知己しるべ)” の例文
常陸に知己しるべがある為是へ金才覚に参って見るに、先方は行方知れず、余儀なく、旅費を遣い果してより、実は食事も致しませんで
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
でも、父の弥右衛門やえもんだの、知己しるべの人たちが、産湯うぶゆから上げて、お襁褓むつのうえへ転がしてみると、突然、呱々ここの声をあげた。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
良人が洋行しましたその秋、ひどい雨の降る日でしたがね、小石川の知己しるべまでまいって、そのうちで雇ってもらった車に乗って帰りかけたのです。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
昨霄ゆうべ飯田町を飛出して、二里ばかりの道を夢中に、青山の知己しるべまで便たよつて行けば、彼奴きやつめたいがい知れとる事に、泊まつて行けともいはないんだ。
誰が罪 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
しかし実家へ帰ってはすぐに露顕するので、彼は綾瀬の方の知己しるべの家に身をかくして、心にもない日蔭者になっていた。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
所がある年の秋、内供の用を兼ねて、京へ上った弟子でしの僧が、知己しるべの医者から長い鼻を短くする法を教わって来た。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
立退たちのき江戸へ來り本郷に少しの知己しるべある故是に落附候所天命てんめいにて召捕られし段申立しかば則ち石帶刀たてわきより爪印を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
従姉妹いとこが離散して、学資が途切れたので、休学して、しばらく寄宿舎を退しりぞいた間、夫婦で長屋を借りて世帯を持っていたいささかの知己しるべの処に世話になったが
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
例の如く連帯者の記名調印を要すればとて、仮に可然しかるべき親族知己しるべなどの名義を私用して、在合ふ印章をさしめ、もとより懇意上の内約なればそのいつはりなるをとがめず、と手軽に持掛けて
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
また食物も一日に麦焦むぎこがしの粉を二握りずつ一遍に与えるだけです。それだけではとても活きて居ることが出来ない。そこで大抵獄中に入れば知己しるべが差入物をするのが常例あたりまえになって居る。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
風聞にれば総角そうかくの頃に早く怙恃こじうしない、寄辺渚よるべなぎさたななし小舟おぶねでは無く宿無小僧となり、彼処あすこ親戚しんせき此処ここ知己しるべと流れ渡ッている内、かつて侍奉公までした事が有るといいイヤ無いという
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
思い切ってうふいと何処どこかへ行って仕舞しまおうかと思って、それには下総にすこし知己しるべが有りますから其処そここうかと思うので
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
そして長者の善行をたたえる僧や門族や知己しるべたちに囲まれて、長者は脱殻ぬけがらのように老いた体を授けられつつ、仁和寺の客間へしょうぜられて行った。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こう妙に胸に響くような心地こころもちがしましてね——それはこのほんにも符号しるしをつけて置きましたが——それから知己しるべうちに越しましても、時々読んでいました。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
維新の当時、おてつ牡丹餅は一時閉店するつもりで、その形見と云ったような心持で、店の土瓶どびんや茶碗などを知己しるべの人々に分配した。O君の阿父おとっさんも貰った。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家督かとくとし近村よりおやすといふよめもら親子おやこ夫婦のなかもよくいとむつまじくかせぎけり斯てあに作藏は勘當の身と成しを後悔こうくわいをもせず江戸へ出で少しの知己しるべ便たよりて奉公の口を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
うちを出まして、じき近村の太田の知己しるべの家に居て、日の暮れるを待って、ソッと土手伝いに我家へ忍んで来ました。
霧陰伊香保湯煙 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸に知己しるべがある。せめて、子どもの育つまで、そこにでも——と女にいって、一年ばかりもぐっていた信州路から、江戸の空へ、さまよい出た途中なのである。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
勘次郎は老いたる母と若い妻と幼い娘とを知己しるべのかたにあずけて、自分は上野の彰義しょうぎ隊にせ加わった。
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうするうちに、知己しるべの勧めでとにかく家をたたんでしばらくその宅にまいることになりましてね。
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
もち何か家業を始め給ふが肝要かんえうなり江戸表に誰ぞ知己しるべか又御國者くにものはなきやと申に夫婦の者は是を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
何処どこと云って知己しるべもございませんから、どうか火葬にして此の村へ葬り、こつだけを持ってまいりとう存じますが、御覧の通り是からはわたくし一人でございますから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
式部は加茂のやしろ知己しるべの者があったので、祈祷やはらいのことなどを少しは見聞きしていた。もとの主人が易学を心得ていたので、その道のことも少しは聞きかじっていた。
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
手前は常陸に知己しるべがあるから参ったが、ふとした縁で惣次郎方の厄介、処が惣次郎人遣いを知らず、名主というをけんにかってひどい取扱いをするは如何いかにも心外で
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江戸には別に知己しるべもないので、かれはやはり乞食のようになって江戸じゅうをうろついていた。
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かりそめにも殿様のお側近くつとめをする鹽原角右衞門、炭屋の下男に知己しるべは持たんわい、成程今をる事十五ヶ年以前、阿部家を出て上州東口の小川村に八ヶ年程浪人していた其の折
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
猫のひたえのようなうちだが売って、其の金子を路用として日光辺の知己しるべを頼ってく途中、幸手の宿屋で相宿あいやど旅人りょじんが熱病で悩むとて療治を頼まれ、其の脉を取れば運よく全快したが
左様さ先年美濃国みののくにから信州の福島在の知己しるべの所へ参った時の事で、此の知己はなりの身代で、山も持っている者で、其処そこしばらく厄介になっていた、其の村に蓮光寺れんこうじという寺がある
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
えか、う打明けた話じゃが切ってしまって眼がめて、あゝ飛んだ事をしたと思ったがもうてしまい是非がない、とても屋敷にはられない、ほか知己しるべがないからっと思い付き
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
旅で難儀をしながらも子供をたのしみに何うかしてと思って、播州の知己しるべの処へ行って身を隠し、少しの内職をして世帯しょたいを持っていた所が、其処そこも思うように行かず、それから又長い旅をして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
又どうかなろうと思い、早々そう/\東京へ来て、坂本二丁目の知己しるべもとに同居していたが、君の住所は知れずよ、永くべん/\として居るのも気の毒だから、つい先々月亀島町の裏長屋を借り
仮令たとえ何様どんな下役小禄でも主取しゅうとりをして家名を立てたい心懸こゝろがけもござりますが、これという知己しるべもなく、手蔓等てづるとうもないことで、先達せんだって權六に会いまして、これ/\だと承わり、お前はうらやましい事で
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
文「少し知己しるべがあって来たが、此の節は辛抱するか」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)