尖端さき)” の例文
塔の燒跡に突つ立てた竿の尖端さきが影を落したあたり、塔から幾らも離れてゐない水田の中の一點を、平次は自信に充ちて指すのでした。
罵声ばせいが子路に向って飛び、無数の石や棒が子路の身体からだに当った。敵のほこ尖端さきほおかすめた。えい(冠のひも)がれて、冠が落ちかかる。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
また俎板に残った臓腑は白子、真子を一々串の尖端さきで選り分けて塩辛に漬ける。これが又非常に贅沢な風味のあるものらしかった。
梅津只円翁伝 (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
二年間金アミの中で金の柵ばかり啄ついている嘴の尖端さきは鋭く砥がれていて、先の方で鍵型にちょっと曲り、手の肉にくい入るのである。
人真似鳥 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「さァ——」横瀬は、モシャモシャ頭髪かみのけを、指でゴシゴシいた。「注射器は判るが、尖端さきについている針が無いから、見当けんとうがつかねえ」
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ひよツとして、本場の上等鰹節のない時は、白醤油を皿に入れ、それを箸の尖端さきで䑛めつゝ、可味うまさうに飯の實を味つてゐた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「ところで、あの船室ケビンの前の白いマスト尖端さきへ、御主人が燈火あかりをお吊るしになったのは、度々のことではないですね?」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
大幅の清少納言の後向うしろむきの姿の「繪姿の頸筋のあたり」を、舌の尖端さきでかるくめる、といふところであり、その後の例は、『兵隊の宿』のなかの、お光といふ女主人公が
「鱧の皮 他五篇」解説 (旧字旧仮名) / 宇野浩二(著)
外科医の一人は堅いビフテキの一きれ肉叉フオーク尖端さきへ突きさして、その昔基督がしたやうに
日が暮れるとこの妄想の恐怖おそれ何時いつも小さな幼兒の胸に鋭利な鋏の尖端さきを突きつけた。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
『シヨクノ』——東京の言葉でいふ『ネツキ』は、最も私の心を樂ませた遊びです。木は不自由しない村ですから、私は太助の鉈序なたついでに、強さうな木の尖端さきを鋭く削つて貰ひました。
そういう時僕はいつもその人の鼻の尖端さきから唇へかけての横顔の曲線を比較するのだよ。すべて人の顔は正面から見て特徴のない場合、側面から見るとはっきりした特徴の見えるものだ。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
蚊帳かやをすかして見るような、紺いろにぼけた世界だった。の林が身辺においしげって、ふしぎなことには、その尖端さきに一つ一つのように人の顔がついていた。源十郎だった。お藤だった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
六寸程の竹片たけぎれが挟んであるのを見附て、指を差込だが春日の指に比べて隙間が少し狭かった、漸く取出してみると、尖端さきに泥がかわき着いていた、足許に気がつくと柱の根元三寸程の所塀に密接して
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
なぜならその会堂はゴシック式の尖端さきのとがったアーチが矢尻のように吾々の文明をつきさす前に建てられたものであるから、柱と柱の間の青白い一条の光りが頭上の世界への他の出入口を示した。
塔の尖端さきには黄金きんの旗
晶子詩篇全集 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
砥草とくさなどは北風にさらされる方の茎の色が茜色に焼け、さかんな水気を吸ひ上げ尖端さきを蕭條と枯らしてゐるなど冬の色である。
冬の庭 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
精限り根限りの味覺を舌の尖端さきに集めようとするさまで、ぴた/\と音させて、深く考へ込んでゐたけれど、到頭分らなかつた。
父の婚礼 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「すつかり締めきりましたよ。六疊の外の三枚の雨戸は、鵜の毛の尖端さきで突いた程のきずもありませんね。棧もしつかりしてゐるし」
私は指の尖端さきつばをつけて、その青レッテルの壜をへばりつけた。それから爪の先で、いろいろやってみてやっとせんを抜いた。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
それを見ると福太郎も真似をするかのように唾液つばを飲み込みかけたが、下顎が石のようにこわばっていて、舌の尖端さきを動かすことすら出来なかった。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
剣は持主が手入れを怠けたせいか、古い留針とめばりのように尖端さきが少し錆びかかっていました。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
机にむかつて、復た私は鉛筆の尖端さきを削り始めた。今度の長物語を書くには、私は本町ほんまち紙店かみやで幅広な方のけいの入つた洋紙を買つて来て、堅い鉛筆でそれに記しつけることにして居る。
突貫 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
死体の右の手を持ち上げて調べて見ると食指ひとさしゆび尖端さきに泥がついて居た。
呪われの家 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
揉みはじめたのだがその足裏は、どうしたことかひどく硬くてへこまない。どうやら大きな胼胝たこらしい。博士は、今度はもう少し足を持ちあげて、そのおや指の尖端さきを灯の前へじ向けるようにした。
三狂人 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
ひらめく噴水ふんすゐ尖端さきからしづれて
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
今、その雲の尖端さき
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
『こんなことをして、これなんになるんだらう。』と、小池は細卷きの袋入りの蝙蝠傘かうもりがさ尖端さきで、其の女の黒髮を突ツついた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
その穴の方へ尖端さきを向けて、横木や兩側の板から逆に打つた釘の先には、この穴に引つ掛つて死んだ、伊保木金太郎の着物からむしられたらしい
通り風や、青い火や、幽霊になって現われて、鶴嘴つるはし尖端さきを掴んだり、安全燈ラムプを消したり、爆発ハッパ不発ボヤにしたりする。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
と、赤羽主任は、吹矢の一本を取上げて、その尖端さきで由蔵の頭のあった辺を探っていたが、暫くすると、コツンと音がして、ポカリと眼の前に一つの穴が開いた。
電気風呂の怪死事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
『今ね、』と準教員は銀之助の方を振向いて見ながら、『猪子先生のことで、大分やかましく成つて来たところさ。』と言つて、一寸鉛筆の尖端さきめて、微笑ほゝゑみ乍ら写生に取懸つた。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
「ええ、そう云えば、時にはあの尖端さき燈火あかりを点けることもございました……年に一度か二度のことですが、なんでも、いつもより少し遠く、沖合まで帆走セイリングする時の、目標めじるしにするとか申しまして……」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
清少納言の繪姿の頸筋のあたりを舌の尖端さきで輕く䑛めてから、丸行燈の燈心を一筋にして、郡内の厚蒲團の上へ、埋まるやうになつて轉がつた。
太政官 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
麻繩を持つて來て善兵衞の死骸をはりに釣り、その繩の尖端さきを窓から出して、お由利の父親が善兵衞を怨んで首を吊つた、あの柿の木に結んでしまつた
その絶頂に立っておりました棒切れと、その尖端さきに結びつけてあるヤシの枯れ葉を、一思ひとおもいに引きたおして、眼の下はるかの淵に投げ込んでしまいました。
瓶詰地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
先刻さっき、君は私の手料理になる栄螺さざえを、鱈腹たらふくべてくれたね。ことに君は、×××××、はし尖端さきに摘みあげて、こいつは甘味うまいといって、嬉しそうに食べたことを覚えているだろうね。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
尖端さきの方に妙な万力が吊るしてありますな?」
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
中からり出したのは、枝のない竹が一本、長さ六尺ほど、尖端さきは泥にまみれて、黒ずんだにかわのように見えるのは、紛れもない血の古くなったものです。
田圃たんぼの中の稻の穗の柔かにみのつたのを一莖ひとくき拔き取つて、まだ青いもみむと、白い汁が甘く舌の尖端さきに附いた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
ツイ自分の鼻の先に突立っている毛の尖端さきを見ると、自分では毛頭ソンナ気じゃないのに、両手がジリジリと縮んで、赤茶色の禿頭肌はげはだが吾輩の唇に接近して来た。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
あかだって、一分もある厚いやつを使ってあるんで……。それにあの針と来たら、少し曲ってはいるが、ああいう風にだんだんと尖端さきの方にゆくにつれて細くするには、とても骨を折った。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
中から選り出したのは、枝のない竹が一本、長さ六尺ほど、尖端さきは泥に塗れて、黒ずんだにかはのやうに見えるのは、紛れもない血の古くなつたものです。
その都度に、華やかな洋傘パラソル尖端さきが、大きい、小さいまるや弧を、くうに描いて行くのであった。
空を飛ぶパラソル (新字新仮名) / 夢野久作(著)
つゆしたゝりさうな眞白の實を花の形に切り、ナイフの尖端さきに刺して小池の前に差し出した。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
袖の尖端さきに血のついた娘——それも、間違ひなくこの境内から出た女の行方を、つまらない手違ひから見失つて了つたといふのは、何としたドヂでせう。
最初、くち周囲ぐるりがムズ痒いような気持で、サテはちっと中毒ったかナ……と思ううちに指の尖端さきから不自由になって来ます。立とうにも腰が抜けているし、物云おうにも声が出ん。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
懷中ふところからつみを取り出して、路傍みちばたの缺け瓦に尖端さきの錆を磨りおとした文吾は、白く光る針のやうな鋭さに見入りながら、これで煑賣屋の婆の眼をば、飛び込んでたゞ一突きと、氣が狂うたやうに
石川五右衛門の生立 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
袖の尖端さきに血のついた娘——それも、間違いなくこの境内から出た女の行方ゆくえを、つまらない手違いから見失ってしまったというのは、何としたドジでしょう。
それから左右の白眼を、魚のようにギラギラ光らせると、泥まみれの両頬をプーッと風船ゴムのように膨らまして、炭のまじりの灰色のたんを舌の尖端さきでネットリと唇の前に押出した。
斜坑 (新字新仮名) / 夢野久作(著)