与力よりき)” の例文
旧字:與力
と言うのは、南町奉行与力よりきの筆頭笹野新三郎ささのしんざぶろう、奉行朝倉石見守の智恵袋と言われたほどの人物ですが、不思議に高貴な人品骨柄です。
そこは二十帖ばかりの広さで、上段があり、その下に滝沢忠太夫と、二人の与力よりきがいた。侍の吟味には役支配の列席する規定がある。
十八条乙 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その頃、この江戸には夜な夜な不可解なる辻斬つじぎりが現れて、まるで奉行ぶぎょう与力よりきもないもののように大それた殺人をくりかえしてゆく。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
御新造と呼ばれる女は、江戸の御鉄砲方おてっぽうかた井上左太夫の組下くみした与力よりき、和田弥太郎の妻のお松で、和田の屋敷は小石川の白山前町はくさんまえまちにあった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
与力よりきは、幕府の警察官として、強盗押入りの知らせがあれば、ただちに隊を組んで、その捕縛にむかって、挺身するのであった。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
ではもう一名、べつにしかるべき与力よりきを差し添えてやろう。そして人数も五百名に増し、装備には武器庫の二番庫も開いて使え。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
薪水しんすいを積み込む御用船に乗り込んで、黒船に近づこうとしたけれども、それも毎船与力よりきが乗り込んで行くために、便乗する機会はなかった。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
そこで与力よりきにはこう言った。この願書は内見したが、これは奉行に出されぬから、持って帰って町年寄まちどしよりに出せと言えと言った。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
と、喬之助が立ちかけた時、今まで、戸口に立って与力よりき達と押し問答をしていた壁辰が、大きな声でこういうのが聞えた。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「十字架を下げた化け物がね。へ、へ。」と連れの与力よりきが引き取った。「で、あなたは?——雪見のご散歩ですか。」
これは火事の模様を注進する役目です。一層大きくなれば、町奉行が出て、与力よりきとか同心とかいうものが働きます。
甲府の勤番支配は三千石高の芙蓉間詰ふようのまづめであります。その下には与力よりきが十名と同心が五十人ずつあって、五百石以下の勤番が二百人は甲府の地に居住しています。
たとえば斎藤弥九郎さいとうやくろうの練兵館、桃井春蔵もものいしゅんぞうの士学館——この二人とも、文久二年十二月、清河建白書の趣旨通り、与力よりき格をもって幕府に召抱えられた——同様に
新撰組 (新字新仮名) / 服部之総(著)
毎日のように美濃みの筋から入り込んで来た武家衆の泊まり客、この村の万福寺にまであふれた与力よりき、同心衆の同勢なぞもそれぞれ江戸方面へ向けて立って行った。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
道頓堀どうとんぼりの芝居に与力よりき同心どうしんのような役人が見廻りに行くと、スット桟敷さじきとおって、芝居の者共ものどもが茶をもって来る菓子を持て来るなどして、大威張おおいばりで芝居をたゞ見る。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
植村子順、名は正義、通称は某、蘆洲ろしゅうと号した。下谷車坂町くるまざかちょうに住した某組の与力よりきで詩を枕山に学んだ。明治十八年享年五十六で没したので、嘉永元年には年十九である。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
が、もう一たけろうが、はなあたまッこすって、ニヤリとわらったその刹那せつなむこうからかかった、八丁堀ちょうぼり与力よりき井上藤吉いのうえとうきちよういているおに七をみとめた千きちは、素速すばや相手あいてせいした。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
横からても、縦から視ても、きたない屑屋に相違あるまい。奉行は継上下つぎがみしも、御用箱、うしろに太刀持たちもち用人ようにん与力よりき同心徒どうしんであい、事も厳重に堂々と並んで、威儀を正して、ずらりと蝋燭ろうそくを入れた。
妖魔の辻占 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「南町御番所の与力よりき、水島宇右衛門と申しまするでござります」
与力よりき、笹野新三郎の役宅へ飛込んでみると、女はまだ町奉行所には送らず、庭先にむしろを敷いて、裸蝋燭はだかろうそくの下で、身体を拭かれております。
記録によると、その翌年、すなわち文政十二年の冬に、尾白の大鷲は鉄砲方の与力よりき池田貞五郎に撃ち留められたとある。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
人相書は全市の与力よりきおかきにいきわたり、別動隊として、近江之介を殺された上自分は閉門をうけて、切歯扼腕せっしやくわんに耐えない脇坂山城守の手から
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「昨日の御飛札ごひさつにより、井上河内守の名代みょうだいとして、山屋敷与力よりき佐脇仙十郎、お蝶の身がら受収りに参上いたしました」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこへけさになって、宿直の与力よりきが出て、命乞いのちごいの願いに出たものがあると言ったので、佐佐はまずせっかく運ばせた事に邪魔がはいったように感じた。
最後の一句 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
侍の口ぶりだ、与力よりき同心どうしんだな。——どういう仔細だときかれて、相手の助二郎はくどくどとなにか説明した。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
今日は箱根塔沢とうのさわに隠居して居るあの老爺おじいさんのことで、中嶋三郎助は旧浦賀の与力よりき、箱館の戦争に父子共に討死した立派な武士で、その碑は今浦賀の公園にたってある。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
刊行の著書に『柳湾漁唱』三巻、『林園月令』二十四冊、その他『晩唐詩選』、『金詩選』の如き纂著さんちょ数種がある。その男俊蔵は御先手組おさきてぐみ与力よりきで文人画を善くし霞舫と号した。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
大阪奉行の中に、内山彦次郎という与力よりきがあった。大塩平八郎以来の与力ということで、頭脳あたまもよく、腕もよく、胆もあり、骨もあって、稀れに見る良吏であったということである。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
私は、子供の時代に、三番町に住んでいた清田もくという漢学の先生の塾に、毎日かよった。先生は、幕府時代には与力よりきの身分の人で、漢学には深い造詣があった。漢文の著書も数種あった。
私の歩んだ道 (新字新仮名) / 蜷川新(著)
半刻ばかりの後、八丁堀組屋敷で、与力よりき笹野新三郎の前に銭形の平次ともあろう者が、すっかり悄気返しょげかえって坐っておりました。
「このほうは登州とうしゅう与力よりき裴鉄面はいてつめんだが、奉行の逮捕状たいほじょうを帯びてこれへ参った。当家のあるじ李応りおうを出せ。有無うむを申さば、官権をもって召捕るまでだが」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東町奉行所で小泉を殺し、瀬田を取り逃がした所へ、堀が部下の与力よりき同心どうしんを随へて来た。跡部あとべは堀と相談して、あけ六つどきにやう/\三箇条の手配てくばりをした。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その屋敷は旧幕臣の与力よりきが住んでいたもので、建物のほかに五百坪ほどの空地あきちがある。西の方は高いがけになっていて、その上は樹木の生い茂った小山である。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
職人ながら、お捕物とりものにかけては、与力よりきの満谷剣之助なども一目も二目も置いている、黒門町なのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
蘆洲は某組の与力よりきであるので、あたかもこの年京師に祗役しえきし五月に至って江戸に帰った。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
あたしはすぐにとんで来たかった、自分が思いりのないことを云ったからではない、さぶちゃんは与力よりきの青木さんていう人から詳しい話を聞いたし、三月には金襴のこともわかった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
いま考えると与力よりきと思うよ。
番所には見廻り同心賀田杢左衛門もくざえもん、土地の御用聞、赤城の藤八などが、雁字がんじがらめにした林彦三郎をまもって、与力よりき出役しゅつやくを待っているのでした。
一切は奉行名代みょうだいの第一与力よりき王正おうせいという者が係となって処置された。ところがこの王正は毛家の女婿むすめむこにあたる者。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
跡部が淡路町あはぢまちの辻にゐた所へ、堀が来合きあはせた。堀は御祓筋おはらひすぢ会所くわいしよで休息してゐると、一旦散つた与力よりき同心どうしんが又ぽつ/\寄つて来て、二十人ばかりになつた。
大塩平八郎 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その屋敷は旧幕臣の与力よりきが住んでいたもので、建物のほかに五百坪ほどの空き地がある。西の方は高いがけになっていて、その上は樹木の生い茂った小山である。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
道楽旗本だから髪も大髻おおたぶさではなく、小髷こまげで、びんがうすいので、ちょっと見ると、八丁堀に地面をもらって裕福に暮らしている、町奉行支配の与力よりきに似ているところから
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
鶴亀々々つるかめつるかめ。しかし二本差した先生のお供をしていりゃア与力よりきでも同心どうしんでも滅多めったな事はできやしめえ。」と口にはいったけれど仙果は全く気味悪そうに四辺あたりを見廻さずにはいられなかった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
というのは、それまでに三度おみきは町奉行所へ呼び出された、町役ちょうやくと家主が付添いで、二度は与力よりきの吟味だったが、三度めには壱岐守いきのかみとかいう町奉行がしらべに当り、おみきを叱りつけた。
枡落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
コナン・ドイルの成功は、助手のワトソンの発見であり、平次とお静と、与力よりきの笹野新三郎だけでは、ものの百回とは、もたなかったかも知れない。
胡堂百話 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
成程、門には池の坊の小さい札が出ていましたが、翌晩になって分ったことは、それは弓組与力よりきの松下という男のめかけで、その松下が来て遅くまで飲んでいる。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
芳宜園千蔭はぎぞのちかげは身分が町奉行与力よりきで、加藤又左衛門またざえもんと称し、文化五年に歿した。五百の生れる前八年である。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
京橋八丁堀の玉子屋新道じんみちに住む南町奉行所の与力よりき秋山嘉平次が新川しんかわの酒問屋の隠居をたずねた。
真鬼偽鬼 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
町奉行配下の与力よりき同心どうしんを始め町方の御用聞きに到るまで、言い合わしたように町道場の主とその高弟たち、さては諸国から上って来た浪人の溜りなどへしきりに眼を光らせてきたが
北町奉行の与力よりきで青木さんていう人も、栄ちゃんのことを心配して、たびたびここへたずねて来るそうなんだ、ここでは岡安さんが毎月一度、栄ちゃんのようすを書いて青木さんに送っているんだが
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)