはしめている。
どんなに眠かつたか、素肌の上に半纒はんてん一枚羽織つて、胸毛むなげと一緒に、掛守りと、犢鼻褌ふんどしが、だらしもなくはみ出します。
無雑作にほうり出して、切り立ての犢鼻褌ふんどしに、紺の香が匂う腹掛はらがけのまま、もう一度ドシャ降りの中へさっと飛出しました。
クルリと尻をまくると、両方の尻にかえるとなめくじを彫って犢鼻褌ふんどしつの上に、小さく蛇がとぐろを巻いております。
クルリと尻をまくると、兩方のしりかへるとなめくぢを彫つて犢鼻褌ふんどしの三つの上に、小さく蛇がとぐろを卷いて居ります。
「安心して下さい、ありゃ確かに男ですよ。毛脛けずねが大変で——その上切り立ての犢鼻褌ふんどしをして、威張って居ましたよ」
「安心して下さい、ありや確かに男ですよ。毛脛けずねが大變で——その上切り立ての犢鼻褌ふんどしをして威張つてゐましたよ」
「汚い手拭だな、犢鼻褌ふんどしと手拭だけでも、切り立てのパリツとしたのをたしなみにしろ。若い者が見つともねえ」
「癪だの意地だのてえものは、犢鼻褌ふんどしつにでもくるんで人樣の前へは出さねえ方が無事だぜ」
唐桟とうざんを狭く着て、水髪みずがみ刷毛先はけさきを左に曲げた、人並の風俗はしておりますが、長い鼻、団栗眼どんぐりまなこ、間伸びのした台詞せりふ、何となく犢鼻褌ふんどしが嫌いといった人柄に見えるから不思議です。
唐棧たうざんを狹く着て、水髮の刷毛はけ先を左に曲げた、人並の風俗はして居りますが、長い鼻、團栗眼どんぐりまなこ、間伸びのした臺詞せりふ、何となく犢鼻褌ふんどしが嫌ひといつた人柄に見えるから不思議です。
犢鼻褌ふんどしの三つもくゝらうと思ひましたがね。相手が有難さうにして居るから、罰でも當つちや惡からうと、叔母さんが拵へてくれた肌守りの中に封じ込んで來ましたよ、この通り」
「河童の元結や犢鼻褌ふんどしの乾かないうちに縛りたいところだ」