銘々めいめい)” の例文
そこで彼女は、ほっとしたように急いで、主館おもやの方へ引返ひっかえして行った。そして間もなく私達は物置の中へはいって、銘々めいめいに秤へ懸りはじめた。
死の快走船 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
やがて、銘々めいめい発見されて、あとは彼一人になったらしく、子供達は一緒になって、部屋部屋を探し歩いている気勢けはいがした。
お勢登場 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
そして牛鍋を突つき乍らあれこれと話して居るうちに、銘々めいめいの胸のうちには三十何年前の記憶が油然ゆうぜんと湧いて来るのです。
そこで私たちは大急ぎで銘々めいめい一つずつパンフレットも作り自働車などまでやとってそれをきちらしましたが実は、なあに
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
一体君はう思うか、男子の出処進退は銘々めいめいの好む通りにするがいではないか、世間一般そうありたいものではないか、之に異論はなかろう。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
そうして翌朝になって銘々めいめい絹帷子きぬかたびらを調べ「少しもしわのよらざる女一人有」りそれを下手人とにらむというのがある。
西鶴と科学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
前代の俳諧のごときは殊に読者を限定して、いわば銘々めいめいの腹の中のわかる者だけで鑑賞し合い、今日存する篇什へんじゅうはその楽しみのかすのようなものである。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
下僕げぼくをはじめ家人らは、先刻さっき戸締りを済まして、今はもう銘々めいめいの部屋へ退さがったあと。武家屋敷は夜が早い。今ごろ、この玄蕃の座敷の近くを、人の歩くはずはないのだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この輩のごときは、かかる多事紛雑たじふんざつの際に何か仕事しごとしてあたかも一杯の酒をればみずからこれを愉快ゆかいとするものにして、ただ当人銘々めいめい好事心こうずしんより出でたるに過ぎず。
銘々めいめい、見苦しい振舞をしたり、騒いだり、泣いたりしてはならんぞ。よく、申し伝えておけ」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
群衆に近づいて見ると、彼等はだまっているのではない。銘々めいめいに何かわめいているのである。
死者を嗤う (新字新仮名) / 菊池寛(著)
その実銘々めいめい孤立して山の中に立てこもっていると一般で、隣り合せにきょぼくしていながら心は天涯てんがいにかけ離れて暮しているとでも評するよりほかに仕方がない有様におちいって来ます。
道楽と職業 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
だが、誰もこたえるものはなかった。一同は闇の中に高く動悸どうきのうつ銘々めいめいの心臓を感じた。
恐怖の口笛 (新字新仮名) / 海野十三(著)
酔払った連中は、二つ返事で銘々めいめい美女をあいようし、威勢いせいよくシャムパングラスを左手にささげ立ったところを、ポッカアンとマグネシュウムがはじけて一同、写真に撮られてしまいました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
学生達は、伍長を中に一塊ひとかたまりになって茶館カフェーを出ると、銘々めいめい自分の行動に立派な理由を見出して、それにすっかり満足しながら、魔窟のある露地の方へ意気揚々と押し出して行った。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
一、上野介殿十分に討取候とも、銘々めいめい一命のがるべき覚悟これなき上は、一同に申合せ、散々ちりぢり罷成まかりなり申まじく候。手負ておいの者これ有においては、互に引懸ひっかけ助け合い、その場へ集申べきこと。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
自然の冷蔑れいべつにどやされて、眼がさめてみると、今さらのように、ものものしい引ッさげ刀も、急に気恥かしくなったか、銘々めいめい、ひとまず光り物をさやにおさめて、猫間堤のかげへ寄った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
医師は医師で、産婆は産婆で、私は私で、銘々めいめいの不安に捕われてしまった。その中で何等の危害をも感ぜぬらしく見えるのは、一番恐ろしい運命のふちに臨んでいる産婦と胎児だけだった。
小さき者へ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
銘々めいめい自分の訳したのが原書に一致して居ると信じて居られるに違いあるまい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
係蹄で捕れた兎の肉を、串にさして榾火ほたびで焼きながら、物語をしたら楽しかろうと思った。囲炉裡いろりの火は快よく燃える。銘々めいめい長く双脚を伸して、山の話村の話、さては都の話に時の移るをも知らない。
白峰の麓 (新字新仮名) / 大下藤次郎(著)
わらべ達 (銘々めいめいに)うん、行きたい! 行きたい! 行きたい!
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
何か話のついでには拝借地の有名無実なるをき、等しく官地を使用せしむるならば之を私有地にして銘々めいめいに地所保存のはかりごとさしむるにかずと
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
「可哀想なことをしました。銘々めいめい身一つで逃げるのが精一杯で、竹松が逃げおくれたことに気がつかなかったのです」
かくも、私達はそうして、私達の最初の夜を、美しい夢の様にすごしてしまったのである。無論私達はホテルに泊りはしないで、夜更よふけに、銘々めいめいの家に帰った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
その代りに銘々めいめいに何か望みの本や玩具を買ってやる事にして、それで現代が生み出したこの一種の新しい父親の義務といったようなものをゆるしてもらう事にした。
小さな出来事 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
紙やセルロイドの色々の玩具で育てられた人はほとんと想像も出来ぬ話であるが、以前の子供は春の立ち帰るを待ち兼ねて、こうして銘々めいめいの遊戯材料を求めたのであった。
並居なみいる幕僚は、思わずハッと顔色を変えた。そして銘々めいめいまなこをギョロつかせて、室内を見廻した。もしやそこに、見馴みなれない新兵器がいつの間にやらはこびこまれていはしまいかと思って……。
(新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし、こう云う問題は、銘々めいめいの主観の問題です。僕が、の人がこうだと云っても、貴君あなたにそれが分らなければ、それまでの話ですが、かく云って見ましょう。それは、誰でもありません。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
梅軒はいって、行動する手筈をもういちどそこで銘々めいめいに、繰返した。銘々は、黙ってうなずいた。——そして、では行けとばかり、谷川橋から一筋道の辺りを指して、雲の中へ、掻き消えてしまった。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この時に至ればもはや平生の厳しい法律も宗規しゅうきもみな自由に解かれてしもうて、さながら魚が網から飛出して再び大海に泳ぎ出したかのごとくに、銘々めいめい勝手かってに自分の思う儘をやるという有様です。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
官軍の事をも感服しない、戦争するなら銘々めいめい勝手にしろと、裏も表もなくその趣意しゅいで貫いて居たから、私の身も塾もあやうい所を無難ぶなんに過したことゝ思う。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
どうだ、諸君、ここで、銘々めいめいの、身の明りを、立てて、サッパリした、気持で、別れる、ことにしては
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「悲愴シンフォニー」の演奏を聴いた人々は、作曲者チャイコフスキーの訃報ふほうを耳にして、涙を流しながら銘々めいめいの家路に向った。それは一八九三年十一月六日のことである。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
牛や犬・猫・鶏には、もちろん銘々めいめいの年取りがあったのみならず、同じ晩はまた道具の年越と称して、うすますの類まで、一ところに集めて鏡餅かがみもちを供える風が、実際はまだ決してまれでない。
夜の五つどき、弁天堂の下の海岸へ出て見ると、降るような星月夜の下に、波は思いのほかにいでいた。六隻の黒船は銘々めいめいに青い停泊灯を掲げながら、小島のように、その黒い姿を並べていた。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
弓矢を持って居るもあれば鉄砲ばかりを持って行く兵士もある。でよろいかぶとの上にはいずれも一人一本ずつ銘々めいめい色変りの小旗をしてごく綺麗きれいな装束です。むしろ戦場に臨んで戦争をやるというよりは
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
銘々めいめいの海水着を投げ掛け投げ掛け、妖精のハムミングを慕って所在の洞穴、藪蔭、安下宿から五月雨さみだれ時の蟹のようにめいめい装いを凝らして、ゾロゾロと這い出して来たのです。
銘々めいめいに身の廻りを注意して下さい。そして、怪しい奴があったら私に知らせて下さい
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
やなぎ白膠木ぬるでの木を削っていろいろの飾りをつけた祝い棒がこのために銘々めいめいに与えられる。それでたんたんと横木をたたいて、心まかせに鳥を追うことばとなえるのが、いわゆる鳥小屋の生活であった。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ふたりは銘々めいめいに一ばん気に入りの外出着を着て、腕を組まぬばかりにして門を出た。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
老探偵の挨拶に、四人の警官は物をも云わず、銘々めいめい右左から、青眼鏡と偽探偵の側へ駈け寄って、彼等の両手に飛びついた。青眼鏡の手を離れた長い槍が、音を立てて竹藪に倒れかかる。
妖虫 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
私達は銘々めいめい名を名乗った。
孤島の鬼 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)