頓挫とんざ)” の例文
かかるほどに車体は一上一下と動揺して、あるいは頓挫とんざし、あるいは傾斜し、ただこれ風の落ち葉をき、早瀬の浮き木をもてあそぶに異ならず。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
多年の揣摩ずいま一時の宏弁こうべん、自然に備わる抑揚頓挫とんざあるいは開き或はじて縦横自在に言廻わせば、さぎからすに成らずには置かぬ。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「僕の有望な画才が頓挫とんざして一向いっこう振わなくなったのも全くあの時からだ。君に機鋒きほうを折られたのだね。僕は君にうらみがある」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
父親は県会議員をした人だけあって、言葉の抑揚よくよう頓挫とんざが中々巧みであった。演説に慣れた田中も時々沈黙させられた。
蒲団 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
もともとアパートを借りるはずだったのが、俺の発病で頓挫とんざしたのだ。波子に言って、アパートの小さな部屋を借りて、そこで療養することにした。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
かんじんな花世と郁次郎は逃走してしまったので、ここ三月ばかり、事件は、一頓挫とんざのかたちになってしまっている。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
電車問題の凶徒しゅう衆事件が確定して、西川、山口等、多くの同志が投獄され、その他の人々は手も足も出しようがなく、運動は全く頓挫とんざの姿を呈した。
赤旗事件の回顧 (新字新仮名) / 堺利彦(著)
私は何のために笑われるかちっとも分からぬが、これは私の素読は抑揚頓挫とんざないモノトーンなものに加うるに余り早過ぎて分からぬというためであった。
三筋町界隈 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
戦争で頓挫とんざしていたけれども、これからふたたび、前日のような盛況せいきょうを見るであろうことはけ合いで、わがくに園芸界のために、大いにしゅくしてよろしい。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
ところが、不幸にも、この大事業は、やっと完成するかしないに、思わぬ出来事のために、頓挫とんざきたしたのです。
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
肝心のお父さんが家中うちじゅうを呼び寄せるような容態では、まあ、好い塩梅に持ち直すにしろ、万一このまゝいけなくなるようなら尚おのこと、こゝ当分は一頓挫とんざ
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
公、———河内介は、実はあの図書ずしょと云う武士を殺して夫人の計畫を頓挫とんざさせたのを、甚だ残り惜しく思っていたところへ、ちょうど花見の事件が突発したのである。
このように、「科学小説」は「探偵小説」とともに順調に発達して来たのであったが、充分に成果を見るに到らぬ以前に一頓挫とんざをきたし、一時衰頽せざるを得なかった。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
俳句界は一般に一昨年の暮より昨年の前半に及びて勢をたくましうし後半はいたく衰へたり。わが短歌会は昨年の夏より秋にかけていちじるく進みたるが冬以後一頓挫とんざしたるが如し。
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
そうして一度頓挫とんざした心持は、容易に挽回とりかえされなかった。厭わしいような日が幾日も続いた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今は普魯西プロシヤのカイゼル父子とそれをめぐっていた軍閥者流とが代表として固執していた旧式な浪曼ローマン主義に根ざす軍国主義や専制主義がこの度の戦争の末期において頓挫とんざしたために
激動の中を行く (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
ここに一頓挫とんざをきたさなければならないはずでしたのに、ごく物静かにいったものです。
ローマの詩人科学者ルリレチウスの予言したことは、二千年をたいま、わが手によって実現されるのだ。自然科学の革命、世界宗教の頓挫とんざ、人間のにぎる力のおどろくべき拡大……
金属人間 (新字新仮名) / 海野十三(著)
あの抑揚頓挫とんざのある言葉で話しかけようとしていらっしゃるかの如くに思われる。
惜別 (新字新仮名) / 太宰治(著)
抑揚頓挫とんざなどという規則には拘泥こうでいしない、自然のままの面白味が多いようだ。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
長唄の師匠としてのこの人の経歴は、一たびゆたかのために頓挫とんざしたが、そのは継続して今日こんにちに至っている。なお下方に詳記するであろう。二十八年には保の三男純吉が七月十三日に生れた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
が、この頓挫とんざが二葉亭の生涯の行程をこじらすもといとなったは争われない。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
彦根の事も一頓挫とんざの折から、一日もはやくたち退きたいと存じます
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
そしてブリュジョンの奸計かんけい頓挫とんざせしめたものと思った。
滑稽な物を持って来たりして頓挫とんざを与えるものが多い。
俳句はかく解しかく味う (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
田口はただ一口こう云っただけで、何とも後をいでくれなかった。敬太郎も頓挫とんざしたなり言葉を途切とぎらした。二人はしばらく差向いのまま口を聞かずにいた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
右門の見込み捜査は一頓挫とんざをきたすべきでしたが、しかし、いったん手を染めたとならば、毎度申しあげたように、そんなことでおめおめとたたらを踏む右門とは右門が違います。
よどみなくべたりける。看護員のその言語には、更に抑揚と頓挫とんざなかりき。
海城発電 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その中道にして、本能寺の変である。秀吉は、信長の死によって頓挫とんざしたそれを、おれがやると、誓い出した。ここ二年余にわたる不眠不休の努力は、それへの一歩まえまで、近づいてきた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
遅蒔おそまきながらその方で自活の道を立てようと云う意図があった訳なので、それもこの時局でさえなかったらうまく行きそうだったのであるが、不幸にして目下のところ一頓挫とんざを来たしているのである。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
高橋の志道軒も頓挫とんざしてしまった。
それを好加減いゝかげん揣摩しまするくせがつくと、それがすわときさまたげになつて、自分じぶん以上いじやう境界きやうがい豫期よきしてたり、さとりけてたり、充分じゆうぶん突込つつこんでくべきところ頓挫とんざ出來できます。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
よどみなくべたりける。看護員のその言語には、更に抑揚と頓挫とんざなかりき。
海城発電 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
それを好加減いいかげん揣摩しまする癖がつくと、それが坐る時の妨になって、自分以上の境界きょうがいを予期して見たり、悟を待ち受けて見たり、充分突込んで行くべきところに頓挫とんざができます。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
あにつたので、はなしそれぎり頓挫とんざして、小六ころくはとう/\本郷ほんがうかへつてつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
話はそれぎり頓挫とんざして、小六はとうとう本郷へ帰って行った。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小林自身もいったん頓挫とんざしてからまた出直した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)