はしゃ)” の例文
「あらッ!」とお宮は、入って来るからちょうど真正面まともにそっち向きに趺座あぐらをかいていた柳沢の顔を見てはしゃいだように笑いかかった。
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
些細ささいのことではしゃいだり、又逆に不貞腐ふてくされた。こういう性質たちのものは、とうてい我々のような仕事をやって行くことは出来ない。
党生活者 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「好いお天気」の聯想、「蝉」の想像も盲目の自分にはつかないのに妻はまたひとりではしゃいでいるとでも思っているのではなかろうか。
明暗 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
昨夜あんなにはしゃいだのは、ただ訳もなく酔っ払っていただけなのだ。………この妹は自分のことより外に何も考えない人なのだ。………
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
お島はそうした男たちと一緒に働いたり、ふざけたりしてはしゃぐことがすきであったが、誰もまだ彼女のほおや手に触れたという者はなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はまだはしゃいでる一同の後ろから、この不意な、そして無遠慮な異郷人の闖入行為を立ちすくんで恥じねばならなかった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
名古屋の客は、あとで、廓の明保野で——落雁で馴染の芸妓を二三人一座に——そう云って、はしゃぎもしたのだそうで。
古狢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
不味まずい紅茶だの菓子だのを取り寄せながら、私の枕元で夜遅くまで芝居や活動の話をしいしい、何の他愛もなくキャッキャとはしゃいで帰って行ったので
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
君の実感のこもった猥談わいだんでも聞こうじゃないか、と阿部は急にはしゃいだ調子になって、書類を懐に入れ、手を叩いた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
おかみさんはきいきいって、火箸ひばしでぶとうとするし、子供達こどもたちもわいわいはしゃいで、つかまえようとするはずみにおたがいにぶつかってころんだりしてしまいました。
その不安定な無名指に異様な顫動せんどうが起って、クリヴォフ夫人は俄然はしゃぎだしたような態度に変ったからだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
はしゃいでいて、昼から滅入ったとか、昼まで滅入っていて、夕方から元気になったとか——、ともかく、真物ほんものの主人が殺されるまで一日の間に、様子の変った人間はなかったか
本当に深い香りをただよわせる花です。それがはしゃぎきった空気の中を遠くまで流れて行きます。小鳥も人間も、この香りに花の在所へとさそわれるのです。鼻の感覚の鈍くなったお爺さんもです。
季節の植物帳 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
朝起懸けから、飲めるぜとばかりで、酒を買いに行く者、さかなを拵える者、その中には万年屋の女房も交って、人一倍はしゃいでいる。元方もとかたの銭占屋は気のない顔をして、皆のする様を見ていた。
世間師 (新字新仮名) / 小栗風葉(著)
細君ははしゃいだ唇に、ヒステレックな淋しいみを浮べた。筋の通った鼻などの上に、まだらになった白粉のあとが、浅井の目に物悲しく映った。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
明日はいよいよ乗船すると云う前の晩には、ローゼマリーは特に許されて悦子の部屋に泊ったが、その夜の二人のはしゃぎようと云ったらなかった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「はあ、これなればこそけれ、聞くも可恐おそろしげな煙硝庫えんしょうぐらが、カラカラとしてはしゃいで、日が当っては大事じゃ。」
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
N老人と警部のA君が飛び込んで来て、俊敏のF君が奮起し、それに私までがはしゃぎ出したので、重厚のHさん、風邪ひきなまずのわが庄亮までが、よし行こうとなった。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
ガタガタする車体の中で、メチャメチャにはしゃいでお出でになった三人は、私が安全剃刀の刃で、後窓アイホール周囲まわりをUの字型に切抜くのをチットモお気付きになりませんでした。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
げ、注げ、今日はわがうんこ会社のために大宴会を張るのだ、と阿部は黄色い声をあげ、小森君、僕は八年前からこの女子おなごに惚れて居るのじゃ、というのはうそじゃ、などとはしゃいだ。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
健は昨日からのお恵のはしゃいだ、ソワソワした態度にムカムカしていた。
不在地主 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「では、その男は死人の室を、親しきものが行き通うがごとくに、戻っていったと仰言おっしゃるのですね」とクリヴォフ夫人は、急にはしゃぎ出したような陽気な調子になって、レナウの「秋の心ヘルプストゲフュール」を口にした。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
豊作が先ず斯う、はしゃいだ口調で切り出したのであった。
都会地図の膨脹 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「あら、ご馳走ちそうさま、けますわ」とはしゃいでいった。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
外は今日も暑い日が照りはじめているらしい。路次のなかの水道際すいどうぎわに、ばちゃばちゃという水の音がしてバケツのつるの響きがはしゃいで聞えた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
羽目も天井も乾いてはしゃいで、すす引火奴ほくちつぶてが飛ぶと、そのままチリチリと火の粉になって燃出しそうな物騒さ。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに今宵は誰も彼もが羽目をはずしてはしゃいでいるのに、どう云うわけか平中はひとり沈んで、自分だけは酒がうまくないと云いたげな様子をしているのであった。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
私があんなに打ち解けて皆様と一緒に愉快そうにはしゃいだ事は生まれて初めてだったでしょう。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
盛んにはしゃいで、昔のパンの会の話やら、その頃の私たちの唄をせがまれるままに歌って、大恐悦で教授したこと、それから、みんなの顔のスケッチをする、胴上げはされる。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そしてちいさいおりから母親にびることを学ばされて、そんな事にのみさとい心から、自然ひとりでことさら二人に甘えてみせたり、はしゃいでみせたりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
幼いものは、驚破すわというと自分の目を先にふさぐのであるから、敵の動静はよくも認めず、血迷ってただはしゃぐ。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
葡萄酒のせいもあるかも知れないが、雪子はさすがによくはしゃいで例になくおしゃべりをした。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
「私横浜の叔母のところへ行けば、少しは相談に乗ってくれますよ。」お銀ははしゃいだような調子で、披露ひろうのことなどをいろいろに考えていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お嬢様も近々御縁がきまりますそうで、おめでとう存じます、えへへ、とはしゃいだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
野村は非常なはしゃぎ方で、子供のように喜んでしまって、海の方が見える座敷の雨戸を大急ぎで開けさせ、書斎を見て戴きましょうと云って、ついでに家じゅうの部屋を台所まで案内して廻った。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
機嫌のいい時には、これまで口にしたこともなかった、みだらな端唄はうたの文句などを低声こごえうたって、一人ではしゃいでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
路傍みちばたに石の古井筒があるが、欠目に青苔あおごけの生えた、それにも濡色はなく、ばさばさはしゃいで、ながしからびている。そこいら何軒かして日に幾度、と数えるほどは米を磨ぐものも無いのであろう。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひどく興奮してはしゃいだりした。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
はしゃいだ舗石しきいしのうえに、下駄や靴の音が騒々しく聞えて、寒い風が陽気な店の明り先に白い砂を吹き立てていた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「陰気だ陰気だ、此奴こいつ滅入めいって気が浮かん、こりゃ、汝等わいら出てはしゃげやい。」
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
二階の連中と出しっこをして、菓子も水ものを買って、それを食べながら、花を引いたり、はしゃいだ調子で話をしたりするうちに、夜寄席よせへ行く約束などが出来た。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
いつもそこに集まって陽気にはしゃいでいる芸術家仲間の雰囲気ふんいきも、てがたいものであった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お銀のちょっとしたはしゃいだ口の利き方や、いらだちやすい動物をおひゃらかしてよろこんでいるような気軽な態度を見せられるたんびに、笹村をして妻を太々しい女のように思わしめた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
はしゃぎきったひさしにぱちぱちと音がして、二時ごろ雨が降って来た。その音にお庄は目をさまして、急いで高い物干竿ものほしざおにかかっていた洗濯物を取り入れた。中にはまだ湿々じめじめしているのもあった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
しかし間もなく錦紗きんしゃの絞りの風呂敷包ふろしきづつみが届いて、葉子がそのつもりで羽織を着て、独りではしゃぎ気味になったところで、今夜ここで一泊したいからと女中を呼んで言い入れると、しばらくしてから
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
三時ごろ、お庄は帳場の蔭で、新聞の三面記事に読みふけりながら、そうした世間や自分の身のうえなどをいろいろに考えていた。広い通りには折々荷車が通って、はしゃぎきった砂がぼこぼこと立った。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)