臨終いまわ)” の例文
……殿には、御縁あってかく御厚遇をうけましたが、かえりみるに、何の御奉公も仕らず、ただそれのみが、臨終いまわの心のこりにござります
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
われがにたっだ一言臨終いまわに言い残す事があるから此処こけえ呼んだんだが、おかめも此処こけう、多助も此処こけう、おえいも五八も皆呼んでくれ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
しかるに御身は殊の外の人を忌嫌い候様子、拙者の眼に相見え候えば、むすめながらも其由そのよしのいい聞け難くて、臨終いまわの際まで黙し候
琵琶伝 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
臨終いまわきわに、兼てより懇意こころやすくせし、裏の牧場まきばに飼はれたる、牡丹ぼたんといふ牝牛めうしをば、わが枕ひよせ。苦しき息をほっ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
子としての道を歩もうとすれば、母親の臨終いまわ妄執もうしゅうを未来永劫えいごうくことが出来ず、浮かばれぬ母親の亡魂をいつまでも地獄へ落として置かねばならぬ
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
人間の臨終いまわきわというものはこういう具合に消えて行くものであろうかというような感覚が起って来たです。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
いや、ことによったら、それは九十になる老人の臨終いまわのきわのうわごとかもしれない。幻想かもしれない。
この刀は、祖父から伝来のもので、父臨終いまわのきわにこれを汝に譲るぞ、この刀をば父と思って殿に忠勤を励めと、くれぐれも申し聞けられました景光にござります。
稲生播磨守 (新字新仮名) / 林不忘(著)
というのがその臨終いまわの言葉でありました。そのほかには何らの遺言とてもありませぬ。真に独逸武人らしく立派なる最期であったことを御満足あられますよう願い上げます。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
舌をかんでの狂い死にの、その臨終いまわの一刹那せつなとも知らず、抱きしめの激しさに、形相ぎょうそうの怖ろしさに、ぐいぐいと締めつける、骨だらけのかいなの中から、すり抜けて思わず壁ぎわまでげ出し
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
そして細君の臨終いまわの言葉をそのまま実行しようと決心した。
謎の咬傷 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
最終いまわの遊宴……最終の呼吸……糸のごと臨終いまわ喘咽あえぎ
……もうわが身などにかまわず、少しも早く和子のお身をこの重囲の外へ扶け出して下さい。それが頼みです。臨終いまわきわのおねがいです
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
臨終いまわにお父様が仰せられた——渡すな、文書を、懐中の文書を! ——どのような文書があるのやら」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
これも縡切ことぎれたか、自業自得とは云いながら二人ににん舟人ふなびと死別しにわかれ、何処どことも知れぬ海中に櫓櫂もなく、一人ひとりにて取残されしはなんたる不運ぞ、今この吉藏が臨終いまわ一言いちごん
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
すなわち別室で老エフィゲニウスから、姫の臨終いまわの頼みを伝えられたからに他なりません。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
角に掛け牙に裂き、思ひのままに憂苦うきめを見せん。もしまたいはば一思ひに、息の根止めて楽に死なさん。とても逃れぬ命なれば、臨終いまわの爾が一言にて、地獄にも落ち極楽にも往かん。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
逢うが別れの今世こんじょうに、臨終いまわのなごりをおしむため、華燭かしょく銀燈輝いて、見返る空に月のごとき、若竹座を忍んで出た、慈善市バザアの光を思うにつけても、横町の後暗さは冥土よみじにもまさるのみか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とうとうその晩は、お咲のことや、安南絵の壺のことや、亡父ちち臨終いまわのことなどを考え出してマンジリとも眠れなかった。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
角右衞門殿が臨終いまわきわに何にもいう事はねえが、おらうちの相続人は多助とさだまっている、此度こんどおらア死病と定って居るから、一言いちごん云わねえければならねえと云うものは
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
兄さん、兄様、ただ一言謀反やめると云うてくださらぬか! このまま死んでは妄執もうしゅう残り、臨終いまわの妄執は五百生、生き代わり死に代わり未来永劫えいごう浮かぶせないと申します。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そう言って、幾たびも、近常さんは臨終いまわの際に、お年よりをはじめ、気を許した人たちに、夢うつつのように……あの霜のとがったような顔にも、莞爾にっこりしてはお話しなすったそうですがね——
同送三巻の巻物がそれであり、臨終いまわきわにも、念頭を去らざりし紙草というのもすなわちそれでありますが、中尉の病勢昂進のため、わずかに当地上陸の記述のみにて、筆が絶たれております。
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
と、結ばれた天縁に対して、大きなよろこびと、そして臨終いまわの間際までも、確乎しっかとした生きがいを感じているのであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父様が血統ちすじ従兄弟いとこ同志ゆえ夫婦にしたら睦ましかろう、此様こんな芽出てい事はねえって、死ぬる臨終いまわに枕元でおえいと婚礼の盃をしたに、貴方あんたは死んだ父様のお遺言を忘れ
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
私の実の父も母も飯田の城下にすこやかに現在ただいま生活くらしておりますものを、臨終いまわの妄執だの亡魂だのと、らちもないことをおおせられる。おたわむれも事によれ、程度ほどを過ごせば無礼ともなる。
八ヶ嶽の魔神 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
酒井俊蔵ただ一人、臨終いまわのお蔦の枕許に、親しく顔を差寄せた。次の間には……
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
死者の所持していた唯一の戸籍証明である「印可目録」は自分が彼の臨終いまわの一言によって預かって来ているので、後で、調べのつこうわけはない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
縲絏なわめに掛っては、只今は廃刀はいとうの世なれども是まで捨てぬ刀の手前、申訳もうしわけのため切腹しました、臨終いまわきわに重二郎殿、清次殿御両人に頼み置きたき事がござる、悪人の丈助ゆえ
臨終いまわにお父様がおっしゃいました。『渡すな! 文書を! 頼んだぞよ!』と」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
けれどこの怪力の武者修行が臨終いまわの一念は、自分へき物のようについていてたがえることのできない約束の負担を負わされたような気持がしてならない。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
小「誠に何うも思い掛けないことで、これは実父が突落される臨終いまわの一念で放さずに居たものと見える、あゝ天命はのがれ難いもので、これは分りました……ウーム彼奴あいつ所為しわざであろう」
臨終いまわ妄執もうしゅう五百生
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すると、菰の十郎は、びくっと眼を開いたが、小次郎の訊ねたこととも、この場合の事件とも、まったく関聯のないことを、臨終いまわの息で、泣くように呟いた。
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
其の左膳も病にし、死する臨終いまわわれを枕元に招き、き跡にて此の孫を其のほうの娘となし、成長ののち身柄みがらあるいえ縁付えんづけくれ、頼む、と我師わがし遺言ゆいごん、それよりいさを養女となせしが
人間が臨終いまわきわまで、抱きしめていられるような剣の道が立つとしたら——その道をもって、世を治めることはできないか、民を安んぜしめることは不可能か。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文「これ、吉とやらく聞けよ、生前にの様な悪事を働いても、臨終いまわきわに其の罪を懺悔すれば、慈悲深き神様は其方そちの未来を加護し給うぞ、さらりと悪心を去って静かに命数のつきるを待て」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
と、ひたすら急いで来たのであったが、女の脚ではあり、物騒ぶっそうな戦地に近づくほど、道も思うままはかどらず、とうとう兄の臨終いまわには間にあわなかったものであった。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と手負いに水を与えてはならぬと申す事はもとより心得て居りまするが、伯父は心ある者で、もうとても助からぬから、臨終いまわの別れと水を飲ませるのが此の世の別れ、おやまはそれなり息が絶えました。
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸のくぼから柳生までの間の長い旅路に——また、祖父の石舟斎が臨終いまわのきわまで枕辺まくらべについて世話してくれた間にも——兵庫はお通の性質を見とどけていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それが惜しい……それが女や酒のために曇っているのが惜しゅうて殺されぬ。兄の血潮でその曇りを拭いてくれ、いいか、いいか、臨終いまわのきわに一言誓いを立ててくれ……
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
自分の指して行く道をあきらかに思い決したぞ! 臨終いまわのきわによう聞いてゆけ! そちの頼みはたしかにこのほうがひき受けた! 必ずお千絵どのの今の境界きょうがい、骨身にかけて救ってとらす。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「私も、別に休みたい訳じゃないけれど、お父っさんが臨終いまわにまで、アア言いのこして行ったこの紙包みに、何か、深い仔細があるような気がするので、早く開けてみたいと思ってね……」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「……だが。……だが叔父御には、わしの父下野守光綱しもつけのかみみつつな臨終いまわの折に、幼いわしを、どうぞ頼むぞと、叔父御へおたくしになった——その責任感が、いっぱいにあったのだ。お忘れになれなかったのだ」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)