皿小鉢さらこばち)” の例文
好いあんばいに今夜は姿が見えないなと思うと、チャブ台の脚を開く音、皿小鉢さらこばちのカチャンと云う音を聞いたらぐ何処かから帰って来る。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
茶の間に近き六尺は膳椀ぜんわん皿小鉢さらこばちを入れる戸棚となってせまき台所をいとど狭く仕切って、横に差し出すむき出しの棚とすれすれの高さになっている。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そしてそれが出て行くとそこらを片着け多勢の手で夕飯の餉台ちゃぶだいとともにおはち皿小鉢さらこばちがこてこて並べられ、べちゃくちゃさえずりながら食事が始まった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
と声をかけるのは、勝手口の流しもとに皿小鉢さらこばちを洗う音をさせている婆さんだ。半蔵は炉ばたにいて尋ねて見た。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
青磁せいじ赤江あかえ錦手にしきで皿小鉢さらこばちかど瀬戸せとものがきらりとする。横町よこちやうにはなゝめ突出とつしゆつして、芝居しばゐか、なんぞ、興行こうぎやうものの淺葱あさぎのぼりかさなつて、ひら/\とあふつてた。
飯坂ゆき (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
まんまも碌々食べさせないからひもじくなって、私におまんまを食べさせておくれと云うと皿小鉢さらこばちを叩き付ける。
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
皿小鉢さらこばちが衣類や襦袢じゅばんと同居して、徳利とくりのそばには足袋たびがころがり、五郎八茶碗ぢゃわんに火吹き竹が載っかっているかと思うと、はいふきに渋団扇しぶうちわがささっている騒ぎ。おまけにほこりで真っ白だ。
つづれ烏羽玉 (新字新仮名) / 林不忘(著)
女王樣ぢよわうさま不幸ふかう賓客まらうど死刑しけいにせよとせいぜられる金切聲かなきりごゑきこえました——も一度いちどぶた公爵夫人こうしやくふじんひざくさめをし、あひだ皿小鉢さらこばちまはりにくだけました——ふたゝびグリフォンのさけごゑ
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
のみ皿小鉢さらこばちたゝき或はうたひ或はをどりなどして樂みけり却説さても袋井の甚右衞門は此程このほどお芳の逃亡かけおちなせしはてつきり九郎兵衞の所業ならん然すれば不動院などに匿れ居るも知れずと流石さすが商賣柄しやうばいがらだけはやくもかん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
調理台の皿小鉢さらこばちが音をたてて、みじんにくだける。
台所からきよが出て来て、食い散らした皿小鉢さらこばちを食卓ごと引いて行った後で、御米も茶を入れ替えるために、次の間へ立ったから、兄弟は差向いになった。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
とおくめまでが肩をすぼめて、それを母親のところへささやきに来る。この娘ももはや、皿小鉢さらこばちをふいたり、割箸わりばしをそろえたりして、家事の手伝いするほどに成人した。
夜明け前:03 第二部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
手で片頬かたほをおさへて、打傾うちかたむいて小楊枝こようじをつかひながら、皿小鉢さらこばちを寄せるお辻を見て
処方秘箋 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
本来ならば皿小鉢さらこばちの鳴る音を聞いたらたちまち飛んで来るところだのに、今はその音も耳に這入らず、ひもじいことも感じないくらい、此処を逃れたい一念に駆られているのであろうか。
猫と庄造と二人のおんな (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
臺所だいどころからきよて、らした皿小鉢さらこばち食卓しよくたくごといてつたあとで、御米およねちやへるために、つぎつたから、兄弟きやうだい差向さしむかひになつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
いつの間にか勝手口へ出て、お金さんと下女を相手に皿小鉢さらこばちの音を立てていた叔母がまた茶の間へ顔を出した。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
それを囲んで三人の男が食事をしている。皿小鉢さらこばちからはし茶碗ちゃわんに至るまできたない事はなはだしい。卓に着いている男に至ってはなおさら汚なかった。まるで大連の埠頭ふとうで見る苦力クーリーと同様である。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助は七日なのかに一返の日曜ももう暮れかかったので、早く湯にでもって、暇があったら髪でも刈って、そうしてゆっくり晩食ばんめしを食おうと思って、急いで格子こうしを開けた。台所の方で皿小鉢さらこばちの音がする。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
宗助そうすけ七日なのかに一ぺん日曜にちえうももうれかゝつたので、はやにでもつて、ひまがあつたらかみでもつて、さうしてゆつくり晩食ばんめしはうとおもつて、いそいで格子かうしけた。臺所だいどころはう皿小鉢さらこばちおとがする。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)