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宛然
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えんぜん
ふりがな文庫
“
宛然
(
えんぜん
)” の例文
山は開けて上流を見るべく、一
曲毎
(
きよくごと
)
に一
瀬
(
らい
)
をつくり、一瀬毎に一
潭
(
たん
)
をたゝへたる面白き光景は、
宛然
(
えんぜん
)
一幅の
畫圖
(
ぐわと
)
を
展
(
ひろ
)
げたるがごとし。
秋の岐蘇路
(旧字旧仮名)
/
田山花袋
(著)
当時江戸に集っていた列藩の留守居は、
宛然
(
えんぜん
)
たるコオル・ヂプロマチックを
形
(
かたちづく
)
っていて、その生活は
頗
(
すこぶ
)
る特色のあるものであった。
渋江抽斎
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
その顔面の皮膚の下から見る見る現われて来た兇猛な青筋……残忍な感情を引き釣らせる筋肉……それは
宛然
(
えんぜん
)
たる悪魔の相好であった。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
もし樹木も雑草も何も生えていないとすれば、東京市中の崖は切立った赤土の夕日を浴びる時なぞ
宛然
(
えんぜん
)
堡塁
(
ほうるい
)
を望むが如き悲壮の観を示す。
日和下駄:一名 東京散策記
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
当時はまだその忍藩三万石だけが
領邑
(
りょうゆう
)
で、右門は早くもそのことに気がつきましたものでしたから、もうあとは
宛然
(
えんぜん
)
たなごころをさすがごとし
右門捕物帖:03 血染めの手形
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
▼ もっと見る
外の附添いたちと小使部屋の一隅を占めて
宛然
(
えんぜん
)
「女王」の如くにふるまっていた。小使なんぞあごでみんなつかっていた。
雷門以北
(新字新仮名)
/
久保田万太郎
(著)
斬られた者のうめき声が、
泥濘
(
でいねい
)
にまみれてそこここに
断続
(
だんぞく
)
する。濡れた刀が飛び違い、きらめき交わして、
宛然
(
えんぜん
)
それは時ならぬ
蛍合戦
(
ほたるがっせん
)
の観があった。
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
宛然
(
えんぜん
)
一国をなす都市であり、未来の発生地であり、バビロンとコリントを結合した驚くべき都であるが、これを上に述べきたった見地から見る時には
レ・ミゼラブル:08 第五部 ジャン・ヴァルジャン
(新字新仮名)
/
ヴィクトル・ユゴー
(著)
指定せられた十八番地の前に立って見れば、
宛然
(
えんぜん
)
たる田舎家である。この家なら、そっくりこのままイソダンに立っていたって、なんの不思議もあるまい。
田舎
(新字新仮名)
/
マルセル・プレヴォー
(著)
またその辺りから一帯の街道、平野、部落へかけて、
麾下
(
きか
)
諸侯の
幡旗
(
ばんき
)
や、各隊のつわものの
指物
(
さしもの
)
が、霞むばかり
蝟集
(
いしゅう
)
して、
宛然
(
えんぜん
)
、
戦捷式
(
せんしょうしき
)
かのごとき盛観を呈した。
新書太閤記:09 第九分冊
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
「また来たね。そんな仙骨を相手にしちゃ少々骨が折れ過ぎる。
宛然
(
えんぜん
)
たる列仙伝中の人物だね」
吾輩は猫である
(新字新仮名)
/
夏目漱石
(著)
舟
(
ふね
)
より
船
(
ふね
)
と
飛
(
と
)
び
渡
(
わた
)
りて、
其祝意
(
そのしゆくい
)
をうけらるゝは、
当時
(
そのかみ
)
の
源廷尉
(
げんていゐ
)
宛然
(
えんぜん
)
なり、
予
(
よ
)
も
肉
(
にく
)
動
(
うご
)
きて
横川氏
(
よこかわし
)
と
共
(
とも
)
に
千島
(
ちしま
)
に
行
(
ゆ
)
かばやとまで
狂
(
くるひ
)
たり、
舟
(
ふね
)
は
大尉
(
たいゐ
)
萬歳
(
ばんざい
)
の
歓呼
(
くわんこ
)
のうちに
錨
(
いかり
)
を
上
(
あ
)
げて
隅田の春
(新字旧仮名)
/
饗庭篁村
(著)
親戚が来ても一緒に聞うじゃないかという風である。
宛然
(
えんぜん
)
俗人の家で、学者の生活としては実に平凡極まるものである。しかのみならず訪問客には坊主もいれば神主もいる。
福沢先生の処世主義と我輩の処世主義
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
現在この夜のカッフェで給仕と
卓
(
テエブル
)
を分っている先生は、
宛然
(
えんぜん
)
として昔、あの
西日
(
にしび
)
もささない教室で読本を教えていた先生である。禿げ頭も変らない。紫の
襟飾
(
ネクタイ
)
も同じであった。
毛利先生
(新字新仮名)
/
芥川竜之介
(著)
宛然
(
えんぜん
)
「
市楽所
(
しらくしょ
)
」の空気だ。横へ出たところに植込みをめぐらしたあき地があって、雪のように真っ白に鳩が下りている。母や姉らしい人につれられた子供達が
餌
(
え
)
をやっているのだった。
踊る地平線:05 白夜幻想曲
(新字新仮名)
/
谷譲次
(著)
若い者の前では、つとめて、新時代への理解を示そうとしながら、しかも、その物の見方の、どうにもならない
頑冥
(
がんめい
)
さにおいて、
宛然
(
えんぜん
)
一個のドン・キホーテだったのは悲惨なことであった。
斗南先生
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
甲板
(
かんぱん
)
へ
出
(
で
)
て
見
(
み
)
ると、
弦月丸
(
げんげつまる
)
は
昨夜
(
ゆふべ
)
の
間
(
あひだ
)
にカプリ
島
(
とう
)
の
沖
(
おき
)
を
※
(
す
)
ぎ、
今
(
いま
)
はリコシアの
岬
(
みさき
)
を
斜
(
なゝめ
)
に
見
(
み
)
て
進航
(
しんかう
)
して
居
(
を
)
る、
季節
(
せつ
)
は五
月
(
ぐわつ
)
の
中旬
(
なかば
)
、
暑
(
あつ
)
からず
寒
(
さむ
)
からぬ
時※
(
じこう
)
、
加
(
くは
)
ふるに
此邊
(
このへん
)
一
帶
(
たい
)
の
風光
(
ふうくわう
)
は
宛然
(
えんぜん
)
たる
畫中
(
ぐわちゆう
)
の
景
(
けい
)
で
海島冒険奇譚 海底軍艦:05 海島冒険奇譚 海底軍艦
(旧字旧仮名)
/
押川春浪
(著)
○
宛然
(
えんぜん
)
として古風土記をよむがごとし。
遠野物語
(新字新仮名)
/
柳田国男
(著)
頬の肉は耳とつながってぴくぴくと上下し、遂には顔中の筋肉が一つ一つ違った方向に動きはじめた。……それは
宛然
(
えんぜん
)
たる畜生の表情であった。
暗黒公使
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
住居の類は先づわが肉体を
冒
(
おか
)
して
漸次
(
ぜんじ
)
にわが感覚を日本化せしむると共に、当代の政治
並
(
ならび
)
に社会の状態は事あるごとに
宛然
(
えんぜん
)
われをして封建時代にあるの
思
(
おもい
)
あらしめき。
矢立のちび筆
(新字旧仮名)
/
永井荷風
(著)
浙江
(
せっこう
)
一帯の沿海を持つばかりでなく、揚子江の流域と河口を
扼
(
やく
)
し、気温は高く天産は
豊饒
(
ほうじょう
)
で、いわゆる南方系の文化と北方系の文化との飽和によって、
宛然
(
えんぜん
)
たる呉国色をここに劃し
三国志:06 孔明の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
彼は時には根も葉も無き
黄禍論
(
こうかろん
)
をまで世界に流布して、新興国の我が日本をばその勢力未だ大いに張らざるの時にこれを暴圧せんと欲した。その為すところは
宛然
(
えんぜん
)
かの戦国策士の亜流であった。
永久平和の先決問題
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
後
(
のち
)
には吉原の西の宮と云う引手茶屋と、末造の出張所とは気脈を通じていて、出張所で承知していれば、金がなくても遊ばれるようになっていた。
宛然
(
えんぜん
)
たる
遊蕩
(
ゆうとう
)
の
兵站
(
へいたん
)
が編成せられていたのである。
雁
(新字新仮名)
/
森鴎外
(著)
その「多情多恨」の如き、「
伽羅枕
(
からまくら
)
」の如き、「二人女房」の如き、今日
猶
(
なほ
)
之を翻読するも
宛然
(
えんぜん
)
たる
一朶
(
いちだ
)
の
鼈甲牡丹
(
べつかうぼたん
)
、光彩更に磨滅すべからざるが如し。人亡んで業
顕
(
あらは
)
るとは誠にこの人の
謂
(
いひ
)
なるかな。
骨董羹:―寿陵余子の仮名のもとに筆を執れる戯文―
(新字旧仮名)
/
芥川竜之介
(著)
銀波、銀砂に
列
(
つら
)
なる千古の名松は、清光の
裡
(
うち
)
に風姿を
悉
(
つ
)
くして、
宛然
(
えんぜん
)
、名工の
墨技
(
ぼくぎ
)
の
天籟
(
てんらい
)
を帯びたるが如し。行く事一里、漁村
浜崎
(
はまさき
)
を過ぎて興
尚
(
なお
)
尽きず。
ドグラ・マグラ
(新字新仮名)
/
夢野久作
(著)
緩流
清澈
(
せいてつ
)
、
宛然
(
えんぜん
)
一匹ノ
白練
(
しろねり
)
ナリ。ケダシソノ大蛇トイヒ絹トイフハ水勢ニ由テ名ヲ得タルナリ。氏家駅ニ飯ス。三里余ニシテ喜連川ノ駅ニ宿ス。夜ニ入ツテ従者皆眠ニ就ク。余独リ
寐
(
い
)
ネズ。
下谷叢話
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
この様な僭越な思想の行われた時代に、列強はしきりに植民政策を競ったので、その手段は甚だ残忍酷薄を極め、南阿辺の土人をば
宛然
(
えんぜん
)
兔狩
(
うさぎがり
)
の如くに狩り立て、これを奴隷として国外に輸出する。
永久平和の先決問題
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
“宛然”の意味
《形容動詞》
そっくりなさま。そのままであるさま。
(出典:Wiktionary)
宛
常用漢字
中学
部首:⼧
8画
然
常用漢字
小4
部首:⽕
12画
“宛”で始まる語句
宛
宛名
宛行
宛城
宛嵌
宛転
宛字
宛如
宛子
宛子城