雪駄せつた)” の例文
吹通ふきとほしのかぜすなきて、雪駄せつたちやら/\とひととほる、此方こなた裾端折すそはしをりしか穿物はきものどろならぬ奧山住おくやまずみ足痕あしあとを、白晝はくちういんするがきまりわるしなどかこつ。
森の紫陽花 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
茶屋ちやゝ廻女まわし雪駄せつたのおとにひゞかよへる歌舞音曲かぶおんぎよくうかれうかれて入込いりこひとなに目當めあて言問ことゝはゞ、あかゑり赭熊しやぐま裲襠うちかけすそながく、につとわら口元くちもともと
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「そんな事があるものか、雪駄せつたが片つぽお倉の家にあると言ふのに、勘兵衞の足袋は兩方とも底が綺麗だぜ」
内へ帰つて見ると、うす暗い玄関の沓脱くつぬぎの上に、見慣れたばら緒の雪駄せつたが一足のつてゐる。馬琴はそれを見ると、すぐにその客ののつぺりした顔が、眼に浮んだ。
戯作三昧 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
雪駄せつたを刺す時に使ふやうな雑巾針に麻苧あさをを通して、お雪伯母が縁を縫つて呉れた雑巾に、かすりのやうに十字形に縫ひ置くのであつたが、初の中は針がうまく使へなかつたり
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
其角はかう言つて、ぼつぼつ裾を端折はしをつて、雪駄せつたを脱いで帯にはさむだと思ふと
いづれもうれしさうにして、ふね近付ちかづいてるのを、退けるやうにして、天滿與力てんまよりききにふねへ、雪駄せつたあしまたんだ。途端とたん玄竹げんちくはいつにないらいのやうに高聲たかごゑで、叱咜したした。
死刑 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
「やい、歌唄ひの勇助!……お前がいくら三円の雪駄せつた穿いてゐるなんて威張つたつて、俺等が唄はしてやらなかつたら、どうもなるもんぢやなかつたらうに。……この恩知らずが!……」
野の哄笑 (新字旧仮名) / 相馬泰三(著)
もしも雪駄せつた
歌時計:童謡集 (旧字旧仮名) / 水谷まさる(著)
「ところで、あの足音だ、——後金あとがねゆるんだ雪駄せつたを引摺り加減に歩くところは、女や武家や職人ぢやねえ、落魄おちぶれた能役者でなきア先づ思案に餘つたお店者たなものだ」
まいうらにして繻珍しゆちん鼻緒はなをといふのをくよ、似合にあふだらうかとへば、美登利みどりはくす/\わらひながら、せいひくひと角袖外套かくそでぐわいとう雪駄せつたばき、まあんなにか可笑をかしからう
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
彼等は皆同じ様に椀被わんかむり頭をして居た。そして、同じ様なこまかい双子縞の衣服に黒い小倉帯をしめ、黒い皮鼻緒の雪駄せつたを穿いてちやら/\と前かゞみに忙しさうに歩いて居た。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
夫人と吉兵衛氏とは軽い雪駄せつたを鳴らしながら、稲田いなたの細道を歩いて往つた。
雪駄せつたからかさ下駄げた足駄あしだ
銀鼎 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
うつかり變な雪駄せつたなどを見付けて、自分の智慧と運とを誇り度いやうな心持になつたばかりに、辻斬に縁のある小田卷直次郎の口を、永久にふさがれてしまつたのです。
あやしきふるへこゑ此頃このごろ此處こゝ流行はやりぶしをつて、いまではつとめがにしみてとくちうちにくりかへし、れい雪駄せつたおとたかくきたつひとなかまじりてちいさき身躰からだたちまちにかくれつ。
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪駄せつたに附いて居る泥が、屋根と梯子に附いて居ないのが不思議と言へば唯一つの不思議ですが——
と怪しきふるへ声にこの頃此処の流行はやりぶしを言つて、今では勤めが身にしみてと口の内にくり返し、例の雪駄せつたの音たかく浮きたつ人の中に交りて小さき身体からだたちまちに隠れつ。
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
雪駄せつたは何時でも二階へ持つて行きますよ。店へ置くと誰かに突つかけられて叶ひません」
大門際おほもんぎわ喧嘩けんくわかひと出るもありけり、見よや女子おんな勢力いきほひと言はぬばかり、春秋はるあきしらぬ五丁町のにぎはひ、送りの提燈かんばんいま流行はやらねど、茶屋が廻女まわし雪駄せつたのおとに響き通へる歌舞音曲おんぎよく
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
革緒かわを雪駄せつたおとのみはすれど、馬鹿ばやしの中間なかまには入らざりき、夜宮よみやは事なく過ぎて今日一日の日も夕ぐれ、筆やが店に寄合しは十二人、一人かけたる美登利が夕化粧の長さに
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
泥だらけな兼松の雪駄せつたは、娘の部屋の縁の下に突つ込んでありました。
雪駄せつた直しでせう。先刻さつきから三足目の註文ですが、良い働きですね」
「二十二三の一寸良い男だ、——町人風には相違ないが、出は武家ぶけらしいな。雪駄せつたの金が鳴り過ぎるし、月代さかやきが狹いし、腰が少し淋しさうだ、——あの若い男を、お前は怪しいとは思はなかつたのか」