悲惨ひさん)” の例文
旧字:悲慘
「もし自分じぶんが、あの佐倉宗吾さくらそうごだったら。」と、空想くうそうしたことでした。あの悲惨ひさんきわまる運命うんめいにあわなければならぬと想像そうぞうしたのです。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
矢野が病のほかに恋を持っているとなれば、悲しむべき運命に会うた時に、いっそうその悲惨ひさんを深くすべきを思うたからである。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
……えゝ、もつとも、結核けつかくは、喉頭かうとうから、もうときにはしたまでもをかしてたんださうですが。鬼殻焼おにがらやき……意気いきさかんなだけうも悲惨ひさんです。は、はア。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「ではむを得ませんから、最後のお話をいたしましょう」帆村は物静かな調子で云った。「この犯行の動機は、まことに悲惨ひさんな事実から出て居ます。 ...
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
題して酒中日記という既に悲惨ひさんなり、いわんや実際彼の筆を採る必ず酔後に於てせるをや。この日記を読むにあたって特に記憶すべきは実に又この事実なり。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「もし力があって、かしこいかたが、この悲惨ひさんなありさまをごらんになれば、キツネどもがばつをうけないうちは、じっとしてはいらっしゃれないでしょう。」
必死に、逃路にげみちを求めているような青年の様子が、可なり悲惨ひさんだった。美奈子は、他人事ならず、胸が張り裂けるばかりに、母が何と云い出すかと待っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
人間にんげんには、ひと臨終りんじゅうというものは、ただ衰弱すいじゃくしたひとつの肉体にくたいおこる、あの悲惨ひさん光景ありさましかうつりませぬが、わたくしにはそのほかにまだいろいろの光景ありさまえるのでございます。
鮮血地にして余りに悲惨ひさんな、殉難宗徒のありさまを見、唯一なるものを疑うようになり、おりから負傷した天童もろとも、戦死といつわって唐櫃からびつへ隠れ、原の城を脱出し
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
だから、あらゆる方面に向つて、奥行おくゆきけづつて、一等国丈の間口まぐちつちまつた。なまじい張れるから、なほ悲惨ひさんなものだ。うしと競争をするかへると同じ事で、もう君、はらけるよ。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
あるいは宗教のためか、どっちか知らないが、図南となん鵬翼ほうよくを太平洋の風に張った勇士にちがいない、それが海難にあって、無人境の白骨となったとすれば、あまりに悲惨ひさんな話じゃないか
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
が、たちまち物売りに竹箆返しっぺいがえしを食わせたのち、すっかり巻煙草を買うことを忘れていたのを発見した。巻煙草も吸われないのは悲惨ひさんである。悲惨?——あるいは悲惨ではないかも知れない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
正しきものの名によって兵をくわだてた勇士をかかる悲惨ひさんな境遇におちいらしめ、そして王法の敵にかかるさかえをあたうるごとき不合理な神々の前に、乞食こじきのごとくに伏してあわれみを求めることが!
俊寛 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
「召集されて随分悲惨ひさんな家もあるンでしょうね」
清貧の書 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
えきへむかうみちうえで、なにかあるらしく人々ひとびとあつまっているので、自分じぶんもいってみるになりました。それは、はじめてる、悲惨ひさん光景こうけいではなかった。
道の上で見た話 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ああ、僕はその光景を一目見たとき、そっちへ目を向けたことを後悔こうかいした。それは悲惨ひさんきわまる光景だった。
海底都市 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ただ快活な喜劇の女優の代りに、悲惨ひさんな屍体があった。がその他の境遇きょうぐうは、全く同じである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
れない料理人れうりにんが、むしるのに、くらか鎧皮よろひがは附着くつゝいてたでせうか。一口ひとくちさはつたとおもふと、したれたんです。鬼殻焼おにがらやき退治たいぢようとふ、意気いきさかんなだけじつ悲惨ひさんです。
続銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
人世問題じんせいもんだいになんらかの考えがあって、いまの境遇きょうぐうにありとせば、いよいよ悲惨ひさん運命うんめいである。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
だから君、悲惨ひさんじゃないか。悲惨だろう。この上仕方のない事はないだろう。
路上 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
そして見ると、自分の周囲まわりには何処かに悲惨ひさんの影が取巻ていて、人の憐愍れんみんを自然にくのかも知れない。自分の性質には何処かに人なつこいところがあって、おのずと人の親愛を受けるのかもしれない。
酒中日記 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
破壊以前はかいいぜんが人なみよりもあたたかい歓楽かんらくんでおっただけ、破壊後はかいご悲惨ひさん深刻しんこくであった。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
河村は見るも物凄い形相ぎょうそうとなり、真紅な口をガッと開いたかと思うと、両手で虚空こくうをつかんで、そのまま絶命した。実に悲惨ひさんとも凄絶せいぜつともいいあらわし難い彼の最期だった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが、ぼくがたずねていって、伝記でんきった佐倉宗吾さくらそうごあるいたみちを、もし自分じぶんおな境遇きょうぐうかれたら、やはりそのみちあるいたかもしれぬ。そうすれば、おなじような悲惨ひさんなめにあったであろう。
世の中のために (新字新仮名) / 小川未明(著)
ゆくさきざきの乳屋で虐待ぎゃくたいされて、ますます本物ほんものになったらしい。じつにきのどくというて、このくらい悲惨ひさんなことはすくなかろうと、安藤は長ながと話しおわって嘆息たんそくした。
(新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
佐々記者はついに決心して、前に自分の生命を救ってくれた少年に、このたびは自分の命をささげたいと申出たが、艇長ははじめの誓約せいやくをたてにして承知しなかった。悲惨ひさんなる光景だった。
月世界探険記 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「ちがうよ。爆弾の時限性については、あくまで正確なることを保証する。侯爵夫人は爆死せられたのではなく、アフリカ探検中、蟒に呑まれてしまって、悲惨ひさん最期さいごげられたのじゃ」
そして放送所の後庭あとにわに掘ってあるごみ捨て場の方へ持っていかれた。いろんなきたないものと一緒に、じめじめした穴の中に、ぼくは悲惨ひさんな日を送るようになった。身体はだんだんとさびて来た。
もくねじ (新字新仮名) / 海野十三(著)
第三の犠牲者のお千代の殺害惨状さつがいさんじょうはあまりにも悲惨ひさんだった。女給一同は、第二の惨劇以来というものは、カフェ・ネオンに宿泊するのをいやがって、みな別荘の方へ行って寝ることにしていた。
電気看板の神経 (新字新仮名) / 海野十三(著)