真実まこと)” の例文
旧字:眞實
みずからを欺き、みずからの偽りに耳を傾ける者は、ついには自分の中にも他人の中にも、真実まことを見分けることができぬようになる。
剣術は真影流の名人、力は十八人力あったと申します。嘘か真実まことかは解りませんが、此の事はわたくしの土地へ参ったとき承りました。
嘘か、真実まことか、いずれを問うも、いずれも人々の解し方次第としておく——、まずその辺が、世のおもしろさと云うものであろう。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いえいえ、真実まことのこと、妾は御身の旅団長ブリガディール⦆には今なほ夢中なのぢや。それに御身の朗読はまことに見事ぢやから! それはさて」
又その上に雪でも荒れ狂ったならば何時圧しつぶされてしまうか解らないと云う様な真実まことに以って危険千万な建物なのである。
現代語訳 方丈記 (新字新仮名) / 鴨長明(著)
「悪い事をした。私はあなたに真実まことを話している気でいた。ところが実際は、あなたを焦慮じらしていたのだ。私は悪い事をした」
こころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いつも暢気のんきであるべきはずの長者町の道庵先生の屋敷までが、この穏かならぬ雲行きに襲われているというのは嘘のような真実まことであります。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
にくまれ世にはびこる」ということわざがあるが、わが輩はこれを顛倒てんとうして、世にはびこる者はにくまれるということも、また真実まことであると思う。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
真実まことなれば傍観は出来ぬ。……が、竹原入道や、戸野兵衛などが心をこめて、お守りしている宮様じゃ、それが突然十津川を
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
番町のさる旗本の一のおてかけさんだが、殿の乱行を苦に病んでああもお痛わしく気が触れなすったなどと真実まことしやかに言い立てる者もあれば、何さ
「ナニ。いや、不承知と申さるる筈はござるまい。と存じてこそかくの如く物を申したれ。真実まこと、たって御不承知か。」
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
真実まことは思いにまかせぬ現実の生活のために、弱い殉情そのものが無残にしいたげられているのだと思われてならなかった。
仮装人物 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
真実まことか、竹槍たけやりの先につるしたむしろの旗がいつ打ちこわしにかつぎ込まれるやも知れなかったようなうわさが残っていて
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
その真実まこと阿父おとっつぁんというのはその真実まことの親の誰たるに拘わらず、まず一番の兄をもって父と呼びその他はおじと呼ぶことは前にいった通りである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
真実まこと虚偽うそか、本気か冗談か、平気か狂気か、イカサマ師か怪物か、そうして有罪か無罪か判断に苦しむ大胆さ、しかも生前の主人ダメス王の真価値は勿論
鼻の表現 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「ええ、そのような世迷いごとに、聴く耳は持たぬわ。この島ののりは、とりも直さず妾自身なのじゃ。とくと真実まことを打ち明けて、来世を願うのが、ためであろうぞ」
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
さりながら三歳といふより手しほに懸け給へば、我れを見ること真実まことの子の如く、蝶花の愛おやといふともこれには過ぎまじく、七歳よりぞ手習ひ学問の師をらみて
雪の日 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
つちで庭掃く追従ついしょうならで、手をもて畳を掃くは真実まこと。美人は新仏しんぼとけの身辺に坐りて、死顔を恐怖こわごわのぞ
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かうして二人が居るところを、人が見たらば、真実まことの恋か、虚偽うその恋かが知れやうに。お前がそれでは曲がない。元木に勝る、うら木なしと、世間でいふのは、ありや嘘かえ。
したゆく水 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
若し真実まことの人間とすれば、右の如き大雨と云い夜中と云い、ことのドンドンの如き急流の深淵ふかみに於て、とても無事に浮び上れよう筈も無し、さりとてその死体の見当らぬも不思議
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
よ今にてもわがあかしとなる者天にあり、わが真実まこと表明あらわす者高き処にあり」
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
真実まことを知ることは、案外に楽なときもあるね。僕は緑川の実演で、彼が死骸を見せられたにちがいないと推定したのだが、果してそうだった。それにしても、恋は恐ろしいものだ。夫人の罪を
闘争 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
とかく世の中では真実まことのことはおおいかくされ、虚偽いつわりがもてはやされる——しかしながらくれぐれも、わしがそなたに申して置きたいのは、そなたのその美くしさ、その若かさをば大切にして
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
わが妻が別れに置きし一言ひとこと真実まことなりけりよく聴きにけり (一七三頁)
文庫版『雀の卵』覚書 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
されば今われが前にて、彼の金眸が洞の様子、またあの山の要害怎麼に、委敷くわしく語り聞かすべし。かくてもなお他を重んじ、事の真実まことを語らずば、その時こそは爾をば、われ曹三匹かわる更る。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
真実まことらしく薫がこう言うと、どちらでも結局は同じことであるからと弁は心を決めて、そして大姫君の所へ行き、そのとおりに告げると、自分の思ったとおりにあの人は妹に恋を移したとうれしく
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)
真実まことは不義ではなく、許嫁いいなずけ良夫おっとがあったのでございます。
「おお、さては真実まことであったか。エエ口惜くやしい」
情状酌量 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
その真実まことを信じる寂しさ。
忘春詩集:02 忘春詩集 (新字旧仮名) / 室生犀星(著)
母の真実まことの御心を。
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
真実まこと
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それがその……嘘か真実まことか存じませんが、道中で路銀を失くしたので困るから、身のまわりの物を払って、差引きの代金が欲しいというお話。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すべての消息から、竜之助が京都へ落ちたことは真実まことである、京都で必ず探し当てる、これも兵馬が夜歩きをする一つの理由でありましょう。
「愚老が命取りますこと、殿には断じてなりますまい! 私ことは、弾正太夫殿の、真実まことの家臣ではござらぬ筈! 殿にはお忘れなされたな!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
女「真実まことに宜いのう、愛らしいこと、人抦ひとがらまるでお屋敷さんのお嬢さん見たようで、実に女でも惚れ/″\するのう」
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
だからいろいろな抽象や種々な仮定は、みんな背に腹は代えられぬ切なさのあまりから割り出した嘘であります。そうして嘘から出た真実まことであります。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
可羞はづかしい、とはいへ心の底から絞出しぼりだした真実まことの懴悔を聞いて、一生を卑賤いやしい穢多の子に寄せる人が有らうとは。
破戒 (新字旧仮名) / 島崎藤村(著)
おそれてか、それとも真実まこと和尚さんに暗え筋のあってか、ま、なんにしても、縁あらばこそ墓所で旅立った死人を
二人は大鐘をかれたほどに驚いた。それが虚言うそ真実まことかも分らぬが、これでは何様いう始末になるか全く知れぬので、又あらたに身内が火になり氷になった。
雪たたき (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
お父さん! 最後の審判の日は近づきましたよ! たとへあなたがわたしのお父さんでなくつても、わたしに、愛する真実まことの良人をば裏切らせることは出来ません。
彼は、アマリヤが彼女一家に立ちのきを迫ったことから、カチェリーナが『真実まことを捜す』と言って、どこかへ駆け出して行ったてん末を、ソーニャに話して聞かせた。
つくづく思へば無情つれなしとても父様ととさま真実まことのなるに、我れはかなく成りて宜からぬ名を人の耳に伝へれば、残れるはぢが上ならず、勿躰もつたいなき身の覚悟と心のうち詫言わびごとして
ゆく雲 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
……そもじのお蔭で平馬はようように真実まことの武士道がわかった……人間世界がわかったわい。
斬られたさに (新字新仮名) / 夢野久作(著)
汽船の上から桟橋さんばしの上を眺めますと、出立の時に涙をもって送られたところの親友、信者の方々は喜びの涙をもって無言のうち真実まことの情を湛え、ねんごろに私を迎えてくれました。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
彼の左手は、逢痴の右手と同じに、やはり二つの指の高さが同じなので、もしおや指と小指の判別が、真実まことつかない場合には、決して決して、犯人が逢痴であるとは云えなくなるのだ。
人魚謎お岩殺し (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
はやまって真実まことの人間を投込んだのではあるまいかと、半信半疑でその夜を明し、翌朝念の為に再びのドンドンへ往って見ると、昨夜ゆうべに変らぬは水の音のみで、更に人らしい者の姿も見えぬ
河童小僧 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ほほほまお人の悪い、してその悪口と仰しやるは。さ、その事でござんする。あの奥様のお里といふは、秋田様とは表向き、世間を繕らふ仮の親、真実まことは高利も、わづかな資本もとでの金貸業。
移民学園 (新字旧仮名) / 清水紫琴(著)
と言って苦笑にがわらいをしなさったっけ……それが真実まことになったのでございます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが妻が悲しと泣きし一言ひとこと真実まことならしも泣かされにけり
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
真実まこと
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)