残忍ざんにん)” の例文
旧字:殘忍
後世こうせい地上ちじょうきたるべき善美ぜんびなる生活せいかつのこと、自分じぶんをして一ぷんごとにも圧制者あっせいしゃ残忍ざんにん愚鈍ぐどんいきどおらしむるところの、まど鉄格子てつごうしのことなどである。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
こうおもった瞬間しゅんかん、いままでのあたまなかのなごやかなまぼろしはえてしまって、そこには、残忍ざんにんな、なまぐさい光景こうけいが、ありありとかびました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
その青白い皮膚ひふの色と、つめたい、するどい眼の光とは、むしろ神経質な知識人を思わせ、また一方では、勝ち気で、ねばっこい、残忍ざんにんな実務家を思わせた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
にくいにはあくまで憎いであろうが、一つはこの女の性質が残忍ざんにんなせいでもあろうか、またあるいは多くの男に接したりなんぞして自然の法則を蔑視べっしした婦人等おんなたち
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
なんという残忍ざんにん微笑びしょううかべながら、わたしはこの『なんにも』という句を、繰返くりかえしたことだろう!
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
侠客きょうかくといわれる者は、他にもあるが、「ドテラ婆さん」のような、男か女かわからない、人を殺すことを屁とも思っていない、執拗残忍ざんにんな女に逢ったのははじめてだ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
けわしい眼をした残忍ざんにんそうではあるが、ともかくも若い顔になったのである。するとまたここへ、かの黒い影がおおって来て、前のごとくにかれらを暗いなかへ包み去った。
西南戦争ののち程もなく、世の中は、謀反人むほんにんだの、刺客しかくだの、強盗だのと、殺伐さつばつ残忍ざんにんの話ばかり、少しく門構もんがまえの大きい地位ある人の屋敷や、土蔵のいかめしい商家の縁の下からは
(新字新仮名) / 永井荷風(著)
しかし、異様いようなその風態ふうていは、牛丸平太郎からなんども聞かされていた。鬼にもひとしい四馬頭目の残忍ざんにんぶりは、戸倉老人や牛丸平太郎から、耳にたこができるほど聞いていた。
少年探偵長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いくらばちになったにしろ、よくこんな、残忍ざんにんな盗みができることと思うが、を考えると、富士の人穴ひとあなをかまえていた時から、和田呂宋兵衛、このほうが本業なのだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は腕組みをしながら、ひたいに残忍ざんにんな八の字をよせて、窓のきわに腰をかけていた。こうしていると、まったく彼はナポレオンに生き写しであった。リザヴェッタもそれを深く感じた。
悍悪かんあくの事に狼の字をいふもの○残忍ざんにんなるを豺狼さいらうの心といひ○声のおそろしきを狼声らうせいといひ○どくはなはだしきを狼毒らうどくといひ○事のみだりなる狼々らう/\反相はんさうある人を狼顧らうこなきを中山狼○ほしいまゝくふ狼飡らうざんやまひはげしき
左膳の一眼が残忍ざんにんな光を増した。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
このとき、あねは、残忍ざんにんわらいをかおにうかべました。そして、勝利者しょうりしゃのごとく、どこかへってしまいました。
灰色の姉と桃色の妹 (新字新仮名) / 小川未明(著)
悍悪かんあくの事に狼の字をいふもの○残忍ざんにんなるを豺狼さいらうの心といひ○声のおそろしきを狼声らうせいといひ○どくはなはだしきを狼毒らうどくといひ○事のみだりなる狼々らう/\反相はんさうある人を狼顧らうこなきを中山狼○ほしいまゝくふ狼飡らうざんやまひはげしき
だから、むろん、祭壇さいだんはあれほうだいだし、もとの教会堂きょうかいどうには、やり鉄砲てっぽうをたくわえこみ、うわべこそ伴天連バテレン黒布こくふをまとっているが、心は、人穴ひとあな時代からかわりのない残忍ざんにんなるかれであった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし、だれかむらのものがこのさまたら、あの平常ふだんくちもきかないおとこに、こんな残忍ざんにんなことができるかと、かつて想像そうぞうのできなかっただけびっくりするでしょう。
火を点ず (新字新仮名) / 小川未明(著)
かみさまのあたえられた生命いのちうばってしまうという、残忍ざんにん行為こういは、ゆるされないのでないかね。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
なれない百しょうだな。」とおもって、かれも、まって、そのかお見上みあげますと、赤銅色しゃくどういろけて、角張かくばったかおは、なんとなく、残忍ざんにんそうをあらわして、あちらをにらんで
死と話した人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
そうおもうと、いいれぬ不快ふかいを、だれがしたか、この残忍ざんにん行為こういからかんじられました。きているとり本位ほんいにして、かえって、無理むりとりちいさくしようとする、冷酷れいこくさをおもわずにいられません。
自由 (新字新仮名) / 小川未明(著)
「おたがいに、愛情あいじょうがあり、しんせつだったから、万物ばんぶつちょうといわれたが、いまは、残忍ざんにんなこと、ほかの動物どうぶつでないから、かえって、悪魔あくまちかいといえるだろう。」と、S少年エスしょうねんがいいました。
太陽と星の下 (新字新仮名) / 小川未明(著)
これをると、残忍ざんにんあねは、あまりのうれしさに身震みぶるいがしたのです。
消えた美しい不思議なにじ (新字新仮名) / 小川未明(著)
と、なみだのない残忍ざんにんなことをいったものもあります。
黒い旗物語 (新字新仮名) / 小川未明(著)