相槌あいづち)” の例文
と梶も快活にヨハンに相槌あいづちを打つことが出来た。事実、昨夜のことを思うと、あれ以上に愉快なことはまたとあろうかと彼も思った。
罌粟の中 (新字新仮名) / 横光利一(著)
「すこし繁昌はんじょうして来ますと、すぐその土地にできるものは飲食店と遊郭です。」と牡丹屋の亭主も夕飯時の挨拶あいさつに来て、相槌あいづちを打つ。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長谷倉甚六郎じんろくろうの心持を測り兼ねながらも、亭主は相槌あいづちを打ちました。後ろからは手代の千代松が何やら目顔で合図をしております。
竜之助もまた同じようなことを言って相槌あいづちを打ちます。二人が面白いことというは、どちらもその内容が全く不分明でありました。
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そうして単なるひややかな批判者としてではなく、出来るならば少しでも感激の相槌あいづちを以て、彼等に力附けたいとも思うのであります。
ナポレオン一世がどうの、イギリスの阿片アヘン政策がどうの、パークスがどうのと、しばしば、露八には相槌あいづちの打てない話題にも話がとぶ。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その経緯いきさつを彼はぽつりぽつり、確めるように説明した。矢木は適当に相槌あいづちを打ちながら聞いていた。話し終ると矢木は質問した。
記憶 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
掛け、作者は語り、読者は聞き、評者は、或いは作者の話に相槌あいづちを打ち、或いは不審をただし、或いは読者に代って、そのストップを乞う。
如是我聞 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そうには違いねえ、と相槌あいづちに応じながら、話の先を惜しむかのように、しばらく煙管きせるを吸い続けた。紫の煙が香ばしく夜気に溶け込んだ。
蕎麦の花の頃 (新字新仮名) / 李孝石(著)
それに相槌あいづちを打つと、母はここぞとばかりに持って来ていた私の父の戸籍謄本こせきとうほんや系図の写し見たようなものを見せて、私の家が
雪之丞は謙遜けんそん深く、そんな相槌あいづちを打ちながら、さしかかったのが、横町を行きつくして、御蔵前通りの、暗く淋しい曲り角——。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
子供はその一語一語を注意ぶかく聞き、相槌あいづちを打つべきところへくると、さも感じいったように頷いたり溜息をついたり、うなったりした。
季節のない街 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
クニ子もそういう話にちゃんと相槌あいづちを打って、生れながらの船乗りでない重吉がどうしても帆柱へ登れず、帆綱ほづなの取りかえには
(新字新仮名) / 壺井栄(著)
と同じく洒落しゃれた口調で、検事もメフィストの科白せりふ相槌あいづちを打ったけれども、それには、犯人と法水と、両様の意味で圧倒されてしまった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
なにげなく相槌あいづちを打っていたが、文字春はもう正面からお雪の顔を見ていられなくなった。騙りや美人局どころの話ではない。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
誰しも国の自慢を言わぬものはないけれど、ここまで通り越してしまっては、うっかり相槌あいづちも打てぬとあきれ返ったのであった。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
磯五がいうと、木場の甚は、あのお高が人妻であると前に聞いたことがあったかどうかと、忙しく考えながら、相槌あいづちを打った。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
正面には高さ四尺の金屏きんびょうに、三条さんじょう小鍛冶こかじが、異形いぎょうのものを相槌あいづちに、霊夢れいむかなう、御門みかど太刀たちちょうと打ち、丁と打っている。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「わしかてその方がええ」ともう一人の若者がそれに相槌あいづちを打つのを聞くと、その男は怒ったようながねのような声を出して怒鳴るのであった。
(新字新仮名) / 島木健作(著)
日本語は此方の言葉が辛うじて理解できる程度らしく、自分からは何一つ言出さずに、ただ此方の言うことに一々大人しく相槌あいづちを打つだけである。
藤戸ふじとの云うとおりだ」横から相槌あいづちを打ったのは、先刻から黙々として、探偵小説に読みふけっていた紙洗かみあらい大尉だった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と仲居が相槌あいづちを打つのを俺は見た。安淫売も許さなかったことを、そして女郎屋でもことわられたことを、芸者のほうがかえって「面白がる」とは……。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
左馬頭さまのかみは女の品定めの審判者であるというような得意な顔をしていた。中将は左馬頭にもっと語らせたい心があってしきりに相槌あいづちを打っているのであった。
源氏物語:02 帚木 (新字新仮名) / 紫式部(著)
と、これも凡兆の話に芭蕉が相槌あいづちを打ったのである。(たといその場所にいなくっても差支さしつかえない。そういう事を想像してお互に語り合ったのでもよい。)
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「なるほどな、秀逸でげす」などと相槌あいづちを打つ。同胞の難儀を難儀とも思わぬ困った奴等である。こんな冷酷な役人根性もまた桂内閣お得意の産物なるか、とつ
本州横断 癇癪徒歩旅行 (新字新仮名) / 押川春浪(著)
「君江さんは全く徹底しているわ。」とダンス場から転じてカッフェーに来た百合子ゆりこというのが相槌あいづちを打つと、もとは洋髪屋ようはつや梳手すきてであった瑠璃子るりこというのが
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と口では云うがそれがただ相槌あいづちのお世辞に過ぎ無い事は夫人にもよく判る。しまった、と夫人は想う。
バットクラス (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
クリストフも相槌あいづちをうった。彼にとっては、フランスはコリーヌであった。美しい輝いた眼、にこやかな若々しい口、腹蔵ない自由な態度、いかにも調子のいい声。
ちげえねえ、俺ァ辰さんよか年の十も下だンべが、何糞なにくそッ若けもんに負けるもンかってやり出しても、第一いきがつゞかんからナ」と岩畳がんじょうづくりの与右衛門さんが相槌あいづちをうつ。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
その時は私もただそれだけの話として軽い相槌あいづちで済ませたけれど、勝手に臆測すれば言外になかなか重要なことも察しられるようだ。案外早いのではないかと私には思われた。
「そうですとも」と、マレーフスキイは相槌あいづちを打った。——「夫なんて、要るものですか」
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
「なるほど、そういえばあんまりいいお天気でもありませんな」と、僕も相槌あいづちを打った。
コンチネンタル・ホテルなぞにふんぞりかへつてゐるがらでないなぞと、牧田氏も小さい声で相槌あいづち打ちながら、あんな大ホテルを兵站へいたん宿舎なぞにして、軍人が引つかきまはしてゐる事は
浮雲 (新字旧仮名) / 林芙美子(著)
写生的にはよくできていると相槌あいづちを打ってみても、これは一箇の人形に過ぎない。
と横田生も相槌あいづちをうった。全く根も葉もないことだから、関さんこそいい迷惑だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
畢竟ひっきょう今日の日本をつくり出さんがために、反対の方向から相槌あいづちを打ったに過ぎぬ。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
「まったくその通りじゃ」と、分別顔で栗毛の馬が相槌あいづちをうちました、「とはいうもののお前さんたちはみんな、わしがこのとしまでに見て来たものの、百に一つも見られはせんのじゃよ。 ...
露柴はさも邪魔じゃまそうに、時々外套がいとうの袖をはねながら、快活に我々と話し続けた。如丹は静かに笑い笑い、話の相槌あいづちを打っていた。その内に我々はいつのまにか、河岸のとっつきへ来てしまった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は胸が迫って、何と相槌あいづちを打つ事も出来ずに、ただ相手の顔を見守った。
遺産 (新字新仮名) / 水上滝太郎(著)
お袋は相槌あいづちを打って、「そのことはこの子からも聴きましたが、先生が何でもお世話してくださることで、またこの子の名をあげることであるなら、私どもには不承知なわけはございません」
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
彼女はただそう相槌あいづちを打ちながら、心ではまるで別なことを考えていた。
初雪 (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
大島さんがこれに相槌あいづちをうった。各小学校の評判や年功加俸ねんこうかほうの話などが出る。郡視学の融通ゆうづうのきかない失策談が一座を笑わせた。けれど清三にとっては、これらの物語は耳にも心にも遠かった。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
茶店の亭主が、茶を汲んで来て、庄吉の喋っているのへ相槌あいづちを打った。
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
お清は勿論もちろん、真蔵も引出されて相槌あいづちを打って聞かなければならない。
竹の木戸 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
僕のすぐ隣りの席にいるのは、このへんのものらしい中年の夫婦づれで、問屋の主人かなんぞらしい男が何か小声でいうと、首に白いものを巻いた病身らしい女もおなじ位の小声で相槌あいづちを打っている。
大和路・信濃路 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
どもりが、身体をゆすりながら、相槌あいづちを打った。
蟹工船 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
相槌あいづちを打たぬのがお気に召さないのでした。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
そんな相槌あいづちを打って皿の中の整理に忙しい。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ちゃんとそれに相槌あいづちを入れているんだ。
お守り (新字新仮名) / 山川方夫(著)
熊浦氏は思い返した様に相槌あいづちを打って
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)