彼我ひが)” の例文
欧米の婦人連もまた同様に欠点があるので、その彼我ひがの欠点を互いに相改めて、初めて頼母たのもしい婦人が出来上がるというものである。
現に事がまとまるという実用上の言葉が人間として彼我ひが打ち解けた非実用の快感状態から出立しなければならないのでも分りましょう。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ともかくも本国においては永遠に行方ゆくえ知れずであり、この遠征によって彼我ひがの交通が、開けたことにはなっていないのである。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
両軍は祁山きざんの前に陣を張った。山野の春は浅く、陽は澄み、彼我ひが旌旗せいき鎧甲がいこうはけむりかがやいて、天下の壮観といえる対陣だった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここを本陣として置いて食時しょくじならば皆ここに集まつて食ふ、それには皆弁当を開いてどれでも食ふのでもとより彼我ひがの別はない。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そして坂上でちょっと馬を止めて「唯今ただいま六郷川ろくごうがわを挟んで彼我ひが交戦中であるが、何時いつあの線が破れるかもしれないから、皆さんその準備を願います」
流言蜚語 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
のみならず、斯くの如き手紙を平氣で書き、亦平氣で讀むという彼我ひが二人の間は、眞に同心一體、肝膽相照すといふ趣きの交情でなくてはならぬ。
雲は天才である (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
東京市民は空襲警報にしきりとおびえ、太平洋では彼我ひがの海戦部隊が微妙なる戦機を狙っているという場面であった。戦争は果して起るのであろうか。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
学べば学ぶほどに、彼我ひがの文明の相違の著しいことがわかる。将来の文明は機械の文明であって、当分の日本の仕事は、まず以てその機械の文明を吸い取ることだ。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
歐文おうぶん日本歴史にほんれきしくとき、便宜上べんぎじやう日本年紀にほんねんきとも西歴せいれきちうして彼我ひが對照たいせう便べんするは最適當さいてきたう方法はうはふであり、歐文おうぶん歐洲歴史おうしうれきしくとき、西歴せいれきしたがふは勿論もちろんである。
誤まれる姓名の逆列 (旧字旧仮名) / 伊東忠太(著)
もとより詩の原理するところは、東西古今を通じて一であり、時と場所による異別を考え得ないが、その特色について観察すれば、彼我ひがおのずから異ったものがなければならぬ。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
何時間かののち、この歩兵陣地の上には、もう彼我ひがの砲弾が、すさまじいうなりを飛ばせていた。目の前に聳えた松樹山の山腹にも、李家屯りかとんの我海軍砲は、幾たびか黄色い土煙つちけむりを揚げた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
旅順の海戦——彼我ひがの勝敗の決した記憶すべき十日の海戦の詳報のしきりに出るころであった。アドミラル、トオゴーの勇ましい名が、世界の新聞雑誌に記載せらるるころであった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
そのまに、彼我ひがの距離は、またたくまに遠ざかり、やがて、五艘の端艇ボートは、海霧の彼方に姿を没してしまった。船長ピコルはじめ、海賊たちは、どんなに口惜しがっていることだろう。
怪奇人造島 (新字新仮名) / 寺島柾史(著)
昨日きのうとなれば何事もただなつかし。何ぞ事の是非をきわめて彼我ひがあやまちあきらかにするの要あらんや。青春まことに一夢いちむ。老の寝覚ねざめに思出の種一つにても多からんこそせめての慰めなるべけれ。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
人をざんすべからず、まさしく国法を守りて彼我ひが同等の大義に従うべし。
学問のすすめ (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
こんな場合に自分ならという彼我ひがの比較さえ胸に浮かばなかった。今の彼女には寝ぼけたお時でさえ、そこにいてくれるのが頼母たのもしかった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
のみならず、斯くの如き手紙を平気で書き、又平気で読むといふ彼我ひが二人の間は、真に同心一体、肝胆相照すといふ趣きの交情でなくてはならぬ。
雲は天才である (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
そう言っている時にも、彼我ひがの砲弾は盛にとびかい、その爆発音は天地をふるわせ、硝煙はますますこくなって、おたがいの陣地をかくしてしまう。
火星兵団 (新字新仮名) / 海野十三(著)
いわゆるわれあるを知ってあるを忘れ、個人あるを知って国家を思わぬので、彼我ひがの信用は地にちて実業も振わない、社会の徳義は紊乱びんらんする、風俗は頽廃たいはいする
国民教育の複本位 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
そこに中古支那の道義観や民情もうかがわれるし、そういう彼我ひがの相違を読み知ることも、三国志の持つ一つの意義でもあるので、あえて原書のままにしておいた。
三国志:04 草莽の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
負けていよいよ血迷うばかりで、彼我ひがを見定めるの余裕があろうはずがありません。
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それがはたして古く大国に行われたという嘗なる文字をてて、当っているか否かを決するのは、必ずや彼我ひがの伝統の比較、すなわち自今なお日本の知識人の至難なりとする討究が
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
明治以来、我々の文壇や文明やは、そのあわただしい力行にかかわらず、一も外国の精神に追いついてはいなかった。逆に益々ますます彼我ひがの行きちがった線路の上で、走れば走るほど遠ざかった。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
全部がぴたりと一致せぬ以上は写さるる彼になり切って、彼を写す訳には行かぬ。依然として彼我ひがの境を有して、我の見地から彼を描かなければならぬ。
写生文 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこでいよいよここに、○○国境を新戦場として、たがいほこりあう彼我ひがの精鋭機械化兵団が、大勝たいしょう全滅ぜんめつかの、乾坤けんこんてきの一大決戦を交えることになったのである。
未来の地下戦車長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、それも遂に、自分たちを救うことの出来ないものであったと、彼我ひがの地勢や作戦上の理解に知って、一時は落胆したものの、決して戦意を捨てはしなかった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
以上の如く、欧州文明の這入はいって来た径路を考えてみると、葡、西及び英等の諸国の商業目的と布教目的とに依って開けたものであることが知れる。これより以後、彼我ひがの交通は益々ますます頻繁となった。
いよいよ彼我ひがの砲撃戦がはじまった。こうなっては、飛行島大戦隊も逃げるわけにゆかない。
浮かぶ飛行島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼我ひが相通じ、しかも彼我相守り、自己の特色を失わざると共に、同圏異圏の臭味を帯びざるようになった暁が、わが文壇の歴史に一段落を告げる時ではなかろうかと思います。
文壇の趨勢 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
つまり海面と防潜網との隙間を行くものではあるが、こいつを何千何万せきとぶっ放すと、彼岸ひがんに達するまでに、彼我ひがの水上艦艇に突き当るから、ただちに警報を発せられてしまう。
それを表向おもてむきさもうれしい消息ででもあるように取扱かって、彼我ひがに共通するごとくに見せかけたのは、無論一片のお世辞せじに過ぎなかった。もっと悪く云えば、一種の嘲弄ちょうろうであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
目下、彼我ひがの空軍並に機械軍の間に、激烈なる戦闘をまじえつつあり。就中なかんずく、右翼竜山師団りゅうざんしだんは一時苦戦におちいりたるも、左翼仙台せんだい師団の急遽きゅうきょ救援砲撃により、危機を脱することを得たり。終り
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そこにはたとい気の毒だという侮蔑ぶべつこころが全く打ち消されていないにしたところで、ちょっと彼我ひがの地位をえて立って見たいぐらいな羨望せんぼうの念が、いちじるしく働らいていた。お延は考えた。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
けれども二人ふたり生活せいくわつ裏側うらがはは、この記憶きおくのためにさむしくけられて、容易よういげさうにはえなかつた。ときとしては、彼我ひが笑聲わらひごゑとほしてさへ、御互おたがひむねに、この裏側うらがは薄暗うすぐらうつこともあつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
時としては、彼我ひがの笑声を通してさえ、御互の胸に、この裏側が薄暗く映る事もあった。こういう訳だから、過去の歴史を今夫に向って新たに繰り返そうとは、御米も思い寄らなかったのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)