)” の例文
原氏は名高い美術骨董好きで金に飽かせて古い由緒のある芸術品をひ込むと同時に、美術院の画家達の面倒をも見てゐる人である。
因より正當せいたうの腕をふるつてまうけるのでは無い、惡い智惠ちえしぼツてフンだくるのだ………だから他のうらみひもする。併し金はまつた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
それから、道具を新しくい、毎日々々それをいでは柄をすげ、道具調べの方をひたすら熱心にやっていたようでありました。
わたしはその息子のために、あの置時計をってやりたかった。息子がそいつをパタンと地上にたたきつける姿が見たかったのだ。
鎮魂歌 (新字新仮名) / 原民喜(著)
「いやその父のみかどは、今夏いらい、尊氏の歓心をうほうへ変っておられる。なぜか尊氏にはお弱いのだ。脅されていらっしゃるのだ」
学校には新しいオルガンが一台ってあった。初めての日はちょうど日曜日で、校長も大島さんも来なかった。その夜は宿直室にさびしく寝た。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
我は顔して浅はかなる好みを云ひ出でんも羞かし、且は日も逼りたれば是は寧ろ此家の主人が良しと思ひて作り置けるものを良しとしてはんかた
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
お雪は、ふと、美しい着物は着ていたが、なんにも、いたいものも購えなかった、芸妓げいしゃ時代の窮乏を思いうかべた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
牡馬を買うは牝馬ほど難からねど、なお如上の作法を踏まねばならぬ。以上は血統純粋な駿馬をう場合の事で、劣等の馬を買うは容易な事である。
伊東とお玉とは長い知り合いで、そもそも伊東がこの町に土地をったことからして、お玉の周旋であった。お玉は伊東のふるい友人宝沢たからざわ従妹いとこである。
暴風雨に終わった一日 (新字新仮名) / 松本泰(著)
初めて目に映る蒸汽船——徳川幕府がオランダ政府からい入れたという外輪型がいりんがたの観光丸がその海岸から望まれた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
復讐と同時に、ネネの歓心をったと信じ、必ず帰って来ると高言し哄笑した春日の尖った顔が、ざまァ見ろ、とばかり、私の胸の中で快よく罵倒ばとうされ尽すのだ。
腐った蜉蝣 (新字新仮名) / 蘭郁二郎(著)
八、各事件を通じて、体発見の直前に、被告は、夕刊、食料品をうためちょっと外出していること。
浴槽の花嫁 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
私はふと一策を案じ出して近所の洋酒屋からスコッチ、ウイスキーのポケット入りの壜をった。そうして、ベンチへもたれながら、其れをグビリ、グビリと飲み始めた。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その成績によっては、君の常々つねづね欲しいと云っておったロードスターをってやらんものでもない
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)
わたしは、洋服に下駄といふいでたち、宿の名を大きく書いた唐傘さして、林檎をひに出る。
独楽 (新字旧仮名) / 高祖保(著)
或時君の妹に何かいたいがというと、お前におれの妹が買物をして貰うというばかなことがあるか、買物ならおれがしてやる、くだらない事をいうなと言って私は叱られた。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
人力車を一台い、長袖の法被はっぴ長股引ながももひき、黒い饅頭笠まんじゅうがさといういでたちで、南地溝の側の俥夫しゃふの溜り場へのこのこ現われると、そこは朦朧俥夫もうろうしゃふの巣で、たちまち丹造の眼はひかり
勧善懲悪 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
何万円という多額の金を出して、アメリカの最新式除雪車をい入れ、日本へ持って来た時、或る場合にはそれが「立往生」を余儀なくされるのも当然の成り行きであると考えられる。
(新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
ふところに収めたる当世風の花簪はなかんざし、一世一代の見立みたてにて、安物ながらも江戸の土産みやげと、汗を拭きふき銀座の店にてひたるものを取出して、昔日むかし少娘こむすめのその時五六歳なりしものゝ名を呼べば
三日幻境 (新字旧仮名) / 北村透谷(著)
ついては誠に失礼でございますが、持合もちあわせている四十金を差上げますから、これでその真珠とやらをい整え、御全快になれば手前においても悦ばしく存じ、又お嬢様に於ても御孝行が届きますから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
けふの夜食やしよくやきパンにジヤムと牛乳ミルクはんとぞ思ふ。
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
「旦那、あなたはキプリング先生の書いた物をおひになりませんか。あの先生の物は滅多に手に入らないつていふ事でがすぜ。」
「宜からう。」とうなづいて、風早學士は林檎を一ツツた。そして彼は、此の少女に依ツて、甚だ強く外部からの刺戟を受けたのであツた。
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
おのれもまたをりを得てはんと、其家の在りなど予て問ひ尋ね置きたりしかば、直ちにそれかと覚しき店を見出して、此家こゝにこそあれとと入りぬ。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
泉原の周囲まわりの人々は一斉に振返って、奇声をあげた小さな日本人を不思議そうにみはっている。泉原は突嗟とっさの間に雑沓ざっとうの間を縫ってM駅行の切符をった。
緑衣の女 (新字新仮名) / 松本泰(著)
私はいよ/\電車へ乗る可く決心して、途中で酔の覚めないようにもう一本ウイスキーをった。
恐怖 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
日本最初の使節を乗せた咸臨丸かんりんまるがアメリカへ向けて神奈川沖を通過した時だ。徳川幕府がオランダ政府からい入れたというその小さな軍艦は品川沖から出帆して来た。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
が彼はよく、その火口湖の姿をおもい浮べながら、過ぎ去った日のことを考えた。それは彼が妻とはじめてその湖水のほとりを訪れた時、何気なくい求めた写真であった。
秋日記 (新字新仮名) / 原民喜(著)
四万円でわれた身だということに、今まで妙にこだわっていたのさえ変な気がした。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
それはまだ戦争時分だからたえ子は自転車で軽井沢にやって来て、パンとか菓子とか魚とかをやみでい入れ、私の家で持参の弁当をつかって午後も寒くならない間に戻って行った。
我が愛する詩人の伝記 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
かつて王倫おうりんをここで断罪にしていらい、義をとうとび、世間へは仁愛をむねとし、かりにも非道のそしりや恨みを民百姓にわぬよう、仲間の内は、古参新参のへだてなく、和と豪毅の結びで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何だつて、貴方、東京でつた靴ですから東京へ送り返すのです。こしらへた店でなくつちや、直しやうがないぢやありませんか。」
其日昼過ぐる頃、弟は学校より帰り来りて、おのれが釣竿、装置しかけなど検めゐしが、見おぼえぬ竿のあるを見出して、は兄上の新にひ給ひしにやと問ふ。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
「フン、女のくせに二合もけりや豪儀がうぎだゼ。」とお房はひやゝかに謂ツて、些と傍を向き、「だツて、一月ひとつき儉約けんやくして御覧ごらんなさいな、チヤンと反物たんものが一たんへますとさ。」
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
知つてゐてはずに歸つたらそれは神經に少しくらゐ應へるにちがひない。
京洛日記 (旧字旧仮名) / 室生犀星(著)
額安かくやすに、手取早く味覚の満足をふといつた風になり勝なので、感覚のさとさが段々だん/″\ゆるんで、しまひにはしびれかゝつて来るのではあるまいか。
茸の香 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
それから繻珍しゆちん夏帶なつおびとおめし單衣ひとえ綾絹あやぎぬ蝙蝠傘かふもりがさとを強請ねだられてはせられたが、これは彼の消極的經濟せうきよくてきけいざいに取ツて、預算よさん以外の大支出だいししゆつで、確に一だい打撃だげきであツた。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だが、画家ゑかきといふものは、時々ちよい/\木炭をぜににも事を欠くもので、そんな時には猿はまつたやうに墨汁すみの使ひ残しをめる。
「いや、近頃何時もふ林檎賣が出て居らんから、それで中止さ。」
解剖室 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
ベルンの市街まちを歩きながら、氏は瑞西スヰツツル製の懐中時計が世界に名高い事を思ひ出して記念のため一つつて置きたいと思つた。
と言つて女房に約束の黒繻子くろじゆすの帯を倹約しまつして、それをつて帰つた。——言ふ迄もなく画は黒繻子の帯と同格の値段だつた。
名士といはれる人達が、かういふ所へ出掛けると、記念のため何かひ取らなければならないのを原敬氏はよく知つてゐた。
たまには茶入や黒茶碗をはないとも限らないが、それは自分で薄茶をすゝらうためではなくて、物好きな東京の成金に売りつけようとするからだ。
平瀬家の入札に先代赤星家の主人は、この香炉としよくとを七千円でひ取つた。出入の骨董屋の値ぶみでしよくが千円、香炉が六千円といふ積りであつた。
(どこの国でも文学者や画家ゑかきなどいふてあひは、滅多に物をはないで、直ぐ楽書をしたがるものなのだ。)
つまり亭主は女房かない年齢としで笑窪を二つつた事になつた。