稀代きたい)” の例文
田原町たわらまち経師屋きょうじや東作とうさく、四十年輩の気のきいた男ですが、これが描き菊石の東作といわれた、稀代きたいの兇賊と知る者は滅多にありません。
「あいつに馳け向っては無理もない。稀代きたいがねむちの使い手だ。だがさ、なんだッてまた、そんな無謀な深入りをしなすッたのか」
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
林泉奥深うして水あおく砂白きほとり、鳥き、魚おどつて、念仏、念法、念僧するありさま、まこと末世まっせ奇特きどく稀代きたいの浄地とおぼえたり。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
……すべてこれ、信長公をたばかり、その甘心を買はうとの魂胆ぢや。さるにても、むざとその手に乗せられた信長公こそ稀代きたいのうつけ者。
ハビアン説法 (新字旧仮名) / 神西清(著)
... 稀代きたい兇獣きょうじゅうでござる」「ほう、ではこれが土産にくださるという品か」「いかにも」「して御所望と云わるるのは?」
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その代り木唄——さっきは木唄と云った。しかしこの時、彼らの揚げた声は、木唄と云わんよりはむしろ浪花節なにわぶし咄喊とっかんするような稀代きたいな調子であった。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もっとも私は稀代きたいのオッチョコチョイであるから、当時流行の思潮の一つにそんなものが有ったのかも知れない。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
爲しをり不※ふと阿蘭陀おらんだの名醫より傳習でんじゆしたりし稀代きたい妙藥めうやくテレメンテーナと稱物いふものにて則ち癲癇てんかん良劑りやうざいなり然れども今のしなのみならず阿蘭陀おらんだ人より傳へられたる奇藥きやく
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
この春彦が明日にもあれ、稀代きたいおもてをつくり出して、天下一の名を取つても、お身は職人風情とあなづるか。
修禅寺物語 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
「ふうん、貴様が例の闇太郎か! 大名、富豪の、どんな厳重なしまりさえも呪文じゅもんで出入りするかのように、自由に出没すると言う、稀代きたいの賊と言うのは、貴様か?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
勘「うるさいな、ナニ稀代きたいだって、師匠は来てえるにちげえねえ、今連れて行くんじゃアねえか」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おまえは、稀代きたいの不信の人間、まさしく王の思うつぼだぞ、と自分を叱ってみるのだが、全身えて、もはや芋虫いもむしほどにも前進かなわぬ。路傍の草原にごろりと寝ころがった。
走れメロス (新字新仮名) / 太宰治(著)
「誠に誠に稀代きたいの術、妖術の一種でござりまするかな?」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すりゃわたしたちに取っても稀代きたいの見聞さ。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
という稀代きたいな条件をつけて死んでしまった。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
「——常人つねびとの配所へ流されるのは、悲しみかも知れぬが、頼朝のきょうの門立ちは、稀代きたいな吉日と、よろこんでよいはずではないか」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤い振袖を着た稀代きたいの美男が、復讐の快感にひたって、キラキラと眼を輝かす様は、言いようもなく物凄ものすさまじい観物みものです。
ついにチェーホフは芸術・科学・愛・霊感・理想・未来など、およそ人間の抱くかぎりの一切の希望を、つえの先の一触れで忽然こつぜんしぼませる稀代きたいの魔術師に仕立てられてしまう。
佐藤、葛西、両氏に於いては、自由などというよりは、稀代きたいのすねものとでも言ったほうが、よりよく自由という意味を言い得て妙なふうである。ダス・ゲマイネは、菊池寛である。
近所の建具屋に談判して寝台けん机として製造せしめたる稀代きたいの品物である。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まづ首尾しゆびよく行て來たゆゑ必定ひつぢやう破談に成るだらうと咄してゐたは氣が付ねど常にはなかわる兄弟きやうだい今日のみ一つ座敷に在て酒汲交くみかはすは稀代きたいなことと思つてゐたが咄しの樣子と彼是かれこれかんがへ合すればいよ/\渠奴きやつに相違ない惡さも惡き二個ふたりの者如何してくりようとこぶし
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「ところが御時勢の激しいおかげで、のんきな色恋小説が売れるんだから面白い、なにしろ『艶色恋の手車』がまた重版でげすからね、どっちにしたって面白くなけれあご看客は買わねえ、こないだ脱稿した『歌暦』なんぞは、初版が三千という稀代きたいの部刷りだ」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
どうか奴らをらして、稀代きたいな名馬白獅子しろじしをお取り返しなすッて下さい。「——お願いの筋はそれなんで」と、金毛犬のだんは、百拝した。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
平次は十手を左に持ち替えながら呶鳴どなりました。相手は稀代きたいの忍術使いです。
しかも、今日の御法規には、申すもはばかられるが、何とも、人間共の前代にない、稀代きたいな御無理もあるのではござるまいか。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
今はほかへ心も急がれるが、彼は、この稀代きたいな一少年を、忘れえない。亡き日野資朝の形見としても、このまま離せるものではないと思った。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかも、女自雷也じらいやと名乗る稀代きたいな女賊じゃ。南町奉行所のお手にかかって、近いうちには、獄門でお目にかかれましょうぞ。……サア瓦版瓦版。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とはいえ、西の扈家荘こかそうの女将軍一じょうせいは、日月の双刀をよく使う稀代きたいな女傑ですし、独龍岡そのものも、不落の城、充分お気をつけなさいまし。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀代きたいな景観に見えたのだろう。毎日、西へゆく軍馬の流れを見ぬ日はない。その馬糞が、鎌倉から都まで、一条につづいているとなす童心の空想は
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この若者は浜松の町で、稀代きたい槍法そうほうをみせた鎧売よろいうりの男で——いまは、この島に落ちぶれているが、もとは武家生まれの、巽小文治たつみこぶんじという者であった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おひかえなさいとどろき、敵をあなどることはすでに亡兆ぼうちょうでござるぞ。伊那丸は有名なる信玄しんげんの孫、兵法に精通せいつう、つきしたがう傅人もりびともみな稀代きたいの勇士ときく。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何かしらないが、高麗村の御隠家様とかで、今度、稀代きたい仮面めんをお手に入れなすッたそうで、お屋敷内の石神堂でその仮面納めの祭りをやるというわけ。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おまえも鞍馬くらまの竹童というと、いかにも稀代きたいな神童だが、こんなところは、やッぱり年だけのわからず屋だな、これ竹童、そちはクロを失ったかわりに
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
たかのしれた小僧と思いきや、稀代きたいな野槍の鋭さに、彼ひとりでさえタジタジでいた安蔵と梅市は半五郎にうしろを襲われて、もう一堪りもありません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
通り越して、馬鹿じゃよ。稀代きたいの馬鹿者じゃよ。——家康に泣きついては、家康の飾り物にされ、秀吉に抱き込まれると、秀吉のいい道具につかわれる……
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
御意のとおり、家の宝としても稀代きたいな名品、羅馬ローマの王家へ戻しやれば、多大の報酬ほうしゅうのある品物でございます。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「何しろ、捕えた男が、稀代きたいな変物で、それに根気をらしました。一体、彼奴きゃつは、ほんとの唖聾でございましょうか、それとも偽者でございましょうか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
十一ヵ年、信長に抗戦した本願寺陣営には、実に、鈴木重行という稀代きたいな謀将がひそんでいたのである。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「開山いらい、叡山百十六世、まだかつて、こんな稀代きたいな座主は、この御山みやまに見たことはない」と。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これは、どういう由縁ゆかりから起った銘か、瓶割かめわりの刀とよばれ、稀代きたいな名刀と知っているので、死せる善鬼もかねがね、師匠が死んだら俺の物と、独り極めにしていたほどの刀だった。
剣の四君子:05 小野忠明 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
前々代五代将軍の綱吉の治下ちかに起っており、人間を畜生以下のものに規定した稀代きたいな悪政治のもとに、お袖という悲命な運命児も生れ、お燕という陽なたを知らない宿命の花の胚子たねもこぼされ
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幼少すでに彼は稀代きたいな空想児だった。だがい育つに従って、荊棘けいきょくの現実は、空想の子を空想の中にのみ夢みさせておかなかった。現実は艱難かんなんまた艱難を与えて、彼に荊棘を切りひらく快味を教えた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「時に、わしは近頃、稀代きたいな人を見たぞよ」
剣の四君子:02 柳生石舟斎 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まことに、稀代きたいな眺めだった。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀代きたいなる大魔王)
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
稀代きたいな足だ」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)