西蔵チベット)” の例文
旧字:西藏
宇治黄檗山おうばくさんの山口智海という二十六歳の学侶が西蔵チベットへ行って西蔵訳の大蔵経(一切経または蔵経、仏教の典籍一切を分類編纂したもの)
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
通訳に立ったのは、西蔵チベット探険で有名な河口慧海師で、師は、枯木のような体に墨染の法衣をまとい、タゴール翁と並んで壇上に立った。
印度の詩人 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
インド産のスロース・ベーアというものと、西蔵チベットむ特種を除いたほかは、世界中ほとんど共通した形体と、内容を持ったこの動物。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
禅僧は新たに道をひらいて西蔵チベットをたずね、白馬は仏典を背負いてふたたび来たる。阿耨達アノクタツ池に三たび宿住し、金剛宝土ダージリンに四年にして帰る。
西航日録 (新字新仮名) / 井上円了(著)
今もそのままになっているが、これはもう一度必ず作り直す気でいる。西蔵チベット学者河口慧海先生の首や坐像を記録的に作ったのもその頃である。
自作肖像漫談 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
ちょっと西蔵チベットの字に似ていて面白いね。落款の印はこれはヨルダン河の石をそのとき欠いて彫ったものだ。裏に書いてある。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
即ち英の西蔵チベットに望むところは、ただそれを他の勢力に帰せしめざらんとするに止まるので、なんら略奪を企つるものでない。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
天神これを見て「なべて世の愚者が衆愚を導びかば、井戸の月救う猴のごと滅ぶ」コラサイと唄うたとづ(英訳シーフネル『西蔵チベット譚』三五三頁)
埃及エジプトのカタコンブから掘出した死蝋しろうであるのか、西蔵チベット洞窟どうくつから運び出した乾酪かんらく屍体したいであるのか、永くいのちの息吹きを絶った一つの物質である。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それこそはたびたび聞いた西蔵チベット魔除まよけのはたなのでした。ネネムはげ出しました。まっ黒なけわしい岩のみねの上をどこまでもどこまでも逃げました。
西蔵チベットより来れるよし。恒豊号と言う店に入り、喇嘛仏の画数枚を購う。この画、一年に一万二三千元売れると言えば、喇嘛画師の収入も莫迦にならず。
北京日記抄 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
すると、西蔵チベット靴をかたりかたりとさせながら、活仏いきぼとけの影がすうっと流れてくる。むくんだ、銅光りのする顔がちょっと覗いたが、それはやがてひれ伏した。
人外魔境:03 天母峰 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
今でも西蔵チベットその他の未開国には一婦多夫と女の家長権とが古代のおもかげのこしている。文明国においても娼婦しょうふ妓女ぎじょのたぐいは一種の公認せられた一婦多夫である。
私の貞操観 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
なんでもこのものの生国しょうこく西蔵チベットだということでありますが、幾歳いくさいになるかわからないような人間にんげんでありました。せいひくく、ひかりは、きらきらとひかっていました。
北海の白鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
今に日本の勢力が新疆しんきょうから四川、雲南、西蔵チベット方面の英、仏、ロシアの勢力を駆逐して中央アジアからアフリカへ手を伸ばす時の準備を今から遣っているんですが……
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
赤道に近いにも拘わらず印度洋を払拭ふっしょくして来る風が、多量の水蒸気を齎らすのに反して、北は西蔵チベット高原から吹きつける暑熱の乾燥した風であるために、南と北では
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
これがKの、西蔵チベットのお伽噺——恐らくはKの創作であろう——というものであった。話上手のKから聴かされては、この噺は幾度聴かされても彼にはおもしろかった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
これは私の召使いの一人が話したことであるが、私は西蔵チベットの仏教徒たちの祈祷輪を思い出した。
そこで僕は二年の間は西蔵チベットに旅行し、拉薩ラッサに遊んで、剌麻教らまきょうの宗長とたのしい数日も暮した。
現今の青海省地方——いわゆる欧州と東洋との大陸的境界の脊梁せきりょうをなす大高原地帯——の西蔵チベット人種と蒙古民族との混合体よりなる一王国をさしていっていたものかと考えられる。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西蔵チベット世界せかい屋根やねといはれてゐるほどで、くに全体ぜんたいたか山々やまやまつらなりだ。その山々やまやまなかでもぐんいてたかく、西蔵チベット屋根やねともいはれるのが、印度インドとの国境こくきやうまたがるヱヴェレストざんである。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
兄光瑞師——新門しんもん様——法主の後嗣あとつぎ者が革命児で、廿二、三歳で、南洋や、西蔵チベットへいっていることを見ても、その人たちと似た気性といえば、武子さんはなみなみの小さい器ではない。
九条武子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
支那四川省と西蔵チベットとの界に近きコンカ・リスムゴンバは、其地方に於ける聖山として巡礼者の群が絶えず其麓を巡礼し、其山が見られる峠という峠には必ず祭壇が設けられてあるという。
山の今昔 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
各新聞社の蹶起けっきを先頭として続々大仕掛けの捜査隊が派遣せられ、およそ一年半近くも蒙古もうこ新疆しんきょう西蔵チベット印度インドを始め、北極の方まで探し廻ったが、皆目かいもく消息がしれなかった、というのでしたね。
空中墳墓 (新字新仮名) / 海野十三(著)
喇嘛王宮ラマおうきゅうの女官の中には左様な馬鹿者は居りません。西蔵チベットに産れた女子共は王宮の女官に用いられることを畢世の願望といたして居ります」
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
更に西蔵チベットの関係を見るに、これもまたしかりである。西蔵チベットはもしそれが他の勢力を帰すると、直ちに印度インドがそのおびやかすところとなるという地勢である。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
船長おやじを探すらしく巨大なバナナを抱えて船長室を駈出かけだして行く青服の少年こども船長おやじは手招きして呼び上げた。俺が買って来た西蔵チベット紅茶の箱を、鼻の先に突付つきつけて命令した。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
特務曹長「なるほど西蔵チベット馬のしるしがついてります。」(兵卒三これを嚥下す。)
饑餓陣営:一幕 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
アストレイの『西蔵チベット記』に、大喇嘛ラマの糞尿を信徒に世話しやりて多く利を得る喇嘛僧の事を載す、蒙古人その糞の粉を小袋に入れ頸に掛け、その尿いばりを食物におとして用うれば万病を除くと信じ
西蔵チベット産の蛇酒の空瓶が並んでいるし、壁には優男やさおとこの役者の黄金台の画が貼ってあるし、いや、それより、何より参木の着ているこの蒲団は、もう男たちの首垢で今はぎらぎら光っているのだった。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
タルゴ・ガングリ Targo-gangri 山を発見せられたが、この「ガングリ」なる名は、しばしば西蔵チベット語に出て来る「氷の山」の義で、常に崇高な氷雪を戴いているため、チベット人は
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
がらにもなくこんなことをかんがえて、西蔵チベットんでる仲間なかまからす一々いちいちたづねてはなしたが、みんな日頃ひごろラランの悪知慧わるぢえをよくつてゐるので、だれ一緒いつしよばうとするものがなかつた。ラランは不気嫌ふきげんだつた。
火を喰つた鴉 (新字旧仮名) / 逸見猶吉(著)
康凞こうき帝の治世に西蔵チベット叛す。官軍ことごとく撃退さる。って皇帝諸国に令し、賊滅するものを求めしむ。少林寺の豪僧百二十八人、招に応じて難におもむく。
銅銭会事変 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
英にしてすでにしかりとすれば、自余の諸国になんで一指を西蔵チベットに染むるを欲するものがあろう。仏国の南清に於けるもまた同様である。仏国は今日その有する一の東京トンキンにさえ困っている。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
「御註文の西蔵チベット紅茶です。やッと探し出したんです」
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
変えて西蔵チベット国民ばかりでなく原始仏教の信仰者——トルキスタン人や錫蘭セイロン島人やボハラ人や暹羅シャム人やキルギド人達の信者に依って極楽浄土の象徴かのように崇められるだけの美観うつくしさを
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)