嬰児あかんぼ)” の例文
旧字:嬰兒
そういって嬰児あかんぼを抱きあげるように抱きあげ、寝台の上に置いた。閻は恐れて気を失ってしまった。五通神はやがて寝台からおりて
五通 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
私は清導寺の嬰児あかんぼの死といっしょに奇怪な事件として、時どきそれを思いだして考えてみたこともあったが依然として判らなかった。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この時すすきの原の小松の蔭から、また嬰児あかんぼの泣き声がしたが、やがて早瀬の姑獲鳥うぶめのような姿が、芒を分けて歩いて来るのが見えた。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「師父、師父」とフランボーが取っておきの嬰児あかんぼじみたしかし重苦しげな声を叫び出した。「この際吾々はどうすればよいのでしょうか」
彼女は、丁度嬰児あかんぼが母親のふところに抱かれる時の様な、又は、処女おとめが恋人の抱擁ほうように応じる時の様な、甘い優しさを以て私の椅子に身を沈めます。
人間椅子 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その折ヘルバルトはもう相当かなりの子持ちであつたが、それでも嬰児あかんぼの顔を見ると、可愛かあいさに堪らぬやうに、接吻キツスをしたり、頬ずりをしたりした。
「お爺さん。」と呼ぶとひとしく、立って逃げもあえず、真白まっしろかいなをあわれ、嬰児あかんぼのように虚空に投げて、身をもだえたのは、お千世ではないか。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
独りで嬰児あかんぼかゝへて居る人とか——まだ何処へもとつがずに長唄の稽古に通つて居る人とか——医者のうちに雇はれて、立派にして町を歩いて居る人とか——
出発 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
朝生まれて夕方死ぬ嬰児あかんぼの哀れさを、同じく朝生まれて日暮れ方に老死する虫の生命と比較して諦めようとするのは馬鹿馬鹿しく不自然、かつ、不合理な話で、畢竟ひっきょうするところ
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
隣りの婆さん、此寒さに当てられて、間断ひっきり無しに咳き込むのが、壁越しに聞える。今朝の話では、筋向うの、嬰児あかんぼも、気管支で、今日中は持つまいと云う事だ。何しろ悪い陽気だ。
越後獅子 (新字新仮名) / 羽志主水(著)
嬰児あかんぼ小便しつこをさしてる。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
窓から射し出た松明たいまつの光で、小屋の外は少し明るかったが、その光の輪から出ると、嬰児あかんぼを抱いた早瀬の姿は、夜の暗さに消されてしまった。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
華表を潜りながら拝殿の方へ眼をやった。拝殿の方から嬰児あかんぼを負った漁夫りょうしのおかみさんらしい女が出て来るところであった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「この嬰児あかんぼは、祖先の血統を伝えさすものだがら、お前がよく見てやってくれ。私はこれから世の中をすてるのだから。」
成仙 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
素肌すはだへ、貴下あなた嬰児あかんぼおぶうように、それ、脱いで置いたぼろ半纏ばんてんで、しっかりくるんで、背負上しょいあげて、がくつく腰を、くわつえにどッこいなじゃ。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
嬰児あかんぼはベエトオベンの楽譜や、ワグネルのオペラの上へ、口の悪い批評家のやうに時折は水をしかけるやうな事があつた。
その田圃側たんぼわきは、高瀬が行っては草をき、土の臭気においを嗅ぎ、百姓の仕事を眺め、畠の中で吸う嬰児あかんぼの乳の音を聞いたりなどして、暇さえあれば歩き廻るのを楽みとするところだ。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
……かと思うと、それから二三日のうちに、三十里も距たった新開農場の一軒家に押入って、ちょうど泣き出した嬰児あかんぼの両足を掴むと、面白そうに笑いながら土壁にタタキ付けた。
白菊 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
はは嬰児あかんぼ
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
泣きやんだ嬰児あかんぼを睡らせようと、拍子を取って揺りながら、この住居へ来てからの生活についてそう早瀬はつくづく思った。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
警官の一人が巡廻していると、眼の前へ髪をふり乱した女が出て来たが、その女は生れてまもない嬰児あかんぼを負い、両手に幼い小供の手をいていた。
焦土に残る怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
見ると、小さなを、虫らしい餌を、親はくちばしくわえているのである。笊の中には、乳離ちばなれをせぬ嬰児あかんぼだ。火のつくように泣立なきたてるのは道理である。
二、三羽――十二、三羽 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それと同じ事を尾長猿がつたところで、嬰児あかんぼつたところで少しも気に懸けるには及ばない。要するに蜜柑は中味を食べさへすればいのである。
「私の躾がたりないといったのは、それだよ。年はもう十六だのに、まるで、嬰児あかんぼのようだよ。」
嬰寧 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
まくりや、米の粉は心得たろうが、しらしらあけでも夜中でも酒精アルコオルで牛乳をあっためて、嬰児あかんぼの口へ護謨ゴムの管で含ませようという世の中じゃあなかった。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その時階下したから嬰児あかんぼの泣き声が聞えて来た。それは賢次のこどもであった。賢次はとうに妻帯して二人の児があった。
春心 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
いつそ幸子女史が音楽の先生なぞめてしまつて、京都へ来て世話女房になるか、それとも安藤氏が語学の教師を思ひとゞまつて、東京へ帰つて、嬰児あかんぼもりでもするか、二つに一つ
ですけれども、貴方嬰児あかんぼはいらないんでしょう、ぎゃあぎゃあ泣いて可煩うるさいから大きらいだって言ったじゃあありませんか。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
漁師が不思議に思ってりかえったところで、じぶんの家の方から火のつくような嬰児あかんぼの泣き声が聞え、それに交って女房の悲鳴が聞えて来た。漁師は夢中になって
海坊主 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「今更そんな事を言つては、出来た嬰児あかんぼにどんなばちが当るかも知れないから。」
私のうちのために、お京さんに火事場を踏ませて申訳がないよ。——ところで、その嬰児あかんぼが、今お見受け申すお姿となったから、もうかれこれ三十年。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは昼間寝かしてあった清導寺の嬰児あかんぼが寺の傍の野雪隠のぜっちんの中に落ちて死んでいたと云う事件であった。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この男が雨に当てまいと大切がるのは、単にこの羽織ばかりではなく、一品ひとしな懐に入れているものがある。大きな紙入ではない。乳貰ちちもらい嬰児あかんぼでもない。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いっしょに室の中へ入って嬰児あかんぼのいるねだいの傍へ往き、拇指で嬰児の鼻をなでて、増寿ぞうじゅという名をつけた。
竹青 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お妻は石炭くずで黒くなり、枝炭のごとく、すすけた姑獲鳥うぶめのありさまで、おはぐろどぶ暗夜やみに立ち、刎橋はねばしをしょんぼりと、嬰児あかんぼを抱いて小浜屋へ立帰る。
開扉一妖帖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、輪は足に随ってまわって、傾いて堕ちたような気がすると共に、体が涼しくなった。ひとみを開けてみると自分はもう嬰児あかんぼになっているうえに、しかも女になっていた。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
およそ嬰児あかんぼの今開けました掌ぐらい、そのせましたこと、からびたの葉で、なすりつけました形、まるで鳥で。
わか紫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは私の故郷くにことばでありますが、私の故郷では嬰児あかんぼのことをややと云いますが、父は私を五歳いつつになっても六歳むっつになっても、ややと呼んで、好く母に笑われたと云います。
薬指の曲り (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
その嬰児あかんぼが、串戯じょうだんにも、心中の仕損いなどという。——いずれ、あの、いけずな御母堂から、いつかその前後の事を聞かされて、それで知っているんだね。
縷紅新草 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家の隅になった赤い実の見える柿の木の下へ、嬰児あかんぼを負ったおんなが来た。それは孫むすめであった。
地獄の使 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
お前あの時分はおとなしかったっけ、この頃はまるで嬰児あかんぼのようじゃあないか、夜啼をして、良い児だからもうちっと遊んだらあっちへおいで、可いかい。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
村は暫く寺の嬰児あかんぼの死んだ噂で持ちきっていたが、それも何時の間にか忘れられてしまった。
(新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
おっかさんはそうじゃあない、もう助からない覚悟をして、うまれたばかり、一度か二度か、乳を頬辺ほっぺたに当てたばかりの嬰児あかんぼを、見ず知らずの他人の手に渡すんだぜ。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊右衛門はうろたえて隣のへやへ飛びこんだ。其処には喜兵衛が嬰児あかんぼを抱いて寝ていた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「時々、嬰児あかんぼのようなことなんか。今しがたも、ぶっきり飴と鳥が欲しいって、そう云って、………」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとかけた水が心火しんかになって燃え、其の中からお岩の嬰児あかんぼを抱いた姿があらわれた。
南北の東海道四谷怪談 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
嬰児あかんぼを懐にしっかとおさえ、片手を上げて追懸けたのは、嘉吉のうち女房かみさんである、亭主その晩は留守さ。
三枚続 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
己は大きな大きな怪物の毛むくじゃらの両手に嬰児あかんぼのように乗せられております。
人蔘の精 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
仲よしの小鳥がくちばしあわす時、歯の生際はえぎわ嬰児あかんぼが、軽焼かるやきをカリリと噛む時、耳をすますと、ふとこんながするかと思う、——話は違うが、(ろうたけたるもの)として
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
朝山を登る時路傍みちばたの赤い実のついたいばらの中から、猿とも嬰児あかんぼともつかない怪しいものが、ちょろちょろと出て来て、一眼ひとめじろりと丹治の顔を見たあとで、また傍の草の中へ入ってしまった。
怪人の眼 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)