所謂いわゆる)” の例文
はじめは彼もほかの下宿人と同じようにまかないをしてもらっていたが、所謂いわゆるニコヨンの労働をするようになってからは自炊をしていた。
早春 (新字新仮名) / 小山清(著)
木彫も、もう一本造りのような愚直をつづけていられなくなり、所謂いわゆる寄木法が発達した。そして彫刻は遂に彫刻業の意識を確立した。
本邦肖像彫刻技法の推移 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
結局、冗費と思えるものの一切を省いてがまんすることが、所謂いわゆる国策に沿う所以ゆえんでもあり、それ以外に考えつかない良策でもあろう。
所謂いわゆる、おとなしい小説も、これからは書くのである。どうも、こんなこと書きながら、みっともなく、顔がほてって来て仕様がない。
懶惰の歌留多 (新字新仮名) / 太宰治(著)
しばらく彼等の云う事を事実として見ると、所謂いわゆる生死の現象は夢の様なものである。生きて居たとて夢である。死んだとて夢である。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
然るに今時いまの聖書研究は如何? 今時の聖書研究は大抵は来世抜きの研究である、所謂いわゆる現代人が嫌う者にして来世問題の如きはない
主人公の所謂いわゆる怪紳士は、つまりルパンなのだが、燕尾服えんびふくを着た学生みたいな男であった。それと刑事とがおきまりの活劇を演じるのだ。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
とあって、あきらかに山犬となっている。これは『風土記稿』の編者が俗にいうお犬さまに当てた字で、所謂いわゆるオホカミを指したものである。
二、三の山名について (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
内に自から収め養うところの工夫にも切なる立派な人物、所謂いわゆる捨てて置いても挺然ていぜんとして群を抜くの器量が有ったからであったろう。
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
「何う転んでも恨みを残さないというのが、君達の所謂いわゆる、競争は競争、友情は友情だろうと思って、俺は心ひそかに敬服していたのだ」
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
所謂いわゆる文人的教養の趣味が評価に際してつよく影響しているかということなどについては、一向省察がめぐらされていないところも
どうしても目星が附かないので警視庁のパリパリ連中が、みんなかぶとを脱いだ絶対の迷宮事件が一つ在るんだ。所謂いわゆる、完全犯罪だね。
近眼芸妓と迷宮事件 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
私は、四年の十一月に長崎の学校から転じて来ましたので其処の田舎の学校の質素な所謂いわゆる校風にはまだまるきりなれてゐませんでした。
くの如きものが所謂いわゆる世俗の義務論である。この義務論は独り恋愛ばかりでなくその他の人間の関係にも種々なる影響を及ぼしてゐる。
恋愛と道徳 (新字旧仮名) / エレン・ケイ(著)
斉広なりひろの持っている、金無垢きんむく煙管きせるに、眼をおどろかした連中の中で、最もそれを話題にする事を好んだのは所謂いわゆる、お坊主ぼうずの階級である。
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
或は素晴らしい小説の筋を思い付いたりして所謂いわゆる霊感を感じるというようなことを聞いたり、或は君自身も経験したことがあると思う
息を止める男 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
しかし、そんな色はほとんど現実の中には見出みいだされないようだから、無色と云ってもいいかも知れない。しかし所謂いわゆる無色なのではない。
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
所謂いわゆる一等室の真ン中には、ノートルダームの塔の上から盗んで来た様な独逸ドイツ人がたった一人、船をわがもの顔にそっくりかえっている。
スウィス日記 (新字新仮名) / 辻村伊助(著)
しかし、それが、所謂いわゆる恋愛らしい、形を採ればとるほど、ぼくは恋愛をよそおって、実は、損得を計算している自分に気づくのでした。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
僕等には妙な匂いで、それほどとも思いませんが、土人たちは所謂いわゆる、女房を質に置いてもうという、何か蠱惑的こわくてきなものがあるんですね
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
所謂いわゆる指導者なるものが現われたが、これは特定の個人というよりは、強制された精神の畸形きけい的なすがたであったと言った方がよい。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
信一郎はもう一度瑠璃子夫人の手から取り返して、青年の手記の中の所謂いわゆる『彼女』に突き返してやらねばならぬ責任を感じたのである。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
東洋の果からやって来た彼のような人間は何処どこまで行っても所謂いわゆる異国の人で、結局この土地の人達の生活には入り得なかったのだ。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
われ等のような慶長けいちょう元和げんなの古風を慕い、まだ尚武の風のあった寛永気質かたぎを尊ぶ者などは、所謂いわゆる、頭が陳腐ふるいと云われるやつだろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
近頃日本に於ける一部の所謂いわゆる推理小説より、文学としてはより高等な段階にあるものではないかと、いささか自負しても見度みたくなるのである。
そもそも人間が死を怖れる有力な原因は、死ぬときの苦しみ、かの所謂いわゆる「断末魔の苦しみ」を怖れるからだろうと私は思います。
安死術 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
私達は、IWWの宣言に、サンジカリストの行動に、却って、芸術を見て、所謂いわゆる、文芸家の手になった作品に、それを見ないのは何故か。
芸術は革命的精神に醗酵す (新字新仮名) / 小川未明(著)
物質的條件が完全に一階級の支配に統一されている時は社會の意識形態は平衡を保つて所謂いわゆる平和思想が瀰漫びまんする。十九世紀がそれである。
唯物史観と文学 (旧字旧仮名) / 平林初之輔(著)
時間の関係からいえば、上野の鐘が十二時で、この鳥の一声ひとこえが三時だから、所謂いわゆる丑満刻うしみつこくというのでは無いが、どうもしかしおだやかで無い。
白い光と上野の鐘 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
但し天地は広し、真実の父母が銭の為めに娘を売る者さえある世の中ならば、所謂いわゆる親の威光を以て娘の嫁入を強うる者もあらん。
新女大学 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
具えなき敵に切りかかっては卑怯だとか、一々名乗りをあげて戦争するとか、所謂いわゆる武士道的形式に従うと剣術の極意に合わない。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
そういって命令すると、精神が電波のように空間を走って、洞の中に安置されている所謂いわゆるくろがね天狗の手足を動かすのだった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
当時道家には中気真術と云うものを行うならいがあった。毎月朔望さくぼうの二度、予め三日のものいみをして、所謂いわゆる四目四鼻孔云々うんぬんの法を修するのである。
魚玄機 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
所謂いわゆる唯心論と唯物論、観念論と経験論、目的論と機械論等の如き、人間思考の二大対立がよるところは、結局して皆此処ここに基準している。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
舞台の言葉、即ち「劇的文体」は、所謂いわゆるせりふ(台詞)を形造るもので、これは、劇作家の才能を運命的に決定するものである。
舞台の言葉 (新字旧仮名) / 岸田国士(著)
近頃この人の自伝が二冊本になって出た。この本の中に今の所謂いわゆるすこぶる怪めいた話が出ている。それがしかもすこぶる熱心に真面目に説いてある。
不吉の音と学士会院の鐘 (新字新仮名) / 岩村透(著)
何とかいう様な所謂いわゆる口惜くやしみの念ではなく、ただ私に娘がその死を知らしたいがめだったろうと、附加つけくわえていたのであった。
因果 (新字新仮名) / 小山内薫(著)
かれは今年二十六で、女房も持たず、下女もおかず、六畳と四畳半とふた間の家に所謂いわゆるひとり者の暢気のんきな生活をしているとのことであった。
半七捕物帳:36 冬の金魚 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
関東煮とは、吾々われわれ東京人の所謂いわゆるおでんの事だよ。地方へくとおでんの事をく関東煮と呼ぶ。殊に関西では、僕自身度々たびたび聞いた名称だよ。
カンカン虫殺人事件 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
さよう、病人が病名を知らなくてもいいのですがまあ蛭石ひるいし病の初期ですね、所謂いわゆるふう病の中の一つ。俗にかぜは万病のもとと云いますがね。
楢ノ木大学士の野宿 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
同じ秋田県でも北隅の鹿角かづの郡あたりでは、所謂いわゆるニヨチミは同じ日に、子供が相撲をとって遊ぶことのようにも解せられている。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
パスカル夫人の所謂いわゆる『御親切なロシヤ人』の捜索を続けるんですな。あの女は、何だかモスコウにいるような気がするといっていましたよ。
所謂いわゆる「フルーツ・カクテル」なるものと、四つのコップを前にして、茫然ぼうぜんと広場の景気を眺めていなければなりませんでした。
痴人の愛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
梁川君は「僕も丁度今其事を思うて居たが、不満と云う訳ではないが、耶蘇の一特色は其イラヒドイ所謂いわゆる Vehement な点にある」
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この学校騒動は、所謂いわゆる、早稲田大学を構成する精神的要素というべきものが、歴史的環境の中で一つの完成に到達しようとするときに起った。
早稲田大学について (新字新仮名) / 尾崎士郎(著)
ことに珍しいのはすべて此処の松には所謂いわゆる磯馴松そなれまつの曲りくねつた姿態がなく、杉や欅に見る真直な幹を伸ばして矗々ちくちくと聳えて居ることである。
沼津千本松原 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
所謂いわゆるバラック建ての仮普請かりぶしんが、如何いかに火の廻りが早いものか、一寸ちょっと想像がつかぬ。統計によると、一戸平均一分間位だ相な。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
高野氏宛の郵便から『朝日』に特種とくだねとなって、漸く現われた次第で、所謂いわゆるスピード時代の今日から見ると、今昔の感がある。
所謂いわゆる食通と言われる連中が下関の河豚なりと信じきって舌なめずりしている河豚は、大抵東京湾内から集まってきたものを食っているのだが
海豚と河豚 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
所謂いわゆる「若連」が今宵を晴れと右往左往していた。もっと為事をしなければいけない 三十六よ、しっかりやれ。(一一、五)