“乗(のり)” の例文
旧字:乘
もちろん普通には乗(のり)こなしているに違いないが、他の連中の馬術があまり達者過ぎるために、際立って危なっかしく無調法に見える。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
駿河台の老婦人は、あわれ玉の輿(こし)に乗らせたまうべき御身分なるに、腕車(くるま)に一人乗(のり)の軽々(かろがろ)しさ、これを節倹(しまつ)ゆえと思うは非なり。
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
立ててみたものだ。これからひとつ、そのもくろみによって、お前と乗(のり)になって、一商売をはじめてみようと思うのだが——
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
電車の乗(のり)かえ切符を手にもちながら、それをどれだけ細かく引裂けるものであるかということを試すもののように、タテに裂いたり横にちぎったりしながら
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
此のお方がまだ芳野へお乗(のり)こみにならぬ前、磐城(いわき)と申す軍艦にお在(いで)あそばし品川に碇泊(ていはく)なされまする折、和国楼で一夜の愉快を尽(つく)されましたときに出たのが花里で
一昨年(おととし)の夏わが休暇たまはりてここに来たりし頃、城の一族とほ乗(のり)せむと出でしが、イイダの君が白き駒(こま)すぐれて疾(と)く、われのみ継(つ)きゆくをり、狭き道のまがり角にて
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
いったいが、女というものは本来そうある筈で、必死の大事となると、人まかせでは安心できず、喉笛に食いつくぐらいの意気込みで、相手怖れず乗(のり)だす性質のものである。
ジロリの女 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
「おッとッとッと。そう乗(のり)出(だ)しちゃいけない。垣根(かきね)がやわだ。落着(おちつ)いたり、落着(おちつ)いたり」
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
『山岡屋、てめえ、煙管(きせる)を斜(しゃ)につかんで、何うする気だ。——七百両を乗(のり)でゆけば、取り分は半分になる。勿体ねえから嫌だというんだ。おらあ一人であの金を揚(あ)げるんだから』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから、今日この人があの二階で消え失せてしまった秘密も、君には説明する迄(まで)もなかろう。やっぱり同じ方法で、今度はS村とは反対の方角へ、無蓋貨車のただ乗(のり)をやったのだよ。
鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
踊(をどり)といふも桶(をけ)の中(うち)に芋(いも)を洗(あら)ふがごとし。ゆゑに人みな満身(みうち)に汗(あせ)をながす。第七をどり目にいたりて普光寺(ふくわうじ)の山長(やまをとこ)(耕夫(さくをとこ)の長をいふ)手に簓(さゝら)を持(もち)、人の手輦(てぐるま)に乗(のり)て人のなかへおし入り大音(だいおん)にいふ。
若いころは、将軍家光の頭をポカンとなぐって、高慢のはなをくじいたり、大洪水の隅田川を、馬上に乗(のり)きって家光の御感(ぎょかん)にあずかったり、正直一途ではあるが、武勇のうわさ高いとのさまです。
幻術天魔太郎 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
忠一は衾の上から乗(のり)かかって押えた。が、何しろ暗いので始末が悪い。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
乾鮭(からさけ)の大きな奴を太刀(たち)の如くに腰に佩(お)び、裸同様のあさましい姿で、痩(や)せた牝牛(めうし)の上に乗(のり)跨(また)がり、えらそうな顔をして先駆の列に立って、都大路の諸人環視の中を堂々と打たせたから、群衆は呆れ
連環記 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
オーガン大佐は、A国で一番上手な潜水艦乗(のり)だ。三年前に、大使館の武官になって、東京にいたことがあるから、末山大将をよく知っている。そして、昔の武士のような末山大将が、大すきなのだ。
昭和遊撃隊 (新字新仮名) / 平田晋策(著)
あとの僕等と女画家(ぢよぐわか)とはドリヷル夫婦の自動車に相乗(のり)してモンマルトルへ帰つた。文豪の誕生日の一夜(や)を想ひ掛(が)けなく斯様(かやう)に面白く過ごしたのは栄誉である。而(さ)うして此(この)日は僕の誕生日でもあつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛、与謝野晶子(著)
飛行機乗(のり)になるんだ
未刊童謡 (新字旧仮名) / 野口雨情(著)
程なく漕ぎ寄せたのは弁天橋であった、船頭は舳(へさき)へ乗(のり)かえ、棹(さお)を引いて横づけにする、水は船底を嘗(な)めるようにさらさらと引いて石垣へだぶり。
葛飾砂子 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
踊(をどり)といふも桶(をけ)の中(うち)に芋(いも)を洗(あら)ふがごとし。ゆゑに人みな満身(みうち)に汗(あせ)をながす。第七をどり目にいたりて普光寺(ふくわうじ)の山長(やまをとこ)(耕夫(さくをとこ)の長をいふ)手に簓(さゝら)を持(もち)、人の手輦(てぐるま)に乗(のり)て人のなかへおし入り大音(だいおん)にいふ。
『兄哥(あにき)。……何もそう俺は尖(とが)っているんじゃねえ。おめえの枕元で、あんな話をしたというのも、これや矢張(やっぱ)り、おめえにも運があったと云うもんだ、どうだ。この仕事は、乗(のり)で行こうじゃねえか』
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とんとん拍子に乗(のり)が来て、深川夫人は嫣然顔(にこにこがお)、人いきりに面熱(ほて)りて、瞼(めのふち)ほんのり、生際(はえぎわ)に膏(あぶら)を浮べ、四十有余(あまり)の肥大(でっかい)紳士に御給仕をしたまいながら
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
しかし馬車で乗(のり)つけたのは、昨夜(ゆうべ)伊予紋へ、少将の夫人の使(つかい)をした、橘(たちばな)という女教師と、一名の医学士であった。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
越中(ゑつちう)密(ひそか)に立(た)つて鐙(あぶみ)をはづし、座頭(ざとう)がしつぺいを鐙(あぶみ)の鼻(はな)にて受(う)くる。座頭(ざとう)乗(のり)かけ声(こゑ)をかけ
怪力 (新字旧仮名) / 泉鏡花、泉鏡太郎(著)
私(てまえ)もずッと乗(のり)が来て、もう一ツお食(あが)んなさい、と自分も撮(つま)みながら勧めました。
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と暢気(のんき)なもので別れて行った。意を了して、その頃同朋町(どうぼうちょう)に店借(たながり)をしていた長屋に引返(ひっかえ)して、残りの荷物を纏(まと)めたが、自分の本箱やら、机やら、二人乗(のり)には積み切れないで、引越車をまた一輛。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)