生真面目きまじめ)” の例文
旧字:生眞面目
口ざわりはよいが、生真面目きまじめなジーリなどと違って、少くともレコードでは飽きが来るようだ。こんな人のが売れ高はいいらしい。
かれらは皆、おそるべく勤勉であり、おそるべく生真面目きまじめであった。かれらに、それは友だちのいないせいだったかもしれない。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
その生真面目きまじめないいわけを、女たちはまた、ひょうの子みたいで可愛らしいといって笑う。そして白い手の暴力はやまないのである。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いつもの俊亮だと、そんなことを言うときには、少くとも微笑ぐらいはもらすのであったが、きょうはあくまでも生真面目きまじめな顔をしている。
次郎物語:04 第四部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
で、言葉も時代に、鄭重ていちょうに、生真面目きまじめ応対あいしらい。小児等は気を取られて、この味噌摺坊主に、笑うことも忘れてうっかりでいる。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家にいる他のたちはまたそれを面白がって、対手になって戯弄からかうと、彼女は生真面目きまじめな顔をしてそれに受けこたえをしているという有様である。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
苦痛や憂鬱ゆううつさえもがこの男の深刻な顔にこっけいな生真面目きまじめさを加えて、お気に入りの役者に手をたたく大勢の見物人の笑いをひき起すのです。
夫人も微笑したが、声音こわね生真面目きまじめだった。「わたくしも、警句でなく、ほんとにそう思いますわ。立派な芸術ですわ。」
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
たゞもう一途いちずな、執心しゅうしんの強い生真面目きまじめな表情で、じっと此方の眼の中を視すえているので、滋幹は又気味悪くなって来て
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そう裁判所みたように生真面目きまじめに叱りつけられちゃ、せっかく咽喉のどまで出かかったものも、辟易へきえきして引込んじまいますから
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
熱中的に生真面目きまじめであって、自己の全部をささげつくし、何物をも節約しなかったので、過度の理知と尚早な狂的な勤労とのために憔悴しょうすいしていた。
危険な事なんか無いんだ。危険だなんて、可笑しいじゃないか。竹さんは、君と同じくらい、ただ生真面目きまじめな人なんだ。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
お増はお今の前を、わざと生真面目きまじめな顔をして、あらたまったような挨拶を、良人にして見せた。浅井がちょうど二階から下りて来たのであった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
なり謹厳な東洋の家庭に育つて青白い生真面目きまじめと寂しい渋面じふめんとの外に桃色の「わらひ」のある世界を知らなかつた僕が
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
その騎士が、自分は死人だといって彼をだました冗談には、彼の生真面目きまじめな考えとぴったりゆかないところがあったことは認めないわけにはいかない。
そうあなた様のように生真面目きまじめに出られては御挨拶に困ります、苦労にも幾通りもあるのでございます、日済ひなしの催促で苦労するのも苦労でございます
大菩薩峠:17 黒業白業の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いずれも生真面目きまじめで格別笑いたくもないのが当り前で、すなわち俳諧という語の意味を、よほどこじつけて拡張しないかぎり、今日のいわゆる俳句は
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
四角四面の地主じぬし屋敷にい立って、一人ぼっちの生真面目きまじめな教育を受けてきた少年のわたしは、こうしたらんちき騒ぎや、ほとんど狂暴きょうぼうともいうべき無遠慮ぶえんりょな浮かれ気分や
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
いつとなく出来た仲だとやら、そのうえまっつあんよりはさばけてゐるやうでも、あの生真面目きまじめさ加減では覚束おぼつかない、どうやら常談じょうだんらしくもないお前の返詞へんじがおれの腹に落ち兼ねる
そめちがへ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
珍らしく景彦かげひこって来た。景彦は人には姿を見せたことがない。ただ鶴見にだけはその面影が立って見えるのである。笑いもするし、怒りもするし、また生真面目きまじめにもなる。
単に苦しいとか安易なとかいうことよりいわば、運命の拙い人、ことに運命を直視して生きるほど生活に生真面目きまじめなるものにとっては、死の望ましきことは幾度もあるに相違ない。
愛と認識との出発 (新字新仮名) / 倉田百三(著)
北川は社長の指さす文面を、小声で読んで見て、さも生真面目きまじめな表情を作りながら
妓の、変に生真面目きまじめな表情が、私の胸の前にある。どういう死に方をすればいいのか、その時になってみねば、判るわけはなかった。死というものが、此の瞬間、妙に身近に思われたのだ。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
もっとも一代の方では寺田の野暮やぼ生真面目きまじめさを見込んだのかも知れない。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
真白な面を緊張ひきしめてくるくるともんどりうつ凄さ、可笑をかしさ、又その心細さ、くるくるとおどけ廻つて居る内に生真面目きまじめな心が益落ちついて、凄まじい昼間の恐怖が腋の下から、咽喉から、臍から
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
ありとうを造るような遅〻たる行動を生真面目きまじめに取って来たのであるから、浮世の応酬おうしゅうに疲れたしわをもうひたいに畳んで、心の中にも他の学生にはまだ出来ておらぬ細かい襞襀ひだが出来ているのであった。
観画談 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
己はあの生真面目きまじめな侍の作った恋歌れんかを想像すると、知らず識らず微笑が唇に浮んで来る。しかしそれは何も、渡をあざける微笑ではない。己はそうまでして、女にびるあの男をいじらしく思うのだ。
袈裟と盛遠 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
かといっ生真面目きまじめの町人でも無い何うしても博奕など打つ様ななまけ者だ
無惨 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
本当に、心をも身をも捨てゝかゝる、真剣な異性の愛に飢えているのかも知れない。世馴よなれた色男風ダンディふうの男性に、あきたらない彼女は、自分のような初心うぶ生真面目きまじめな男性を求めていたのかも知れない。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
生真面目きまじめな顔をしたカリタが彼にむかって
女百貨店 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
三郎兵衛がさも生真面目きまじめな様子で現れて
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
メリハルはポリドールの近頃の米櫃こめびつであるが、フリードのように達者で融通の利く人であると共に、生真面目きまじめな、親しみの持てる指揮者だ。
つねに、派手な共鳴や、機智に富む相槌あいづちを、周囲から聞いている信長の耳には、光秀の生真面目きまじめな返辞は、もの足らなかった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
宇津木兵馬が生真面目きまじめにキチンと蒲団の上に座を正し、一刀を膝へ引寄せて待構えている形を見て、飛びつくことも、飛びのくこともできなかったからです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生真面目きまじめなお約束なのであるが、私が、いま、このような乱暴な告白を致したのは、私は、こんな借銭未済の罪こそ犯しているが、いまだかつて、どろぼうは
春の盗賊 (新字新仮名) / 太宰治(著)
人も無げに笑う手から、引手繰ひったくるように切符を取られて、はっと駅夫の顔を見て、きょとんと生真面目きまじめ
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
他国の思想を生真面目きまじめに否認して、それにたいして軽蔑けいべつ的な寛容さをいだいていた。もし他国人がその屈辱的な地位に甘んじないときには、憤慨の念をいだいていた。
圓顔まるがおの、色の白い、小太りに太った、三十前後のお茶坊主で、くり/\とした大きな眼をびっくりしたように見張って、へんに生真面目きまじめに取りつくろっている表情が
只何事をもいて笑談じょうだんに取りなす癖のおじが、珍らしく生真面目きまじめになっていただけである。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼の目はさういふ点で人間の滑稽味を、ずつと奥の奥まで見透みすかしてしもうので、その口にかゝつては、どんな生真面目きまじめな男でもカリケチユアライズされないではゐないのである。
亡鏡花君を語る (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
また私の述べきたったところもまた相当の論拠と応分の思索の結果から出た生真面目きまじめの意見であるという点にも御同情になって悪いところは大目に見ていただきたいのであります。
現代日本の開化 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
天下晴れての無礼講だけに見知らぬ女を抱きかかへて厭がるのも構はず頬摺ほゝずりをして歩く男も多い。若い男かと見るとシルクハツトをかぶつた生真面目きまじめな顔附の白髪の紳士も混つて居る。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
……笑うと、ぼく自身余裕が生まれたのか、それとも、それまでなんとなく気圧けおされていた彼に、やっと同等の生真面目きまじめな「少年」を発見したことのせいか、ぼくに元気が恢復かいふくしてきた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
お前は生真面目きまじめに、お前のその気違いめいた妄想を実行しようとしているのか。本当に冗談ではなかったのか。一体それでお前の精神状態は、健康なのか。若しやどこかに故障があるのではないか
パノラマ島綺譚 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
しか生真面目きまじめで泣いてとほろ。
畑の祭 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
いつも鹿爪らしい顔している柴田修理しばたしゅり(権六勝家)にもいうし、生真面目きまじめ森三左衛門もりさんざえもん加藤図書かとうずしょなどの顔見た折もいった。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
フィッシャーの生真面目きまじめで典雅な演奏は、最初のハ長調の前奏曲と遁走曲でもう私たちの心をしかととらえてしまった。
このごろ私は、自分の駄目加減を事ある毎に知らされて、ただもう興覚めて生真面目きまじめになるばかりだ。
鉄面皮 (新字新仮名) / 太宰治(著)
そんならって、浮気などするんじゃなし、生真面目きまじめだから手も着けられないでいたのに、ついぞ無い、姉さんを見て、まるで夢中だから、きっとその何なんだって。
照葉狂言 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
長い年月の間、たとい病気の時でさえ、一回の稽古けいこをも一回の管弦楽試演をも欠かしたことのない、この生真面目きまじめな少年は、今やよからぬ口実を捜し出しては、仕事をなまけた。