みす)” の例文
愛宕あたごさんのはうがよろしいな。第一大けおますわ。』と、お光は横の方にみすのかゝつたつぼねとでも呼びさうなところを見詰めてゐた。
東光院 (旧字旧仮名) / 上司小剣(著)
私はみすごしに、だんだんしょげたようになって私の言葉を聞いていらっしゃる頭の君を見透しながら、更らにすげなく言い続けていた。……
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
一行が市村座へついたのは巳刻よつ(午前十時)すぎで、茶屋からすぐ桟敷へ通ると、みすをおろして無礼講ぶれいこうの酒宴がはじまった。
や、何とも云へぬ名香みやうがうのかをり、身も心も消ゆるやうぢや。四方には華の瓔珞やうらく、金銀、錦の幡天蓋はたてんがい瑇瑁たいまいの障子、水晶のみす
南蛮寺門前 (新字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
「新大納言のきみにおわすか」兵の中から、一人の将が、薙刀なぎなたをもって、みすねあげた。大納言は、おののいて、虚勢も張れなかった。部将は
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なし已に其議も調のひければ急に本堂ほんだうわきなる座敷に上段をしつらへ前にみすおろし赤川大膳藤井左京の兩人は繼上下つぎかみしもにて其前にひかへ傍らに天忠和尚をしやう紫の衣を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「末代までもない觀物ぢや。予もここで見物しよう。それ/\、みすを揚げて、良秀に中の女を見せて遣さぬか。」
地獄変 (旧字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「ある月凄じく風冷やかなるに、この勾当の内侍半ばみすきて琴を弾じ給ひけり、中将その艶声に心引かれて、覚えず禁庭の月に立ちさまよひ……」
二人が水のりそうな、光氏みつうじと、黄昏たそがれと、玉なす桔梗ききょう、黒髪の女郎花おみなえしの、みすで抱合う、道行みちゆき姿の極彩色。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
夜もけ行きて、何時いつしかみすを漏れて青月の光凄く、澄み渡る風に落葉ひゞきて、主が心問ひたげなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
今日の源氏が女の同乗者を持っていて、みすさえ上げずに来ているのをねたましく思う人が多かった。
源氏物語:09 葵 (新字新仮名) / 紫式部(著)
柳川紬やながわつむぎあわせ一枚、これも何うも柳川紬と云うと体裁がいが、洗張あらいはりをしたり縫直ぬいなおしたりした黒繻子くろじゅすの半襟が掛けてあるが、化物屋敷のみすのようにずた/\になって
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
スルスルと舞台正面のみすが上がると、重ね座布団の上に坐って、にっこりする。
さればとて香爐峯かうろほうゆきみすをまくの才女さいぢよめきたるおこなひはいさゝかも深窓しんそうはるふかくこもりて針仕事はりしごと女性によしやう本分ほんぶんつく心懸こゝろがまこと殊勝しゆしようなりき、いへ孝順かうじゆんなるはいでかならず貞節ていせつなりとか
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
高座でみすが上るとまず客席を見渡してにっと笑顔、大抵それで悩殺される。
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
すすに赤黒き障子の、破れという破れにはことごとく眼の輝きが見えた。蜘蛛くもの巣をちりで太らしたのが、みすの如く張り渡された欄間の隙間にも、眼のひらめきが多数に見えた。壁の破れ穴、板戸の節穴。
壁の眼の怪 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
ほととぎす鳴きぬ藤氏を語る夜に秀才なればみすまきあげよ
短歌 (旧字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
周囲は山ばかりだから、昼間だって人に見られる気づかいはなかったので、みすなどもすっかり巻き上げさせたぎりだった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
さても常樂院は紺屋こんや五郎兵衞を初め四人の者共に威を示し甘々うま/\と用金を出させんと先本堂ほんだうの客殿にしやうれいの正面のみす
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「末代までもない観物ぢや。予もここで見物しよう。それ/\、みすを揚げて、良秀に中の女を見せて遣さぬか。」
地獄変 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
みすのうちに在る政子の目には、松明の赤々といぶる中に、無数の武士が列を正し、土民は地に坐って、自分を迎えている有様が、何か、涙なしに見ていられなかった。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
源氏の車はみすがおろされていた。今は右衛門佐うえもんのすけになっている昔の小君こぎみを近くへ呼んで
源氏物語:16 関屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
短き秋の日影もやゝ西に傾きて、風の音さへ澄み渡るはづきなかばの夕暮の空、前には閑庭を控へて左右は廻廊をめぐらし、青海のみす長く垂れこめて、微月の銀鈎空しく懸れる一室は、小松殿が居間ゐまなり。
滝口入道 (旧字旧仮名) / 高山樗牛(著)
スルスルと舞臺正面のみすが上がると、重ね座布團の上に坐つて、につこりする。拵へは時々變りますが、その綺麗なことと言つたら、餘つ程氣を引締めて居ないと、眼先がかすんでポーツとなりますよ。
せし天一樣は將軍樣の若君樣わかぎみさまなりしかさればこそ急にみすの中へ入せられ御住持樣ぢうじさまうちかはり御主人の樣に何事も兩手りやうてつい平伏へいふくなさると下男共は此等の事を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
ながえをおさえながら、みすをまき上げると、中から殿はお降りになられて、いきなり「綺麗だなあ」とおっしゃりながら、いまを盛りと咲いている紅梅を見上げ見上げ
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
などと言い、さらにみすのほうへ寄って
源氏物語:36 柏木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
が、そうこうしているうちに、一人の品のいい青年が中庭からお這入りになっていらしって、目のあらまがきの前にお立ち止まりになられたのがみすごしに認められた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
女がみすを深く下ろさせたまま、その前を遠慮がちに通り過ぎて往ってから、暫くして気がつくと、さっきの男車らしいものが跡から見え隠れしながら附いて来ていた。
姨捨 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
しかし今度は私は、みすも下ろさずに、横なぐりの雨に打たれながら木々が苦しみもだえるような身ぶりをしているのを、ときどき顔をもたげては、こわごわじっと見入っていた。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
そのとき急に大門の方に人どよめきがし出したので、巻き上げていたみすを下ろさせて透して見ていると、木の間から灯がちらちらと見えてくる。やっぱりあの方は入らしったのだ。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)