蝟集いしゅう)” の例文
しかし、しばらくすると、一方の争闘が止んで、捕手の影が一団に蝟集いしゅうしたので、それが千束の稲吉を囲んでいたのだと知れました。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雑誌を持っていてその誌上を割き与えることの出来る作家の周囲には今後も益々文学志望者がその習作と共に蝟集いしゅうするであろうと思う。
今日の文学の鳥瞰図 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
物見ものみ高くも東洋人の周囲に蝟集いしゅうし、無人島探険にゆくつもりであるか、とか、支那の戦争はまだやみませぬか、とか、口々にたずね始めた。
或新時代の評論家は「蝟集いしゅうする」と云う意味に「門前雀羅じゃくらを張る」の成語を用いた。「門前雀羅を張る」の成語は支那人の作ったものである。
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
もはや動かないその彼女に、勤勉な真黒い昆虫たちが蝟集いしゅうしている。……かわいそうに、と私は口の中でいった。が、それも止むをえないことだ。
非情な男 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
そこから私は彼女を連れて、白首女の蝟集いしゅうする裏町へ行って、チョップ・ハウスのサルーンで、一夜そこの踊子たちの仲間入を彼女にさせました。
大阪万華鏡 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
係官は、博士の死体のまわりに蝟集いしゅうした。実に見るも無惨な死にざまであった。顔面はグシャグシャに押し潰され、人相どころの騒ぎではなかった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大人達のチャセゴは、軒々を一軒ごとに廻るのではなく、部落内の、または隣部落の地主とか素封家そほうかとかの歳祝としいわいの家を目がけて蝟集いしゅうするのであった。
手品 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
彼らの旗幟の下に自ら望める追随者を蝟集いしゅうせしめた原因は、しばしば全く看過されている、という事実である。
刻々に大きくなってゆく黙々たる軍隊の蝟集いしゅうなど、すべて暴動の周囲を徐々にとり囲み引き締めてゆく恐るべき帯が、上からはっきり見て取られただろう。
借款全盛の支那の将来は果して如何いかん。経済上大なる利益の声のある所には、欧米の資本家はたちま蝟集いしゅうする。
三たび東方の平和を論ず (新字新仮名) / 大隈重信(著)
屋敷の門の前に蝟集いしゅうしていた農民共が、見迎え見送りながら、一斉に歓呼かんこの声を浴びせかけました。
灯を消して蝟集いしゅうしているモーターボートの首を連ねて、鎖で縛られた桟橋の黒い足が並んでいた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
またそのガスの中から光を慕って蝟集いしゅうするおびただしい渡り鳥の大群などによって、偶然にも作られた明暗であり、それがまた尾をつけひれをつけて疑心暗鬼を生むのであろう
灯台鬼 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
いわんやその命を捧げた乾児こぶんどもが、先生とか、親分とかいって蝟集いしゅうして、たよりすがって来るに於てをやである。浪人生活の悩みは実にかかってこの一点に存すると云っても過言でない。
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
だから自分は、度を知らず蝟集いしゅうきたり、大火に対してなんの防備もないあの厖大な都市を築いていった人々の愚をわらうことはできぬ。しかし今はその愚をわらう嗤わぬが重大なのではない。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
春吉君は意味もなくねんどをひねりながら、いきをのんて、おもてをふせた。みんなの視線が、ちょうどいつも石太郎の上に蝟集いしゅうするように、きょうは、じぶんにそそがれているのだと思いながら。
(新字新仮名) / 新美南吉(著)
そのような極北の情慾は、わばあの虚無ではないのか。しかもニヒルには、浅いも深いも無い。それは、きまっている。浅いものである。さちよの周囲には、ずいぶんたくさんの男が蝟集いしゅうした。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
ここには避難者がぞくぞく蝟集いしゅうしていた。
夏の花 (新字新仮名) / 原民喜(著)
それらの人影も、師走しわすらしく、たちまち蝟集いしゅうして、たちまち散った。あとには、路傍の枯れ柳と、大岡市十郎だけが残っていた。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
河岸かしぶちの博士邸をめぐって、どこから集ったのか弥次馬が蝟集いしゅうしていた。彼等のかさなりあった背中を分けてゆくのにひと苦労をしなければならなかった。
人造人間事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
今その門を経て次の生活期に移ろうとする時、伸子の魂を満す、この苦しい、この輝いた、追想の蝟集いしゅうを、何と母に告げよう。そしてまた、伸子は涙のすきに思うのであった。
伸子 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
テーブルの周囲に蝟集いしゅうする面々は、いかなる次第に属するのか、みな一様に切迫した面持をし、手帳に数字を書き込み、何やら計算し、忙しくささやきかわし、はなはだしきは額に玉の汗をうかべ
がそれは一種の猶予にすぎなかった。それらの勇士のまわりには、幻影の蝟集いしゅうするがごとく、騎馬の兵士の影像、大砲の黒い半面、車輪や砲架を透かして見える白い空などが取り巻いていた。
そこからいっさいの悪臭ある流風が素朴質実なる地方に伝染した。大火の惨害の原因を辿たどれば、結局はかくのごとく一か所に蝟集いしゅうしてかくのごとき都会を築造した人間の愚に突き当たるであろう。
地異印象記 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
やがて、時刻となると、公卿百官は、宴に蝟集いしゅうした。すると、酒もたけなわの頃、どこからか、呂布りょふがあわただしく帰って来て
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
大隅学士は、額から脂汗あぶらあせを流しながら、へやの中央に蝟集いしゅうしている白幽霊の一団の前に進みいでた。彼はこわごわ彼等の様子を観察した。彼等はまるで白寒天しろかんてんのように半透明であった。
地球盗難 (新字新仮名) / 海野十三(著)
大講堂には、もう、人が蝟集いしゅうしていた。明日、かついで下山するばかりに用意のできている三社の神輿みこしは飾られてあった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
射墜うちおとされた敵機の周囲には、激しいいかりに燃えあがった市民が蝟集いしゅうして、プロペラを折り、機翼きよくを裂き、それにもあきたらず、機の下敷したじきになっている搭乗将校とうじょうしょうこうの死体を引張りだすと、ワッとわめいて
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ゆうべから徹夜で土をかついでいた人夫も、いま交代して、堤の土盛りにかかり出していた人夫も、すべてその組々の親方に従って、一ヵ所に蝟集いしゅうした。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もとより見るにまかせてあるので、市民は朝から夕べまで蝟集いしゅうした。それだけで充分このことの政治性はあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幾つもの赤い火が蝟集いしゅうして、一疋の百足虫むかでのような形を作りながら、山と山の間を縫って来るものとおぼえます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、伝え合うと、諸方にかくれていた敗軍の蛮将蛮卒は、たちまち蝟集いしゅうして彼をとり巻いた。そして口々に
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それまでは屯々たむろたむろに、ただ蝟集いしゅうしていたに過ぎない全兵員が、忽ち草を蹴って立ち、列伍を正し、おおよそ三段にわかれて、旌旗粛然せいきしゅくぜんと勢揃いのていをととのえた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またその辺りから一帯の街道、平野、部落へかけて、麾下きか諸侯の幡旗ばんきや、各隊のつわものの指物さしものが、霞むばかり蝟集いしゅうして、宛然えんぜん戦捷式せんしょうしきかのごとき盛観を呈した。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼のいちばんお花客とくい先は、横浜の船渠ドック会社であった。まだ菜っ葉いろの職工さえその門に見えないうちに、全市のかんかん虫は煙のように高い煉瓦塀の下に蝟集いしゅうする。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
どこの宿屋にも公平に内風呂というものはないので、そのの字なりの町のまんなかにある三むねの大湯へ、四方の旅籠はたごのお客様がみな手拭てぬぐいをブラ下げて蝟集いしゅうしていた。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに六万五千人の人間が、地上に一建築けんちくをもりあげるため、ありのごとく土木どぼく蝟集いしゅうしている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、おごそかに、草門そうもんを開いて、病人を救いに出たが、その時もう、彼の門前には、五百人の者が、弟子にしてくれといって、蝟集いしゅうしてぬかずいていたということである。
三国志:02 桃園の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
諸国のやからは、みな宮の挑戦を怒って、いつとなく六波羅に蝟集いしゅうし、必定ひつじょう、禁裡のお方も宮の同腹ぞと申し合せ、不穏の気をいでおりますため、尊氏自身、かくては一大事と
と、たちまちこの仕事場へ人力が蝟集いしゅうしてきた理由の第一はその効果だといってよい。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御猟みかりの供は十万余騎ととなえられた。騎馬歩卒などの大列は、蜿蜒えんえん、宮門から洛内をつらぬき、群星地を流れ、彩雲さいうんをめぐって、街々には貴賤老幼が、されるばかりに蝟集いしゅうしていた。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが一国一城のあるじとか、一方の将とかになって、重責じゅうせきを感じ、自重を怠らないでいるときは、各〻、しかるべき人柄を保っているが、酒に蝟集いしゅうして、座興放談にふけりなどしていると
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
老爺おやじの指さすほうを見ると、この空地のうちでは最も大きな矢来が一つ見える。幻術者げんじゅつしゃの群れが興行しているのだという。見物は、木戸口に蝟集いしゅうしていた。又八が近づいて行ってみると
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
年賀の客は、去年より倍加して、春の装いも新たなる大坂城門に、蝟集いしゅうした。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
人招きをしているらしく、蝟集いしゅうする顕官のくるまから、眼もあやなばかり、黄金こがねの太刀や、むらさきの大口袴おおぐちや、ぴかぴかするくつや、ろうやかな麗人がこぼれて薔薇園のにわと亭にあふれているのが
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、ここ大宝郷へ、蝟集いしゅうして、肩摩轂撃けんまこくげきの人波をその日には見せた。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
新興難波なにわの大坂は、一夜明ければ明くるごとに、隆々たる旭昇の勢いをもって、人心と物資を蝟集いしゅうせしめつつあるに反し、ここ東海浜松を中心とする駿遠甲信すんえんこうしんまたがる一団の雷雲は、むしろ晦冥濛々かいめいもうもう
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三江をさかのぼること七、八十里、大小の兵船は蝟集いしゅうしていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)