むじな)” の例文
こういういかさま師どもと一緒に、習慣は幾分異にしているが、やはり一つ穴のむじなといったような種の連中を、私はしばしば認めた。
群集の人 (新字新仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
勿論むじなは、神武東征の昔から、日本の山野にんでいた。そうして、それが、紀元千二百八十八年になって、始めて人を化かすようになった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は、子供のころ狸とむじなは別物と思っていたが、今から四、五十年前、栃木県に狸と貉の裁判があって、その正体がはっきり分かったのである。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
男「はっ……あーびっくりした、はあーえら魂消たまげやした、あゝおっかねえ……何かぽく/\くれえ物が居ると思ったが、こけえらはむじなの出る処だから」
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
内心では「こいつも同じ穴のむじなだわい」とひそかに監視しながら、事件の解釈と新しい証拠の拾集に没頭しはじめた。
闖入者 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
「う、うっちゃっといておくんなせえ、いいえこんな……こんな盗人ぬすっと野郎。そ、そこの不忍の池へ叩ッ込んで、む、むじなの餌食にでもしてやらなきゃ」
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
心臓を叩き抜かれた、墓場にいるはずの三伝が蘇ったなんて、なァるほどこのむじなども、利得金をひとりめにしようとして、芝居を仕組んでいるな。
地虫 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
驚くまいことか、下男はまっ黒なむじなのようなやつが縁の下にいると言って、それを告げに夫人のところへ走って行く。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
いったい、此奴こいつら、人間であるか、ただしは山のむじなであろうか。それは知らぬ。ただ踊る姿は人間の女で、笊は手振は足取りは鰌すくいにちがいない。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
「開けてみな、むじなたぬきなら、早速煮て食おうじゃないか。酒はまだあるが、さかなときた日には、ろくな沢庵たくあんもねえ」
もとより口実、狐が化けた飛脚でのうて、今時いまどき町を通るものか。足許あしもとを見て買倒かいたおした、十倍百倍のもうけおしさに、むじなが勝手なことをほざく。引受ひきうけたり平吉が。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
一つ穴のむじなと見破られたような心持がする。二人は適当な言葉が見つからずに、唯お辞儀をするばかりだった。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
ことに今の口振りで、兄も半九郎もどうやら一つ穴のむじなであるらしいことを発見した彼は、日ごろ親しい半九郎に対して、にわかに憎悪と軽蔑との念が湧いて来た。
鳥辺山心中 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家居には、狐やむじなの毛皮を用いて暖かにされる。喪の時以外は玉その他の装身具をきちんと身につけていられる。官服・祭服のほかは簡略にして布地を節約される。
現代訳論語 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
隣りの部屋に岩井の旦那を寝かしておいてどうも度胸のいいことさ。……して見れァ、踏絵も同じ穴のむじな。二人でしっぽり楽しんだ上、うまく手筈を、かいたんだ。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「いやですぜ、大牢のおかしらが。ことわざにも、おなじ穴のむじなは化かし合わぬ、というじゃありませんか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お半の方と香具師とが、同じ穴のむじなでは無く香具師としてはお半の方を憎みお半の方としては香具師を憎み、互に競って宗春公へ、中傷しているということであった。
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
長尾氏から狐や兎やむじなの話を聞きながら、たばこをふかしたり、林檎を噛つたりしてゐるうちに、銀鼠色の烟雨えんうが、つい入口に近い叢のなかに佗しく咲いた深山竜胆みやまりんどう
霧ヶ峰から鷲ヶ峰へ (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
むじなにだまされまた憑かれるといい、隠岐おきにてはもっぱら猫につきてかく申すとのことである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
私達は三角点の北方から発源して猫又川に注ぐむじな沢というのを登ったが、三時間を費した。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
同君の居村附近、すなわち小仏峠こぼとけとうげを中心とした武相甲の多くの村には、天明年間にむじなが鎌倉建長寺の御使僧ごしそうに化けたという話とともに、描いて残した書画が多く分布している。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
大寒十二月の節に相成りますると、むじなや狐などが、人家軒端や宅地などを、めぐりあるきました。貉はガイ/\/\と鳴き、狐はコン/\/\と鳴く。ケイン/\と鳴くもありました。
政治の破産者・田中正造 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
アンナ・ニコロに私は再び遅刻してしまう、恋のむじなは何故、さまで苦しむのか。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
藪さんの自殺なんて、八幡の藪知らずでリュウマチのむじなが迷つてゐるやうなもんですよ。しよつちう気まぐれなんだからね。お前さん一人が迷はせてるんと思ふと、大変なまちがひなんですよ
蒼茫夢 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
そうなってみると、一方から、この小胆にして多慾なる紙屑買をオドかして、蘆葦茅草をガサガサさせたいたずら者の何者であるかということも、存外簡単な問題であって、それはむじなでした。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
自分はなまじい遠くから女のにおいをいだ反動として、かえってじじむさくなった。事務所の往復に、ざらざらした頬をでて見て、手もなく電車に乗ったむじなのようなものだと悲観したりした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それかといって、全然芝居でない白真剣しらしんけんの立ち廻りだとしたら、いよいよ奇妙奇天烈で、狐や狸やむじなの類が乗せっこのバカシックラをしているのを、遠くから見ているようなわけになってしまう。
……大寒十二月の節に相成りますると、むじなや狐などが人家軒端や宅地などを多くめぐり歩きました。貉はガイガイガイと鳴き、狐はコンコンコンと鳴く、ケインケインケインと鳴くもありました。
渡良瀬川 (新字新仮名) / 大鹿卓(著)
取って押えろッ。こ奴共も、六松とやらいうた怪しい下郎と同じ穴のむじなやも知れぬ。いぶかしい手習師匠の住いさえ分らば、もうあとは足手纒あしでまといの奴等じゃ。押えたならば、どこぞそこらへくくりつけておけッ
「気の利いたむじなコだば化ける頃ですべ」
茶粥の記 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
銀座裏なら むじな棲居すまゐ
委細ゐさいに聞て其場へ立出樣々さま/″\いさかせし末畢竟ひつきやう花街くるわの小夜衣とか云娼妓おいらんも長庵とは伯父をぢめひとかの中成なれば一ツあなむじなならん然すれば勿々油斷ゆだんなら旁々かた/″\以て小夜衣が事は判然さつぱり思ひきり再度ふたゝびくるわゆかれぬ樣此久八が願ひなりとなほ眞實しんじつ委曲こま/″\との意見いけん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
むじな 子貉
十五夜お月さん (旧字旧仮名) / 野口雨情(著)
この集にはいっている短篇は、「羅生門」「むじな」「忠義」を除いて、大抵過去一年間——数え年にして、自分が廿五歳の時に書いたものである。
羅生門の後に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
廊下に付けた足跡は、両国の獣肉屋ももんじやで手に入れた、むじなの足のからくり——そんな事までして私は、お嬢様の並々でない物好きな心持を掴んだので御座います
ビールとも思わないでもなかったが、ういうことに余り気がつき過ぎるのは却って危険と考えたのだった。一つ穴のむじなは目に見えないところにねんを使っている。
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
石田家の六畳で、かたちばかりの式をあげ、大家のむじなのおじいさんが、めでたく謡をうたいおさめた。
我が家の楽園 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
これを狐狸またはほかの動物の人体に憑付ひょうふして起こすものと考え、ある地方にてはその原因を狐に帰し、ほかの地方にては狸もしくはむじなもしくは猫、蛇等に帰するのである。
迷信解 (新字新仮名) / 井上円了(著)
もとはむじなが出て豆を食って困りました。犬を飼っていて、よく噛み殺させたものでがす。
雪国の春 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
横穴のむじな生活の方が、戸締まりがあって寒風が吹き込んでこないだけ結構であろう。
烏恵寿毛 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
といえば、もとより同穴ひとつあなむじなにて、すべてのことを知るものなれば、銀平はうなずきて
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「言わいでか。紅白粉べにおしろいを塗りたくって、さもなまめかしゅうしていやがるが、一ト皮けば、その下はむじなか狐とも変りはなかろう。舞台の夜は前芸で、奥の芸は女の淫を売る女狐めぎつねじゃわ」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夫からは上越の国境山脈を辿り、露営四泊にして二十七日午後三時大白沢山の一角に達し、猫又川を下りてむじな沢から至仏山に上り、ヘエヅル沢を下って二十九日に柳淀に帰着したのである。
利根川水源地の山々 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
「いいつけといたはずだがね。あっはっは、とんとむじなの道だよ。」
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
むじながワナにかかっただけのものです。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
それ以来、この村では、むじなの唄を聞いたと云う者が、何人も出るようになった。そうして、しまいにはその貉を見たと云う者さえ、現れて来た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「いや、この上用を言いつけられて、縁側でガヷナーと鉢合せでもしようものなら、又むじな扱いにされる」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
朝から始まつて夕刻まで、藪といふ藪、林といふ林、墓地から田圃から、町家の裏、軒の下、下水の中まで探し廻りましたが、狸はおろか狐もむじなも飛出しはしません。
誠に深山に自ら生れ出でたる者なれば、かの洪荒こうこうと云ふ世の例も思ひ出でられてかゝる物食ひたるは始めての事なるべしと思はる。暫くありて此者きつねむじなおびただしく殺しもて来り与へぬ。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
おんなじ様に、越前国丹生郡天津村えちぜんのくににゅうぐんあまつむら風巻かざまきという処に善照寺ぜんしょうじという寺があって此処ここへある時村のものが、むじな生取いけどって来て殺したそうだが、丁度ちょうどその日から、寺の諸所しょしょへ、火が燃え上るので
一寸怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)