股肱ここう)” の例文
大人たいじん手足しゅそくとなって才子が活動し、才子の股肱ここうとなって昧者まいしゃが活動し、昧者の心腹しんぷくとなって牛馬が活動し得るのはこれがためである。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「めったなことを口外するな、朝廷にはまだまだ股肱ここうの旧臣も多い。機も熟さぬうち事を行えば自ら害を招くような結果を見よう」
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
されども彼の聴水は、金眸が股肱ここうの臣なれば、かれを責めなばおのずから、金眸がほらの様子も知れなんに、暫くわがさんやうを見よ
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
「道中筋の諸大名や、甲府勤番支配達、余が腹心股肱ここうのものと、膝を交えて懇談し、一大へんがえいたす際、一気に断乎味方するよう! ……」
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
叡慮先づ憤を慰する条、累代の武功返す/″\も神妙なり、大敵今勢を尽して向ふなれば、今度の合戦天下の安否たるべし、…朕汝を以て股肱ここうとす。
四条畷の戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
江戸に残された、道庵の股肱ここうと頼まれたデモ倉とプロ亀——の二人が、道庵不在を好機として、容易ならぬ反逆を試みたことは、以前にも少し記しました。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
卓一の股肱ここうのやうに気取りながら、卓一と由子の事情に門外漢であることが、かねて木村重吉を苛々させてゐたのであつた。それを知らない卓一ではなかつた。
人心は統御し得ず今また半途にして股肱ここうの臣までもめさせられることになった、畢竟ひっきょうこれは不才のいたすところで、所詮しょせん自分の力で太平を保つことはおぼつかない。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
高力左近太夫高長こうりきさこんだゆうたかながの惣領で、同苗伊予守忠弘いよのかみただひろ、水の垂れるような好い男、もっとも曾祖父は有名な高力与三右衛門清長よざえもんきよながといって、これが徳川家康の股肱ここう、家康の若い頃
斯うして汝等と同じ安泊やすどまりくすぶりおるが、伊勢武熊は牛飼君の股肱ここうぢやぞ。牛飼君が内閣を組織した暁は伊勢武熊も一足飛に青雲に攀ぢて駟馬しばむちうつ事が出来る身ぢや。
貧書生 (新字旧仮名) / 内田魯庵(著)
彼は自分の股肱ここうとしている横井弥兵衛を三人のあとにけさせて、かれらが塩冶の屋敷へ入り込むのを見届けて、すぐにそれを主人に密告すると、師直の憤怒は一度に破裂した。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
しこうしてこれと同時に、その股肱ここう間部詮勝まなべあきかつ京師けいしつかわし、以て朝廷の意見を飜えし、以て公卿中の非和親論者を威嚇し、而して京都にある横議の処士、おもなる攘夷論者、及び水戸派
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
の人にはさも答えよ、妾は磯山が股肱ここうの者なり、この家に磯山のあるを知り、急用ありて来れるものを、磯山にして妾と知らば、必ずかくれざるべしとかさねて述べしに、女将首肯うなずきて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
宣光不敏ニシテ唯負荷ノ任ニ堪ヘザルコトヲおそル。汝二、三ノ僚佐モマタ余ガ股肱ここうノ耳目ナリ。こいねがわクハ心ヲ同ジクシ力ヲあわセ余ガ及バザル所ヲ輔翼シ以テ聖旨ノ万分ノ一ニ報ズルコトアレト。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
陛下の愛信して股肱ここうとする海陸軍警視の勢威を左右にひっさげ、りん然として下に臨み、民心をしてせんりつするところあらしむべしと上書している中で、同時に窮困不平の士族を政府に馴致し
寅寿が意志力を喪った者のようにみえるのは、しかしただ表面だけのことにすぎない、かれは股肱ここうの士二人を敵に売った。それが敗北であることはたしかだが、それで旗を巻くかれではなかった。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
股肱ここうたのみ、我子とも思へる貫一の遭難を、主人はなかなかその身に受けし闇打やみうちのやうに覚えて、無念の止み難く、かばかりの事に屈する鰐淵ならぬ令見みせしめの為に、彼が入院中を目覚めざましくも厚くまかなひて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
自分の股肱ここうののしる将軍が何処どこにいるだろうと憤ろしかった。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
具足櫃ぐそくびつを開けて、親譲りの紺糸縅こんいとおどしの一番を着込むのと、侍部屋の方へ向って股肱ここうの面々を呼び立てるのを彼は同時に行っていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この大城に詰めている者はいずれも彼の股肱ここうの臣で、もっとも毎日交替に各部落からその組頭と副組頭とが伺候しこうした。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
体面を重んずる点より考えるといかに金田君の股肱ここうたる鈴木藤十郎その人もこの二尺四方の真中に鎮座まします猫大明神を如何いかんともする事が出来ぬのである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いずれにしても道庵先生は、自分が唯一無二の股肱ここうと頼み切った米友が、今日明日のうちに首がコロリという、きわどい、危ない運命のほどを、一向に御存じないことだけは確かなものです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
おろかや金眸。爾も黒衣に欺かれしよな。かれが如き山猿に、射殺さるべき黄金丸ならんや。爾が股肱ここうと頼みつる、聴水もさきに殺しつ。その黒衣といふ山猿さへ、われはや咬ひ殺してここにあり」
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
し、おのれ毒龍どくりようなんぢ魯鈍うつけゆゑもつて、股肱ここうしんうしな
鬼桃太郎 (旧字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
信雄は、以後、病室を出て家臣にも接し、また頻りに、股肱ここうの者と、密議めいた夜をかしたり、遠国へ使いを派すことなども多かった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……されば、宮家におかせられましても、股肱ここう耳目ともおぼしめされ、お頼みあそばさるることと存ぜられまする。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
武田信玄の股肱ここうとして、一二を争う智将であったことは疑うべくもない。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
股肱ここうの臣をうしないたるぞ
鬼桃太郎 (新字新仮名) / 尾崎紅葉(著)
長沙の太守韓玄かんげん股肱ここうの臣で、防戦の指揮官を自分から買って出た大将だったが、この日、関羽がその楊齢を一撃に屠ってしまったので
三国志:08 望蜀の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
水田みずた、岡田、柳原と、一隊は粛々と進んで行った。飯山城下まで来た時である。右京次郎の股肱ここうの臣、かけい白兵衛は群を脱け、城の大手の門へ行ったが
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ところへ、故曹操の股肱ここうの一人たる華歆かきんが、許昌から早馬をとばしてきた。華歆来れりという取次ぎに、諸人はみな色を変じて
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三郎兵衛は正雪の股肱ここうとして、思慮深遠智謀衆秀と、こう称されていた人物であったが、一角はむしろ情熱家で、実行力には富んでいたが、思慮にはむしろ欠けていた。
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
そして、経久のすえ尼子勝久をようして、しきりと山陰に風雲の日を呼ばんとしている者は、勝久の股肱ここう山中鹿之介幸盛やまなかしかのすけゆきもりであった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「吉田三五郎、白石治右衛門、二人の股肱ここうを引き連れて、名古屋へこっそり這入り込み、二流所の旅籠へ宿り、滞在していたとお聞になっては、尾張様にも快く思われまい」
天主閣の音 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十数名の股肱ここうがつめあっていた。彼らの容子には「会っておやりなされてもよいではないか」とする色があきらかにただよっている。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
岩をも貫く大勇猛心、それが私には気に入った。悪に強いは善にも強い。どうじゃな考えを一変させ今後天晴れの勇士として御嶽冠者の股肱ここうに背かぬ善良武士よきもののふとなる気はないかの?
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「彼は、西涼の勇将でまた、馬超の股肱ここうであった者。何とかして手捕りになし、魏の味方にしたいものだ。各〻その心得あれよ」
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わたしことはその正雪様の、股肱ここうの一人とたのまれました、熊谷三郎兵衛の妹の菊女」
猫の蚤とり武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
『この中には、お見知りの方もござろう。それがしは、上杉弾正大弼だいひつの家中千坂兵部の股肱ここうの者にて、木村丈八と申すものです』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
右衛門は桂子の股肱ここうの臣で、桂子のためなら水火の中であろうと、笑って平然とはいって行くほどの、忠誠の心の持ち主であり、仁に近いほどの木訥漢ぼくとつかんであったが、剛勇無双膂力りょりょく絶倫
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ことごとく殿の股肱ここうとはいえかく大勢の中において、いったんお口にお出し遊ばされた似上は、何で今のおことばをふたたび世に包めましょうや。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
加賀大聖寺だいしょうじの城主、拝郷はいごう五左衛門家嘉いえよし、石川郡松任まっとうの城主徳山五兵衛則秀のりひで、ふたりとも、柴田譜代ふだいの重臣だし、勝家が股肱ここうの老職たちだった。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
それだけにわば筑前の無二の股肱ここう。いや官兵衛、御辺ごへんとならば、きっと肝胆かんたん相照らすものがあろうぞ。刎頸ふんけいを誓ったがよい
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼らはもう勝手に将門の股肱ここうであり、郎党であるときめて、野の家には、戻らなかった。将門に臣事すること、先代良持のような礼をとって
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
亡き董太師とうたいしは、陛下の股肱ここうであり、社稷しゃしょくの功臣でした。しかるに、ゆえなくして、王允おういんらの一味に謀殺され、その死骸は、街路に辱められました。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そのうつわを用いて、帷幕いばくの一員に加え、股肱ここう驍将ぎょうしょうに列しるなど、信長としては、最大な待遇を与えて来たものである。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここの殿でんノ法印良忠(宮の股肱ここうの臣)の部下が、焼けあとの市中の土蔵から財宝を持ち出そうとして、市中取締りのかが武士に捕まッたことがある。
上役の権威けんいを誇示して、めつけるのであった。伝八郎は、争うことの愚を悟った。荘田下総守といえば、柳営でも人の知れる柳沢出羽守股肱ここうである。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
誰がふんでも、一人前の、商人気質あきんどかたぎである。——だが、それは巧妙に変装した老先生股肱ここうの同心、加山耀蔵ようぞうだった。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もっとも誰よりも一番迷っていたのはこのわしじゃが、今日以後、上総介広常はまぎれない頼朝殿の股肱ここうであるぞ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)