商売あきない)” の例文
旧字:商賣
では、どうすれば可いか、ということに成ると、事業家でない宗蔵や商売あきない一つしたことの無いお倉には、何とも言ってみようが無かった。
家:01 (上) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「病弱の氏は容易なことでは、書斎から街頭へは出て行かれないが、が其代り自分ぐるみ、書斎を街頭へ持ち出して行き知識の大道商売あきないをする」
小酒井不木氏スケッチ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なん坪太郎つぼたろうと名づけ、鍾愛しょうあい此上無かりしが、此男子なんし、生得商売あきないの道を好まず、いとけなき時より宇治黄檗おうばくの道人、隠元いんげん禅師に参じて学才人に超えたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
格子戸の奥で商売あきないをされている様なお宅ばかり——それも、ご商売と申すのは、看板だけ、多くは、家代々からうけついだ、財産や家宅をもって
両面競牡丹 (新字新仮名) / 酒井嘉七(著)
無事に城下や近在を徘徊はいかいして、商売あきないのかたわらに職務上の探索に努めていたのであるが、叔父の不注意か、但しは藩中の警戒が厳重であったのか
くろん坊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ひくか、それとも、そのまま和泉屋の商売あきないにつぎ込んでおいて、お前さんも大本おおもとの商法に口を入れるか、それはお前さんのこころもち一つなのですよ
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
これはまた余りになさけない。町内の杢若もくわかどのは、古筵ふるむしろの両端へ、ささの葉ぐるみ青竹を立てて、縄を渡したのに、幾つも蜘蛛くもの巣を引搦ひっからませて、商売あきないをはじめた。
茸の舞姫 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それから、いつものお決りで物価のことや、商売あきないのことや、モスクワの景気がどうだこうだ、という話をはじめた。やがて、ニジニ・ノヴゴロッドのいちの話も出た。
と言い遺して、平常ふだん商売あきないに出る時の風で、草鞋わらじ穿いて出て行った。この村から、高田へは三里、直江津へは二里ある。母は常に高田へも行き、直江津へも行った。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
モスクワで商売あきないをしていましたがね、免役税オブロークだけでも年に五百ルーブリから入れておりましたからな。
自分もやはりそのとおり家内に相談しなければならんという。ですから妻の権力は非常に強いもので、大抵の場合には妻の命令で商売あきないにも出掛けるというような訳です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
……それからまた二年おいた一昨年おととしの秋、ひょッくりやって参りまして、そン節の詫言かねごとをさまざまにいたし、お種さんの婿殿むこどん唐木からき商売あきないをしておるというのであッたら
月々定まった安月給に甘んでいて出世の見込みがあろうか、商売あきないをするんだと、暇をとった。
俗臭 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
サ、何もそんなに感心する事はなかろう、今度のようなちよっとした風邪かぜでも独身者ひとりものならこそ商売あきないもできないが女房がいれば世話もしてもらえる店で商売もできるというものだ、そうじゃアないか
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
かけその日のみわれらがために一日いちにち商売あきないの面倒をいとはざりけり。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「いえ、まだちっとも、商売あきないに馴れませんで」
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
階下したに住む婦人がナカナカのエラ者で、商売あきないの道にも明るく、養子の失敗を憂えていることなぞが、かわるがわる正太夫婦の口から出た。
家:02 (下) (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
一晌いっときほどの後に千枝太郎は暇乞いをして帰った。それから京の町をひとめぐりしたが、きょうも都の人はちっとも彼に商売あきないをさせてくれなかった。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
売手は希有けぶな顔をした。が、ことば戦い無用なりと商売あきないに勉強で、すぐ古新聞に、ごとごとと包んで出した。……この中に、だらしのない別嬪が居るのだそうである。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それに大道で商うとは、若いとはいえ不埒千万、しかし食うための商売あきないとあれば、強いて咎めるにもあたるまい。……とまれお前には見所がある。志があったら訪ねて来い。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
蔵前旅籠町くらまえはたごちょうを西福寺門前へ抜けようとするかどに、万髪飾よろずかみかざ商売あきないで亀安という老舗しにせがあった。
「その鰤は商売あきない物ばい。黙って手をかけたからには、そのままには受取れん」
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
盤台はんだいをどさりと横づけに、澄まして天秤てんびんを立てかける。微酔ほろえいのめ組の惣助。商売あきない帰途かえりにまたぐれた——これだから女房が、内には鉄瓶さえ置かないのである。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
売りますよ。気吹いぶきの著述なら、なんでもそろえてありますよ。染め物のほかに、官服の注文にも応じるしサ。まあ商売あきないをしながら、道をひろめているんですね。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
千枝太郎はその以来、叔父と一緒に商売あきないに出ることもある。自分ひとりで出ることもある。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わけても藪原のうまやじは、姿を見ない人までも名にあこがれて通って来るほど美しい遊女が現われてからは、人の出入りもしげくなり、自然に商売あきないも繁昌して、長閑のどかさを一層長閑にした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黒人くろんぼの給仕に導かれて、燈籠とうろうの影へあらわれたつけね——主人の用に商売あきないものを運ぶ節は、盗賊どろぼうの用心にきっと持つ……穂長ほながやりをねえ、こんな場所へは出つけないから
印度更紗 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
罪障ことごとく許されたところから、表向きは古着商売あきない、誠は横目ご用聞き、姓も飛沢を富沢と変え、昔は自分が縛られる身、今は他人を縛るが役目、富沢流取り縄の開祖、富沢甚内とは俺がこと
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この人が日頃出入する本町のある商家から、商売あきないひまな頃で店の人達は東沢の別荘へ休みに行っている、私を誘って仕立屋にも遊びに来ないか、とある日番頭が誘いに来たとのことであった。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わしは来年は男になって、烏帽子折りの商売あきないをするのじゃ。わしが腕かぎり働いたら、お前たち親子の暮らしには事欠かすまい。宮仕えなどして何になる。結局は地下じげで暮らすのが安楽じゃ。
玉藻の前 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
惣助の得意先は、皆、かれを称して恩田百姓と呼ぶ。註に不及およばず作取つくりどりのただ儲け、商売あきないで儲けるだけは、飲むもし、つも可し、買うも可しだが、何がさてそれで済もうか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
商売あきないの方はそっちのけにして、夜も昼もどこへか出歩いている。
蜘蛛の夢 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
氷店こおりみせ休茶屋やすみぢゃや、赤福売る店、一膳めし、就中なかんずくひよどりの鳴くように、けたたましく往来ゆききを呼ぶ、貝細工、寄木細工の小女どもも、昼から夜へ日脚ひあしの淀みに商売あきない逢魔おうまどき一時ひとしきりなりを鎮めると
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その効々かいがいしい、きりりとして裾短すそみじかに、繻子しゅすの帯を引結んで、低下駄ひくげた穿いた、商売あきないものの銀流を一包にして桐油合羽とうゆがっぱを小さく畳んで掛けて、浅葱あさぎきれ胴中どうなかを結えた風呂敷包を手に提げて
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うすると、弟が柔かな足で、くる/\遊び廻る座敷であるから、万一の過失あやまちあらせまい為、注意深い、優しい姉の、今しがた店の商売あきない一寸ちょいと部屋を離れるにも、心して深く引出ひきだしに入れて置いた
蠅を憎む記 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
寺院は随一の華主とくいなる豆府とうふ屋の担夫かつぎ一人、夕巡回ゆうまわりにまた例の商売あきないをなさんとて、四ツ谷油揚坂あぶらげざかなる宗福寺にきたりけるが、数十輛の馬車、腕車わんしゃ梶棒かじぼうを連ね輪をならべて、肥馬いななき、道を擁し、馭者ぎょしゃ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)