手土産てみやげ)” の例文
彼は其足で更にお馨さんの父母を訪うことにした。銀座で手土産てみやげの浅草海苔を買ったら、生憎あいにく御結納おんゆいのう一式調進仕候」の札が眼につく。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
彼は酒や肉を買って片手に抱え、また嫂のよろこびそうな手土産てみやげなども二つ三つ持って、久しぶり紫石街しせきがいの茶店隣の芦簾あしすだれのぞき込んだ。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だが、或人の説によると、そんなに手数てすうの要る事をするよりも、その注射代だけ手土産てみやげを持つて往つた方が、屹度きつと女の気に入るといふ事だ。
その頃のことで、別に敷金を取るでもなく、大屋さんへちょっと手土産てみやげをする位で何んの面倒もなく引き移りました。
薄々平次の息が掛っているとは思いましたが、そう判然はっきりわかってしまうと、利助もジッとしてはいられません。手土産てみやげを用意して、神田まで一と走り。
とほりがかりにた。山椒さんせうを、近頃ちかごろおなあたりすまはるゝ、上野うへの美術學校出びじゆつがくかうでわかひとから手土産てみやげもらつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
手土産てみやげ田舎いなからしく、扇子に羊羹ようかんを添えて来るもの、生椎茸なまじいたけをさげて来るもの、先代の好きな菓子を仏前へと言ってわざわざ玉あられ一箱用意して来るもの
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
彼の前には先刻さっき島田の持って来た手土産てみやげがそのまま置いてあった。彼はぼんやりその粗末な菓子折を眺めた。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
行掛ゆきがけの駄賃にしたのだか初対面の手土産てみやげにしたのだか、常陸の行方なめかた河内かはち郡の両郡の不動倉のほしひなどといふ平常は官でも手をつけてはならぬ筈のものを掻浚かつさらつて
平将門 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
久助さんが、なお何かと手土産てみやげようのものをブラ下げて帰って来ての話に、こんなことがありました
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
お神が切れるところから、彼は来るたびに何かおつな手土産てみやげをぶら下げ、時には役者のてた小幅しょうふくなどをもって来て、お神を悦に入らせるのに如才がなかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
昼の日中、村に帰るのは恥かしいというのである。そこで叔父だけが先に帰って、私達は久し振りに床屋とこやに行って顔をったり、祖母への手土産てみやげを買ったりなどした。
得ているので……どうか一つ、あなたもよろしく願いますよ。こういう仕事ですからね。外部へ知れていいことばかりはないので……これはそのほんの手土産てみやげ代りですが
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
その子だということは初め一目見た時から、私にはよく分っていました。早速手土産てみやげの玩具を出して、こちらへおいでと云いましたが、いつまでもじっと縮み込んでいます。
子を奪う (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
長順 ふむ、何を隠さう——いたづらに俗世間の義理人情に囚へられ、新しき教の心もえさとらぬ俗人ばら、あの老耄の痩首丁切ちよんぎり、吉利支丹宗へわが入門の手土産てみやげにな致さむ所存。
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
偖小間物屋彦兵衞は翌日よくじつ手土産てみやげもち馬喰町馬場のわきなる彼の女隱居いんきよもとゆき昨日きのふ雨舍あまやどりの禮をひてすぐ商賣あきなひに出しが是より心安くなりよひの内などはなしゆき近處きんじよへ出入場の世話を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
手土産てみやげをなににしようかと思ったが、顔見知りの「魚勝うおかつ」に寄って、たいを二枚、揃えた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
きっぱりとわせ、折鶴の紋のついた藤紫の羽織はおり雪駄せったをちゃらつかせて、供の男に、手土産てみやげらしい酒樽たるを持たせ、うつむき勝ちに歩むすがたは、手嫋女たおやめにもめずらしいろうたけさを持っている。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
だから我々も面倒臭い事は好加減にやつて置くべきである。それから郡視学も郡視学である。あの男は、郡視学に取立てられるといふ話のあつた時、毎日手土産てみやげを以て郡長の家へ日参したさうである。
葉書 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
手土産てみやげの菓子折を提げてゐる。
医術の進歩 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
そして祝家村の陣営——宋江の幕舎へつくやすぐ、まず事情とこの一計とを呉用が参陣の手土産てみやげとして、彼に語りつたえたものなのだった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
翌日は、金之丞は手土産てみやげを持って平次のところへ顔を出しましたが、さすがに身に恥じたものか、自分を狙う者の心当りについては、何にも打明けません。
が、或る晩、晩飯を済まし、裏口から、酒の切手を手土産てみやげにして思い切って出掛けて行った。何んだか冷汗をく思いで敷居をまたぎ、御免下さいといったものである。
大きなカステラのはこ手土産てみやげに持って行ったので、大叔父は義理にからまれて、要求されただけの金をその場で払わされたとかで、私はさんざ大叔母に厭味いやみを言われた上
細君は教授の夫人への手土産てみやげにと庭の薔薇ばらの花をげ、自分がまだ娘であった頃から教授の家へはよく出入ではいりしたという話を岸本にして聞かせた。漸くのことで三人は船に間に合った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
二人とも私の母方の従兄いとこに当る男だったから、その縁故で、益さんはおととに会うため、また私の父に敬意を表するため、月に一遍ぐらいは、牛込の奥まで煎餅せんべいの袋などを手土産てみやげに持って
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三月の末東京に帰って、五月中またいちごなど持ってたずねて来た。翌年丁度引越しの一周年に、彼女はまた手土産てみやげを持って訪ねてくれた。去年帰西して、昨日きのう江州ごうしゅうから上京したばかりだと云った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ふり否々いや/\然に非ず此は此程手土産てみやげにても持參すべきなれども其代りに進ぜるなりと種々申て漸々やう/\受納うけをさめさせなほ靱負ゆきへは申樣我等未だ少々の資本しほんもあれば何ぞ一目論見もくろみ致し度思ふなり何と金貸渡世かねかしとせいは如何有らんと相談さうだんなせば主はおどろき御身何程の金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「作兵衛、お前に少し頼みたいことがあって、それでわざわざ父上までご一緒にお越しなされたのだ。これは少ないが、手土産てみやげの代りだ、取っておけ」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「見舞ですよ、正真正銘親分の見舞にちげえねえ証拠は、この通り手土産てみやげを持って来たじゃありませんか」
もっとも、飯田の方に着いて同門の人たちと一緒になる場合を考えると紋付の羽織にはかまぐらい風呂敷包ふろしきづつみにして肩に掛けて行く用意は必要であり、馬籠本陣への手土産てみやげも忘れてはいなかったが。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「よかろう。では、わしは手土産てみやげでもげるとしよう。亭主、大がめに酒を詰め、牛肉二十斤、鶏一トつがい、あの小舟のうちへ積んどいておくれ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たまの里帰りらしい手土産てみやげをそこへ取り出すにも、祖母のおまんをはじめ宗太夫婦に話しかけるにも、彼女は都会生活の間に慣れて来た言葉づかいと郷里のなまりとをほどよくまぜてそれをした。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そんな事を言って、笹屋の主人源助が手土産てみやげを持って顔を出しました。
『少いが、これは手土産てみやげだ。その代りに頼みがある。明日あしたの早朝、ここで山田浅右衛門が、胴試どうだめしにかける罪人の死骸を、朝までおれに貸してくれないか』
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一郎は新しく替った学校の徽章きしょうを帽子に附け、手土産てみやげげ、改まった顔付をしてやって来た。この一郎と一緒になることは泉太や繁をめずらしがらせた。節子は平素にもして静粛に見えた。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「それから親分、これは私の手土産てみやげ
「こりゃ今度、おれが甲府へ来た手土産てみやげのかわりだよ、すくねえが納めておいてくれ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かねて大酒のうわさのある師匠のために、陰ながら健康を案じ続けていた彼ではあるが、いざたずねて行こうとして、何か手土産てみやげをとさがす時になると、やっぱり良い酒を持って行って勧めたかった。
夜明け前:04 第二部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「そのつもりで、手土産てみやげのかわりに、少しばかり御馳走を買って待っていたのよ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「房ちゃんは幾歳いくつに成るの?」とお種が手土産てみやげを取出しながら聞いた。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
これは筑前がほんの手土産てみやげ代りと申しあげて、よろしく、御前へ御披露のほどを
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と母親は手土産てみやげを出して、炉辺ろばたに置きました。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)