ゆっく)” の例文
それでもちょっと微笑して「イヤ遠方までわざわざ恐れいったことで、しかしお話するほどのこともありませんが、まあ御ゆっくり……」
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
尤も朝飯はく早く済まして、支度は成る可くゆっくりするという手はありました。先達は紐の付いた木製の椀を腰に下げていました。
登山談義 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
助「湯河原は打撲うちみ金瘡きりきずにはいというから、ゆっくり湯治をなさるがい、ついてはこの仏壇の作料を上げましょう、幾許いくらあげたらよいね」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
新聞記者である彼が……あんなにまで熱心な態度を見せていた彼が、事件を見かけてコンナにゆっくり緩りした行動を執る筈はない。
それだのに、まあ……お蔦さん……私……貴下に叱言こごとを言うこともあるけれど、大事な用があるから、それを済ましてからゆっくりしましょうね。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
三人で飯を済ましたあと、岡田は会社へ出勤しなければならないので、ゆっくり案内をする時間がないのを残念がった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「そうかそんなら何もあわてるには及ばない。お前の欲しい物をすっかり上げるからまあゆっくりするがよい。何が欲しいか」といいますと「まず金を出せ」という。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「そうか、そうすりゃあ、これからおいらも、ゆっくり飲めるというものだが、しかし、その留守に、おまはんに悪あがきをされると、ちっとばかし、困るからなあ」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
するとまた翌日あしたの朝がつらい。それじゃア文さん、先刻さっきの事はいずれまた翌日あしたにもゆっくりお咄しましょう
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
暫くすると、老婦人が孫娘のような少女に抱えられ、ひどくゆっくりした足取りで階段を上って来る。
落日の光景 (新字新仮名) / 外村繁(著)
彼は、きょときょとと四辺あたりを見廻しながら、ゆっくり歩いたり、急に駈け出したり、滅茶苦茶だった。
熊の出る開墾地 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
「浦島」が書き上ったら改造へ行く積り。「を」をも訪ねたく思う、い・何の便りもなし、さて御苦労様だった三十六よ、ゆっくりおやすみ、よき眠りがあるだろう。地の上に恵みあれ。
土地の名物白絣しろがすりの上布に、お母さんのお古だという藍鼠あいねずみ緞子どんすの帯は大へん似合っていた。西日をよけた番神堂の裏に丁度腰掛茶屋に外の人も居ず、三人はゆっくり腰を掛けて海を眺めた。
浜菊 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
「いずれゆっくり考えましょう」とうとう地丸はこう云って苦笑せざるを得なかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
話をさせても他人の調子には頓着とんちゃくなく、ゆっくり句切って云うようなところがある。外出から帰ったところ。すこしの間部屋の真中に立って周囲を見まわし、思い出したようにピアノの前にいく。
みごとな女 (新字新仮名) / 森本薫(著)
可哀さうに私だつてまだ気が狂ふには間があります、なにね清さん詰まらない事なのよ、そりやあさうと清さん今夜は別に用がないならゆっくり遊んでおいでなさいなと、さすがにきまるげな処へ
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
その下を孫をぶった老婆がゆっくりゆっくり歩いて来る。
冬の日 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
では、ごゆっくり——
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
つれのものももどりません。……まだまだ、ごゆっくり——ちょうど、お銚子のかわりも参りました——さ、おあつい処を——
菊あわせ (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
文「國藏、心置こゝろおきなくゆっくりとあとからまいれ、さアお町、もううなったら一刻も早く里へ出て支度をせねばならぬ」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そうして、来た時よりは幾分か空気に暖味あたたかみが出来た。平岡は久し振りに一杯飲もうと云い出した。三千代も支度をするから、ゆっくりして行ってくれと頼む様に留めて、次の間へ立った。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
殺しに追って来る 気遣いもなかろうという考えでゆっくりして居りました。すると彼らから買うた一疋の羊が死んでしまったです。誠に可哀そうに感じて相当の回向えこうもしてやりました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
「よしそれではゆっくり行こう」——紋太郎はそこで足をゆるめた。
大鵬のゆくえ (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ぼっちやん、ゆっくり遊んでやつて下さい。直ぐ寝つちまつちやあ不可いけませんよ、うも御苦労様なことツたら、」
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
何事も気を永くして時節の来るのを待たなければならない、また病も治らん事はありませんからゆっくりお寝なさい、明日あしたは会いたいと云う人が屹度きっと来ましょう
「今日は沢山。そうゆっくりしちゃいられないの」と云って、昔の金歯を一寸見せた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
どうかそんな事をして下さらずに内へ入ってゆっくりお休み下さい。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
御本家からもよろしくでござりやす。いずれ喜十郎様お目にかかりますだが、まずゆっくりと休まっしゃりましとよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
中「はい、親族だけに手前へ此の役を仰せ付けられました、かみから仰せ付けでございますから、仰せ付けられがきと通り読上げた上でゆっくりお話し致しましょう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「帰りには車を云い付けて上げるからいでしょう。ゆっくりなさい」
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母様かあさんが可い、と云ったら、天下晴れたものなんだわ。ゆっく召食めしあがれ。そして、是非今夜は泊るんですよ。そのつもりで風呂もわかしてありますから、お入んなさい。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
これは役だからず役だけ済んだ、これからゆっくり話しましょう……時にお差支さしつかえもあるまいが此の中には五十両あります、故郷へは錦を飾れという事でございますから
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
駕籠舁かごかきと、車夫くるまやは、建場たてばで飲むのは仕来りでさ。ご心配なさらねえで、ごゆっくり。若奥様に、多分にお心付を頂きました。ご冥加みょうがでして、へい、どうぞ、お初穂を……
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
主「助けると思って殺させる者はない、其の訳はゆっくり聞こうから兎も角わしと一緒にお出でなさい」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
どうぞハイゆっくり休まっしゃりましと、口上言うたが、着物はすんでに浴衣に着換えて、燭台しょくだいわきへ……こりゃな、仁右衛門やわしが時々見廻りにく時、みんな閉切ってあって
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
蟠「お前は一体器用だからな、婆ア少しお前に頼みがある、今日はまアゆっくり遊んでくがい」
後の業平文治 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
飛んでもねえ、ゆっくりしてくんねえ。何さ、実はおめえ、聞いていなすったか、その今日だ。
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
是から往って物を見て値を付けて、そこで其の内を五百円買うとか二百円買うとか仕なければ、もとより慣れぬ商売の事だから、慌てちゃアいかん、何ういう訳だかまアゆっくりと昔話も仕たいから
ゆっく歩行あるいても追着おッついて来ないから、内へ帰ったろうと思ったのに。」
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孫「まア女は女どしだからお前の処へ連れて行ってゆっくり話をしなさい」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
三年の間癪が治りまへんと、世話アするのはわちき一人、辛うざます、素人の嬢さん見たような花魁に世話ばかり焼かして苦労ばかりさせて、本当ににくらしいよ、床へ這入ってゆっくりと物語りをして
ゆっく御寝おやすみなさいまし、まだお早うございますから、私共はみんな起きております、御用がございましたら御遠慮なく手をお叩き遊ばして、それからあのお湯でございますが、一晩沸いておりますから
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊「正孝能く来てくれた、幇間たいこもちも多い中で来てくれたのはお前ばかりだ、己も足を切ると云う訳だが、みんな道楽をして親に苦労させたばちだと思っているがネ、能く来てくれた、ゆっくり遊んできねえ」
ゆっくり居なさればいに——では、またじきに来なさいよ。」
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
うらのような百姓にそべへ参ってゆっくりてえ挨拶して行くたアえらいねえと噂アして、おめえさま帰って仕舞ったあとで見ると置いたつゝみえから後を追掛おっかけておまえさまア尋ねたが、混雑中こむなかだから知れましねえ
「いや、御苦労様、これからゆっくりとおひけに相成あいなります?」
註文帳 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
伊「何処ッてえでもねえが、わしが子供のころに里にやられていたうちで、今じゃア神奈川の在にはいって百姓をしているんさ、まア兎も角もそこに落著いて、それからゆっくり相談することに仕ましょうよ」
「おばさん、ゆっくりだったでしょう、」
式部小路 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長「今御膳を上げますから、さぞ草臥くたびれでしょう、まアゆっくりと」
又「只今主人のいう通り、慌てずにゆっくりお考えなさい」