全然すつかり)” の例文
でも矢張り女で、やがて全然すつかり醉つて了つて、例の充分に發達して居る美しい五躰からだの肉には言ひやうもなく綺麗な櫻いろがさして來た。
姉妹 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
宅の方へ始は委任して参つたので御座いましたけれど、丁度去年の秋頃から全然すつかり此方こちらへ引継いで了ふやうな都合に致しましたの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
あいちやんは彼等かれら石盤せきばん見越みこせるほどちかくにたので、全然すつかりそれがわかりました、『しかしそれはうでもかまはないわ』とひそかにおもひました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
『頭痛が癒りましたか?』と竹山に云はれた時、その事はモウ全然すつかり忘れて居たので、少なからず周章どぎまぎしたが、それでも流石
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
つまりラクダルに全然すつかり歸依きえしてしまつたのである。大急おほいそぎでうちへり、父にむかつて最早もう學校がくかうにはきたくない、何卒どうか怠惰屋なまけやにしてくれろと嘆願たんぐわんおよんだ。
怠惰屋の弟子入り (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
おれは、や、来たなと思ふ途端に、うらなり君の事は全然すつかり忘れて、若い女の方ばかり見てゐた。
坊っちやん (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
で、かれももう思慮かんがへること無益むえきなのをさとり、全然すつかり失望しつばうと、恐怖きようふとのふちしづんでしまつたのである。
六号室 (旧字旧仮名) / アントン・チェーホフ(著)
随分不器量なだつたが、ミハイロは女に掛けては贅沢でないから、此娘このこが道具を持つてそばへ来た時から全然すつかり気に入つてしまつて、頭巾の蔭からぢろりかほを見られた時には、何だか恍然ぼつとなつた……はて
椋のミハイロ (新字旧仮名) / ボレスワフ・プルス(著)
新聞記者の事なんか全然すつかり忘れてゐた。
そこあいちやんがふには、『ねずちやん、おまへこのいけ出口でぐちつてゝ?わたし全然すつかりおよ草臥くたびれてしまつてよ、ねずちやん!』
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
お八重は、もう全然すつかり準備したくが出來たといふ事で、今其風呂敷包は三つとも持出して來たが、此家こゝの入口の暗い土間に隱して置いて入つたと言ふ事であつた。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
この頃は全然すつかりフロックがとまつた? ははははは、それはお目出度めでたいやうな御愁傷のやうな妙な次第だね。然し、フロックが止つたのはあきらかに一段の進境を示すものだ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
お八重は、もう全然すつかり準備したくが出来たといふ事で、今其風呂敷包は三つとも持出して来たが、此家ここの入口の暗い土間に隠して置いて入つたと言ふ事であつた。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
あいちやんはれを左程さほどおどろきませんでした、種々いろ/\不思議ふしぎ出來事できごとには全然すつかりれてしまつて。それがところますと、突然とつぜんれがあらはれました。
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
それで那奴あいつ全然すつかりおこつて了つて、それからの騒擾さわぎでさ。無礼な奴だとか何とか言つて、私はえりを持つて引擦ひきずたふされた。随分飲んでゐたから、やつぱり酔つてゐたんでせう。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
佐久間はモウ寢て居て、然も此方へ顏を向けて眠つてるが、例の癖の、目を全然すつかり閉ぢずに、口も半分開けて居る。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
のち商業学校せうげふがくかうてんじて、中途ちうとから全然すつかりふでたうじて、いまでは高田商会たかだせうくわいに出てりますが、硯友社けんいうしやためにはをしい人をころしてしまつたのです、もつとも本人の御為おためには其方そのはう結搆けつかうであつたのでせう
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
佐久間はモウ寝て居て、然も此方こつちへ顔を向けて眠つてるが、例の癖の、目を全然すつかり閉ぢずに、口も半分開けて居る。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
恁麽こんな風に、彼は一時間半か二時間の間、盲目滅法めくらめつぽう驅けずり𢌞つて居たが、其間に醉が全然すつかり醒めて了つて、ゆるんだと云つても零度近い夜風の寒さが、犇々と身に沁みる。
病院の窓 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
時としては艶種が二面の下から三面の冒頭あたまへ續いて居る樣な新聞だつたのが、今では全然すつかり總ルビ附で、體裁も自分だけでは何處へ出しても耻かしくないと思ふ程だし
菊池君 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
無理強ひの盃四つ五つ、それが全然すつかり体中にめぐつて了つて、聞苦しい土弁どべんの川狩の話も興を覚えぬ。真紅な顔をした吉野は、主人のカツポレをしほ密乎こつそり離室はなれに逃げ帰つた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
晩餐の時、媒介者なかうどが今夜泊るのだと叔母から話された。信吾は全然すつかり暗くなつても帰らぬ。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
かつれ、よしや知らしたのは看護婦であるにしても、アノ時アノ室に突然入つて来て、自分の計画を全然すつかり打壊したのは医者の小野山に違ひない。小野山が不埓だ、小野山が失敬だ。
病院の窓 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『だつて君。』と信吾は委細呑込んだと言つた様な顔をして、『その人にだつて家庭うちの事情てな事があらアな。一年や二年中学の教師をした所で、画才が全然すつかり滅びるツて事も無からうさ。』
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人は、まだ頭腦あたまの中が全然すつかり覺めきらぬ樣で、呆然ぼんやりとして、段々後ろに遠ざかる村の方を見てゐたが、道路の兩側はまだ左程古くない松並木、曉の冷さが爽かな松風に流れて、叢の蟲の音は細い。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
二人は、まだ頭脳あたまの中が全然すつかり覚めきらぬ様で、呆然ぼんやりとして、段々後方に遠ざかる村の方を見てゐたが、道路の両側はまだ左程古くない松並木、暁の冷さが爽かな松風に流れて、叢の虫の音は細い。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)