ごし)” の例文
「よし、してみようか……。」と、清吉せいきちが、脊伸せのびをして、ボタンにゆびをつけようとすると、孝二こうじは、はやごしになっていました。
子供どうし (新字新仮名) / 小川未明(著)
ああ、それを二ぜん頼みます。女中はごしのもったてじりで、敷居へ半分だけ突き込んでいたひざを、ぬいと引っこ抜いて不精ぶしょうに出て行く。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女はおよごしになって、立て切った障子しょうじを、からりとける。内はむなしき十畳敷に、狩野派かのうは双幅そうふくが空しく春のとこを飾っている。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
(ああ多年、会いたいとお慕い申していたおん方、今こそ会えるか)と、盛綱は若者のような胸のときめきを覚えて、かがごしに、そっと進む。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
船長は、いよいよごしである。そうでもあろう。探険資金が少ないので、セキストン伯爵が、ねぎりにねぎってやとったこのぼろ船のことである。
恐竜島 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのいきおいがあんまりいさましかったものですから、ごしになっていたほかのねずみたちも、ついうかうかつりまれて
猫の草紙 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
いつのまに、どこからこんなに来たろうと思うほど大ぜいの人がけんかごしになって働いていた。
火事とポチ (新字新仮名) / 有島武郎(著)
何やらき出した。受け取らざるを得ない。ごしで、手を出した。渡されたのは、丸い大きな物である。濡れた毛のようなものが手にさわって、全体が生あたたかく、妙にぬらぬらしている。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
この浦にも、田舎相撲いなかずもうの関取株も来ているが、どうも、このマドロス君の手に立つのはないらしい。第一、仕切り方からして変テコで、こちらは本式に構えるが、先方は、妙なかがごしをしている。
大菩薩峠:28 Oceanの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
不意に、格子障子があけられて、奥からゴマ塩頭のツルツルと滑つこい皮膚を持つた六十あまりの童顔のぢいさんが、店へ出てきて、私の前で手をついて、つぴりごしをしながらペコペコ頭をさげた。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
やむを得ず、すこし及びごしになつて、てのひらを三千代のむねそばつてつた。同時に自分のかほも一尺ばかりの距離に近寄ちかよせて
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
宮内はうしろへ身をされて、あやうくそとの葭簀よしずにつまずきかけたが、そこまでしのんでいたかれの顔色がサッと、するどくかわったなと思うと、かかとをこらえてひねりごし
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浴衣ゆかたの上だけれど、紋の着いた薄羽織うすばおりひっかけて居たが、て、「改めて御祝儀を申述べます。目の下二しゃく貫目がんめかかりませう。」とて、……およごしのぞいて魂消たまげて居る若衆わかいしゅ目配めくばせでうなずかせて
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
御作さんはおよごしになって、障子しょうじの前に取り出した鏡台を、立ちながらのぞき込んで見た。そうして、わざとくちびるを開けて、上下うえしたとも奇麗きれいそろった白い歯を残らずあらわした。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と、待っていたように龍太郎がヌッと立つと、蛾次郎はごしを浮かしながら
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今時いまどきバアで醉拂よつぱらつて、タクシイに蹌踉よろんで、いや、どツこいとこしれると、がた、がたんとれるから、あしひきがへるごと踏張ふんばつて——上等じやうとうのはらない——屋根やねひくいからかゞごしまなこゑて
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
すると、幕のりた舞台ぶたいの前を、向ふのはじから此方こつちけて、小走こばしりに与次郎がけてた。三分の二程の所でとまつた。少し及びごしになつて、土間どまなかのぞき込みながら、何かはなしてゐる。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
かがごしにツツとさがった老臣の伊東十兵衛は、はかまのひだをつまみあげ、いま、殿とののおへやにはいる時は、脇部屋わきべやのそとにのこしておいた手槍てやりを持とうとして、そこを見ると、あるはずの槍がない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、八弥は煙管きせるくわえながらかがごし
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かがごしに。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)