自家うち)” の例文
「冬はこんなものきりしかございません。これは青豆を乾したものですがこれは自家うちでこしらえたものです。どうぞ、旦那様に……」
故郷 (新字新仮名) / 魯迅(著)
「昔自家うちにちよい/\来た時分には、俺はよく知らんが、何でもお前の部屋で騒いだりして、いやに活溌な奴らしかつたぢやないか」
朧夜 (新字旧仮名) / 犬養健(著)
彼等はその何処からでも、陸にある「自家うち」の匂いをかぎ取ろうとした。乳臭い子供の匂いや、妻のムッとくる膚のにおいを探がした。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
「お母さん、自家うちのことは好いが、彼の山には鬼婆が出ると云いますから、日が暮れたなら、泊って来るが宜しゅうございますよ」
白い花赤い茎 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
んぼんでも、不意に二人でいんだら、うち喫驚びつくりしますがな。』と、お光は自家うちへ小池を伴なつて歸るのをしぶる樣子であつた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私はまだブロクルハースト氏の訪問のことを云はなかつたが、事實、私が此處へ着いてから一月の間は、殆んど自家うちにゐなかつたのだ。
自家うちの親類は皆な薄情だから、俺に若しものことがあると困るのは貴様だけだぞ。どんな相談相手だつて自家にはないよ……」
父の百ヶ日前後 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
私の思ったのはその手代きりです——どうしましたか、私は自家うちを飛びだしてから妙な方にれてしまったから、ただそれだけのことです
雪の日 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
自家うちまでいて来られては、父母や女房の手前もある。ましてこの為体のしれない物騒ぶっそう面魂つらだましい、伝二郎は怖気おぞけを振ったのだった。
彫る技は実に達者なものでありますが、もう少し図がよかったらと思います。ここの「日光羊羹にっこうようかん」は誰も自家うちへ持ち帰るでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
「あの子は育たないかも知れませんよ。阿母おっかさんは心配して乳が上っているんですもの。脚など、自家うちの子くらいしけアありませんよ。」
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
役所に出て居て読むのは勿論もちろん、借りて自家うちもって来ることも出来るから、ソンな事で幕府に雇われたのは身のめに大に便利になりました。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
近くに自家うちがあるのにそんなことをしては、ますます次郎をひがましてしまうのではないか、という心配が俊亮にはあった。
次郎物語:02 第二部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
己れは其樣な物は貰ひたく無い、お前その好い運といふは詰らぬ處へ行かうといふのでは無いか、一昨日自家うちの半次さんが左樣いつて居たに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
「うむ、そういたしてくれ、かたじけない——お願い申すよ、何せこの荒くれた世帯、たまには自家うちの中にも、花が咲いてくれなければ——」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
かみさんや娘は、油煙ゆえん立つランプのはたでぼろつぎ。兵隊に出て居る自家うちの兼公の噂も出よう。東京帰りに兄が見て来た都の嫁入よめいりぐるまの話もあろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自家うちのものは余り安過ぎたなど、私の師匠なども後で申された位でありました。万事こんな訳で、十年の博覧会も一段落ついたことでありました。
ジュッ、ジュッ、堯は鎌首をもたげて、口でその啼き声をねながら、小鳥の様子を見ていた。——彼は自家うちでカナリヤを飼っていたことがある。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
自家うちではどうしても、これから百日と計算して、一家八人、割当だけでも約六俵は必要なのに……それが一俵しかない。
(新字新仮名) / 犬田卯(著)
と、急に胸が押しつぶされるように苦しくなり出して、頭を振り、またうなだれ、そして自家うちへ帰るとその夜っぴて不眠に悩みあかすのであった。
学校のおひるに生徒の半分程は自家うちへ帰つて食事をする人でしたが、私も加賀田さんもその仲間でした。それで或時私は
私の生ひ立ち (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
配達夫が自家うちに來てわたくし手招きでお兄さまのお便りだと知らすと、お父さまは狂氣のやうになつて、ほんとにこけつまろびつ歸つて來られます。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
自家うちでしょっちゅう聞いていたから話せるのよ。あなただって、聞きつければ、きっと話せるようになってよ。」
老婆 おや、それじゃあきっと自家うちの若い人たちと一緒ですよ。安重根とかいう人が来たと言って、商売をおっぽり出して駈け出して行きましたから。
「なるほど仁木先生に違えねえ、これじゃあどうにもしようがねえから、とにかく自家うちへおつれ申すとしよう」
初午試合討ち (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「小母さんは怜悧りかうな人だから、自家うちへ来れば他人から呼び捨てにされないと、ちやんと知つてゐたんですよ」
鳥羽家の子供 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
新らしき床屋の番地を、心底深く牢記ろうきして呑み友達の家で、酒盃を挙ぐる間に忘れもせず、自家うちへ帰ってから、CとSの書損いを、ハガキで注意してやるのである。
青バスの女 (新字新仮名) / 辰野九紫(著)
あの娘は、車の中でしくしく泣き出していました。自家うちへ帰り度いと言うのです。早くうちへ伴れて行かないと、お母ちゃんに言いつけるといって、泣くんです——
双面獣 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
わたくし他所よそ情婦おんなをつくりましたのは、あれはホンの当座とうざ出来心できごころで、しんから可愛かわいいとおもっているのは、矢張やは永年ながねんって自家うち女房にょうぼうなのでございます……。
ひとりで、こっそりと自家うちの物干竿を持出して、人のいない頃を見すましては、近くの小学校の運動場で練習したのであった。勿論、友達にも誰にも話しはしなかった。
プウルの傍で (新字新仮名) / 中島敦(著)
自家うちの殿様は決してそんなのじゃない、あまりまじめ過ぎる点で皆が困っているほどなのだ。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「嘘だよ。だけど、自家うちへは、黙っていておくれ。お里にも、お喜代にも。——いいかえ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それから自家うちの奥さんお客さんなどおもな者から下僕しもべに至るまで順々にやってしまいますと
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「要らんことばっかしてな。お前ら自家うちの財産減らすことより考えやせんのや。」
南北 (新字新仮名) / 横光利一(著)
君のことを話し合えるのは実にうれしい! (そのことに神の祝福あれ!)僕の義理の母の家は君にはほんとうの自家うち以上の自家うちだった、ことに君の立派なお母さんが亡くなられて後は。
「お嬢様、誠に有難うございました。宿のものが心配しているといけないから、一旦自家うちへ帰りまして、改めてお礼に伺います。お母様がお帰宅になったら、どうぞ宜しく申上げて下さい」
P丘の殺人事件 (新字新仮名) / 松本泰(著)
それから廿の年におやじがなくなったので、紙屋を暇をとって自家うちへ帰って来た。半月ばかりするとある日、おやじの代から使っていた番頭が、若旦那に手紙を一本書いて頂きたいと云う。
ひょっとこ (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「一疋一銭として百円余か、随分獲つたなあ、自家うちが一番多かつたらう?」
厄年 (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
初め自家うちにいる間は、ただちょっと読み書きの出来る小伜に過ぎなかったのが、やがてお邸の奥様お気に入りの女中頭でアガーシュカとか何とかという女と夫婦いっしょになって、自分は倉番になり
自家うちの兄さんはいつ見ても若い。ちっともけないところを
贋物 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
親爺は、自家うちに作りたい畠だと云って、売り惜んだ。
浮動する地価 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
大きな朱のたこ自家うちから揚る。
思ひ出:抒情小曲集 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
「あなた、自家うちの子にいろんな物をやってくれたでしょう。主婦さんそういっていた。……あんなにしてもらうと、私顔が立っていいの」
うつり香 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
持つたのは、あれは確かにお蝶さんの為ばかしぢやないのよ、確かにお客の為よ、自家うちだとお母さんが厭な顔をするもので……
父の百ヶ日前後 (新字旧仮名) / 牧野信一(著)
れは其樣そんものもらひたくない、おまへそのうんといふはつまらぬところかうといふのではないか、一昨日をとゝひ自家うち半次はんじさんが左樣さうつてたに
わかれ道 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
田舎にいたおり、村の出入りを扱うことのうまかった父親は、自家うちの始末より、大きな家の世話役として役に立つ方であった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
そしてその妓楼いえを見届けると、自家うちへ帰ってひるまで寝た。彼が妓楼ぎろうというものに始めて上がったのはその夕であった。
自家うちは正月元日でも、四囲あたりが十二月一日なので、一向正月らしい気もちがせぬ。年賀に往く所もなく、来る者も無い。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自家うちにゐれば、毎朝行くことになつてゐる便所にも行かなくなつた。粗食と運動不足がすぐ身體に變調を來たさした。四日目の朝、無理に便所に立つた。
一九二八年三月十五日 (旧字旧仮名) / 小林多喜二(著)
「なぜ笑やって、その話は嘘じゃよ、これはある学者が、嘘に云うた話じゃそうじゃ、自家うちの伯父さんが話したよ」
放生津物語 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)