雀斑そばかす)” の例文
ぱらぱらとページをめくってみると、或る頁に名刺ぐらいの大きさの写真が一枚はさんであった。雀斑そばかすのありそうな、若い男の写真である。
旅の絵 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
雀斑そばかすのあるかなり可愛いい顔をしたワンピースのドレスの少女とひそやかに語らいながら二人切りの時間を楽しんでいる様だった。
ひとりすまう (新字新仮名) / 織田作之助(著)
重々しく充実した体にちょいと可愛くサロン前かけをつけて、上瞼に薄く雀斑そばかすのある顔を傾けながら、ゆき子はいやに断定するように
朝の風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
でっぷりよく肥えた顔にいちめん雀斑そばかすが出来ていて鼻のあなが大きくひろがり、揃ったことのない前褄まえづまからいつも膝頭ひざがしらが露出していた。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
これは高座では判らなかつたが薄い雀斑そばかすがある。難といへば難だがそれも其上に無造作に薄化粧をしてゐるのが却つて美しくも見える。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 高浜虚子(著)
「どうしてまた、さういふひどい傷我けがなんかしたんだらう。あのよく窓から赤いハンケチを振つたりした、一寸雀斑そばかすのある女だらう?」
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
きは目に立つ豊満な肉付と、すこし雀斑そばかすのある色の白いくゝりあごの円顔には、いまだに新妻にひづまらしい艶しさが、たつぷり其儘に残されてゐる。
人妻 (新字旧仮名) / 永井荷風永井壮吉(著)
細君はやはり赤茶けた栄養の悪い髪の毛を束ね、雀斑そばかすだらけの疲労した表情をしてゐるが、恐しく多産で年子に困つてゐる。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
神がコラムを永遠の宴に召される一年ほど前のことである、ある夜、兄弟たちの中の最年少者「雀斑そばかす」とあだなされたポウルが彼のもとに来た。
海豹 (新字新仮名) / フィオナ・マクラウド(著)
なれども秀林院様の御器量はさのみ御美麗と申すほどにても無之、殊におん鼻はちと高すぎ、雀斑そばかすも少々お有りなされ候。
糸女覚え書 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
わずかな重量を増そうと量る前に腹一ぱい父親の命令で赤ん坊に乳を飲ましていた雀斑そばかすだらけの母親をも思い出した。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
顔には雀斑そばかすがあり、穴のあいた仕事服を着、両横に補綴つぎのあたってるビロードのズボンをはき、男というよりもむしろ男に変装してる女のようなふうだった。
「その眉がですよ、叔母さん、あなたが常々お話になる、その、叔母さんのお若い頃の眉にそつくりなんですよ。そして顔ぢゆうに細かい雀斑そばかすがあるんです。」
肉は薄い方だ、と謂ツてとがツた顏といふでは無い。輪郭りんくわくを取つたら三かくに近い方で、わりひたひひろく、加之拔上ぬけあがツて、小鼻まわりに些と目に付く位に雀斑そばかすがある。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
まだ若くて、顔立ちのいい娘であるが、惜しいことには顔がすこし丸すぎるうえに、ひどい雀斑そばかすであった。
おつぎはどうかするとへん雀斑そばかすが一しゆ嬌態しなつくつてあまえたやうなくち利方きゝかたをするのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
というのは、髪の毛が赤く、顔じゅうに雀斑そばかすがあるからである。テーブルの下で、何もせずに遊んでいたにんじんは、突っ立ちあがる。そして、おどおどしながら
にんじん (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
あの赤毛や雀斑そばかす、それに鼻梁の形状などが、それぞれアモレアン猶太人ジュウ(最も欧羅巴(ヨーロッパ)人に近い猶太人の標型)の特徴を明白に指摘しているものだと云える。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
合衆国河岸がしに雲集する紳士淑女と高価なる花束を投げ合い、さて軽歩して競技場スタアドに至れば、数十人の気むずかしき審査員は、花の取合せ、幻想おもいつきの巧拙、搭乗者のりて雀斑そばかすの有無
喜代子の顔に、ぽつりぽつりとごく僅な雀斑そばかすが見えていた。その今まで気付かなかった雀斑が、心の持ちようによって、彼女の表情を一層底深くなしたり浅薄になしたりした。
叔父 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
どこかお玉に似ていると思って、わきを摩れ違うのを好く見れば、顔は雀斑そばかすだらけであった。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
玄関げんかんへ入り、その荷物を置いたうしろから顔をだした、しわ雀斑そばかすだらけの母に、「ほら、背広まで貰ったんだよ」と手をッこんで、出してみせようとしたが手触てざわりもありません。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
私は博士にいわれたとおり、雀斑そばかすのういた頬が赤い、そのまだ若い女性にたずねた。
博士の目 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
顔は度々合せるから漸く分ったが、く見ると、雀斑そばかすが有って、生際はえぎわに少し難が有る。髪も更少もすこし濃かったらと思われたが、併し何となく締りのあるキリッとした面相かおだちで、私は矢張やっぱりいと思った。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
「今日はお志津まの雀斑そばかすも見えなんだなあ!」
夏蚕時 (新字旧仮名) / 金田千鶴(著)
雀斑そばかすだらけの醜い顔を変に引き吊らせた。
可愛い雀斑そばかすの娘が
私の隣席にいた、雀斑そばかすのある、せた少女が私に目くばせをして、そのちぢれ毛の少女に対する彼女の反感へ私を引き込もうとしていた。
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その叫びで、十三の痩せて雀斑そばかすだらけのアーニャは、生え際まで赧くなった。彼女は憤ったように垂髪おさげを背中の方へ振りさばいて、叔母を睨んだ。
(新字新仮名) / 宮本百合子(著)
甲野はこう云う彼を見ながら、(彼の顔も亦雀斑そばかすだらけだった。)一体彼はお鈴以外の誰にれられるつもりだろうなどとひそかに彼をあざけったりしていた。
玄鶴山房 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
竹の皮のやうに雀斑そばかすの澤山ある、よく女の西洋人の後について歩くやうなタイプの、小柄の女である。
女の子 (旧字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
雀斑そばかすがぽち/\してつとこまでなあ」おしなにははなのあたりに雀斑そばかすすこしあつたのである。おつぎにもれがそのまゝ嫣然にこりとするときにはそれがかへつしなをつくらせた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
眼のふち小皺こじわ雀斑そばかすとが白粉で塗りつぶされ、血色のよくないくちびるべにで色どられると、くくりあご円顔まるがおは、眼がぱっちりしているので、一層晴れやかに見えて来るばかりか
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
アパートの主人がいつも、ここで一しよになられた方はきつとすぐおめでたがありますよ、と云つてゐるが、説明者の場合もその通りで、それはかの多産の雀斑そばかす細君の影響かも知れぬ。
日本三文オペラ (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
周平はほうけた気持で、彼女の顔を見つめた。今迄気づかなかったことだが、額から眼の下へかけて薄い雀斑そばかすがあった。けれど、くっきりと切れた上眼瞼の二重が、如何にも美しかった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
雀斑そばかすだらけの鼻の低いその嫁と並べてみてお君の美しさは改めて男湯で問題になり、当然のことゝして、お君の再縁の話がしば/\界隈の人たちから金助に持ちかけられたが、その都度
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
彼らの姉妹ででもあるのか? まだ年若い娘で、やせて、いらいらして、手の皮膚はかさかさになり、雀斑そばかすができていて、裸麦や美人草の穂を頭につけ、快活で、荒っぽくて、跣足はだしになっている。
子猫みたいにイタズラっぽく精力的なその顔は一面の雀斑そばかすで、化粧も棒紅が唇の外にはみだすほどグイとひく乱暴さだったが、外見ひ弱そうな肉体が裸になると撓やかで逞ましいのも好きだったし
さようなら (新字新仮名) / 田中英光(著)
まるで種痘痕ほうそうあとのような醜い雀斑そばかすだったからである。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「そうかも知れませんね。……それでもよろしかったら、先生に私から進物にしますわ。」雀斑そばかすのある若い娘も笑いながら、そんな返事をしている。
晩夏 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ちょいと雀斑そばかすのあるような顔をした男の子がかいてあったでしょう、ぷりっとした体で、溌溂として、いい匂いの髪のある。あれもなかなか爽快な作品です。
死んだのは四十五で、後には痩せた、雀斑そばかすのあるおみさんと、兵隊に行っている息子とが残っている。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
少し雀斑そばかすはあるが色白な一寸人目を惹く。端の明るい處に掛けてるので小豆色の頭巾姿が引つ立つて見えた。それに人を人臭いとも思はぬげな態度は殊に車中の注目を値した。
商機 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
その入口の所に、も一人の女中——顔に雀斑そばかすのある年増の春子——が、壁に半身を寄せかけて佇みながら、室の中をぼんやり眺めていた。昌作は慌てて眼を外らして、やはり室の中を眺めた。
野ざらし (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
雀斑そばかすだらけの鼻の低いその嫁と比べて、お君の美しさはあらためて男湯で問題になった。露骨ろこつに俺の嫁になれと持ちかけるものもあったが、笑っていた。金助へ話をもって行くものもあった。
(新字新仮名) / 織田作之助(著)
「小っちゃな子供みたいに雀斑そばかすのある顔して、そのひとは、誰にもかれにもお辞儀ばっかりしていた」
杉垣 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
平然とあぐらをかいた乞食はひげだらけのあごをさすりながら、じろじろその姿を眺めてゐた。彼女は色の浅黒い、鼻のあたりに雀斑そばかすのある、田舎者らしい小女だつた。
お富の貞操 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
赤ん坊の皮膚は、産毛ばかりで、黒子ほくろ雀斑そばかすも全くない。
裸木 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
歎息するゆき子の悄然とした雀斑そばかすのある顔を見ると、瀧子はその弱腰を非難する気も失せるのである。あちこちで召集が下るようになってから、村役場で婚姻届の受付が殖えた。
鏡の中の月 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
顔はあの西鶴さいかくの、「当世の顔はすこしまろく、色はうすはな桜にて」と云ふやつだが、「面道具おもてだうぐつ不足なく揃ひて」はちと覚束おぼつかない。白粉おしろいにかくれてはゐるが、雀斑そばかすも少々ある。
世之助の話 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)