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猿臂
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えんぴ
ふりがな文庫
“
猿臂
(
えんぴ
)” の例文
片手を岸なる松柳にかけたるもの、足を
団石
(
だんせき
)
の上に進め、
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばせる者、
蹲踞
(
そんきょ
)
して煙草を吹く者、全く釣堀の光景
其
(
そ
)
のまゝなり。
東京市騒擾中の釣
(新字旧仮名)
/
石井研堂
(著)
明智は云いながら、素早く宗像博士の前に近より、いきなり
猿臂
(
えんぴ
)
を延ばして眼鏡を叩き落し、口鬚と顎髯とをむしり取ってしまった。
悪魔の紋章
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
壁辰は、
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして、娘の口をふさごうとした。お妙はよろめいた。ガタガタッ! と棚へぶつかって、皿小鉢が落ち散った。
魔像:新版大岡政談
(新字新仮名)
/
林不忘
(著)
お綱は
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして禅僧の襟首をとらえ、ずるずるとひきずって今度は真剣に古沼の中へ頭の方から押し込んでしまおうとしたのである。
禅僧
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
途端に、
猿臂
(
えんぴ
)
がぬッくと出て、腕でむずと
鷲掴
(
わしづか
)
み、すらりと開けたが片手
業
(
わざ
)
、
疾
(
はや
)
いこと! ぴっしゃりと
閉
(
しめ
)
ると、路地で泣声。
式部小路
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
▼ もっと見る
ふいに、
工匠
(
たくみ
)
の
猿臂
(
えんぴ
)
が、横へ伸びた。——気を失っていたはずの忍ノ権三が、まっ黒な血に塗られた顔をもたげて這い出しかけたのである。
私本太平記:03 みなかみ帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
今まお熊さへ出で行くと見るより、
直
(
ただち
)
に立つて後を追はんとするを、松島、
忽如
(
こつじよ
)
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして
袂
(
たもと
)
を
捉
(
とら
)
へつ、「梅子さん」
火の柱
(新字旧仮名)
/
木下尚江
(著)
片手を殺している竜之助は、一方の
猿臂
(
えんぴ
)
をのべて、お雪ちゃんの背後から、咽喉部へぐっと廻して締めるしかたをする。
大菩薩峠:38 農奴の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「おい、何をしているんだ。」と云いさま、サアベルの音と共に、巡査が現れ、
猿臂
(
えんぴ
)
を伸してわたくしの肩を押えた。
濹東綺譚
(新字新仮名)
/
永井荷風
(著)
むかしなら、それこそ
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、なんでもひったくったもんだが、これでも苦労をしたとみえて、なにか芸を
蝶の絵
(新字新仮名)
/
久生十蘭
(著)
いきなり仁右衛門が
猿臂
(
えんぴ
)
を延ばして残りを奪い取ろうとした。二人は黙ったままで本気に争った。食べるものといっては三枚の煎餅しかないのだから。
カインの末裔
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
と社長は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸した。僕はもう少しで数珠で打たれるところだった。何うも仏教が
荒行
(
あらぎょう
)
になって来ると思った。
人生正会員
(新字新仮名)
/
佐々木邦
(著)
揃って定食を食べながら、正宗壜を掴んだ
猿臂
(
えんぴ
)
をテーブルの空へ双方から高く差し渡して、あっちでもこっちでも「まあ」「まあ」と勧め合っています。
生々流転
(新字新仮名)
/
岡本かの子
(著)
露月はアッと叫びざま、虚空をつかんで
呻
(
うめ
)
いたが、呉羽之介は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸して
藻掻
(
もが
)
く相手を組伏せたまま、小刀
逆手
(
さかて
)
にズバズバと細首を
掻
(
か
)
き切って了いました。
艶容万年若衆
(新字新仮名)
/
三上於菟吉
(著)
彼は
惘然
(
ぼうぜん
)
として殆ど我を失へる
間
(
ま
)
に、電光の如く隣より
伸来
(
のびきた
)
れる
猿臂
(
えんぴ
)
は鼻の
前
(
さき
)
なる一枚の
骨牌
(
かるた
)
を
引攫
(
ひきさら
)
へば
金色夜叉
(新字旧仮名)
/
尾崎紅葉
(著)
ベナビデスが素早く
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして、
背後
(
うしろ
)
の机の顕微鏡を取って投げ付けたのであった。顕微鏡はくるくると舞って後方の
空檻
(
からおり
)
にドカーンと烈しい音をたてた。
陰獣トリステサ
(新字新仮名)
/
橘外男
(著)
いいながらツツーと
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばしてちぢかまっている次郎吉の首根っ子をあわや掴まえようとした。
小説 円朝
(新字新仮名)
/
正岡容
(著)
今宵の記念としてこの文鎮を貰ってゆくのも悪くはあるまい——そう思って
猿臂
(
えんぴ
)
をのべた瞬間、置時計が高々と四時を打ちだした音に、彼はぎょっとして立ちすくんだ。
空家
(新字新仮名)
/
モーリス・ルヴェル
(著)
大井久我之助は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸して、一本の徳利を取りました。お染の演じた激情的な
情景
(
シーン
)
に勇気をかき立てられたのでしょう、早くも大振りの盃に注いで呑もうとするのを
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
「黙れ黙れ
卑怯者
(
ひきょうもの
)
めが!」浪人者は
威猛高
(
いたけだか
)
に叫ぶと一緒に
猿臂
(
えんぴ
)
を延ばし、相手の腕を引っ掴んだ。
蔦葛木曽棧
(新字新仮名)
/
国枝史郎
(著)
いまにも自分の身体に、赤外線男の
猿臂
(
えんぴ
)
がムズと
触
(
ふ
)
れはしないかと思うと、恐ろしい
戦慄
(
せんりつ
)
が電気のように全身を走った。眼に見えない敵! そいつをどう防げばいいのだ。
赤外線男
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばしてうしろの床の間の飾り弓を手にとる、弦を張る、一瞬の間に矢をつがえると
右門捕物帖:36 子持ちすずり
(新字新仮名)
/
佐々木味津三
(著)
拳
(
こぶし
)
を挙げて丁と打ち
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして突き飛ばせば、十兵衛
堪
(
たま
)
らず
汚塵
(
ほこり
)
に
塗
(
まみ
)
れ、はいはい、狐に
誑
(
つま
)
まれました御免なされ、と云いながら悪口雑言聞き捨てに痛さを忍びて逃げ走り
五重塔
(新字新仮名)
/
幸田露伴
(著)
そう
云
(
い
)
いながら、再び
猿臂
(
えんぴ
)
を延して、瑠璃子の柔かな、やさ肩を
掴
(
つか
)
もうとしたが、
軽捷
(
けいしょう
)
な彼女に、ひらりと身体を避けられると、酒に酔った足元は、ふら/\と二三歩
蹌
(
よろ
)
めいて
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
如意で刄物を打落し、
猿臂
(
えんぴ
)
を
延
(
のば
)
して逆に
押
(
おさ
)
え付け、片膝を曲者の脊中へ
乗掛
(
のっか
)
け
菊模様皿山奇談
(新字新仮名)
/
三遊亭円朝
(著)
林冲に
翻弄
(
ほんろう
)
されるのが甘美でさえあった。気づいたときは、手にさいごの一剣もなく、林冲の
猿臂
(
えんぴ
)
にかかって、鞍の上から
毟
(
むし
)
りとられていた。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
女はワナワナと慄えて、立っていられないために地面へ
竦
(
すく
)
んでしまおうとした時に、竜之助は右の
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして、女の首筋を抱えてしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
うしろからは案内役の運転手が、恐ろしい
勢
(
いきおい
)
で押込む、中からは運転手台の助手が
猿臂
(
えんぴ
)
を延ばして引ずり込む、不意を打たれて、抵抗の
隙
(
すき
)
がなかった。
魔術師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
そこにあるものを
猿臂
(
えんぴ
)
を延ばして引き寄せてせわしく一まとめにして床の間に移すと、自分の隣に座ぶとんを敷いて、それにすわれと
顎
(
あご
)
を突き出して相図した。
或る女:2(後編)
(新字新仮名)
/
有島武郎
(著)
百人長は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして美しき
犠牲
(
いけにえ
)
の、白き
頸
(
うなじ
)
を
掻掴
(
かいつか
)
み、その
面
(
おもて
)
をば
仰
(
の
)
けざまに神崎の顔に押向けぬ。
海城発電
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
大井久我之助は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして、一本の徳利を取りました。お染の演じた激情的な
情景
(
シーン
)
に勇氣をかき立てられたのでせう、早くも大振りの盃に注いで呑まうとするのを
銭形平次捕物控:237 毒酒薬酒
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
折あらば秘かに金を盗もうとする人士の存在を知悉し、客席から
猿臂
(
えんぴ
)
をのばしてハムマーで運転手を殴つたりピストルをぶつぱなす人士の存在を疑つてゐるわけではない。
総理大臣が貰つた手紙の話
(新字旧仮名)
/
坂口安吾
(著)
船長ノルマンは
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、水夫竹見の
襟髪
(
えりがみ
)
をぐっとつかんだ。怪力だ。竹見はそのままひっさげられた。足をばたばたしたが、足の先に、どうしても
甲板
(
かんぱん
)
がさわらないのであった。
火薬船
(新字新仮名)
/
海野十三
(著)
お蘭どのは
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、
煙管
(
きせる
)
の熱い雁首を、いきなり百の野郎の頬っぺたに押しつけたものだから、百の野郎が
大菩薩峠:37 恐山の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
陳応の馬が、
竿
(
さお
)
立ちになった。趙雲は
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、その襟がみを引っつかみ、陣中へ持ち帰って訓戒を与えた。
三国志:08 望蜀の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
怪物の
触手
(
しょくしゅ
)
の様な
猿臂
(
えんぴ
)
がニュッと延びて、芳江の柔い頸筋を掴み、ねばっこい力強さで、彼の身近に引寄せた。
猟奇の果
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
百人長は
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして美しき
犠牲
(
いけにえ
)
の、白き
頸
(
うなじ
)
を
掻掴
(
かいつか
)
み、その
面
(
おもて
)
をば
仰
(
の
)
けざまに神崎の顔に押向けぬ。
海城発電
(新字旧仮名)
/
泉鏡花
(著)
と、とたんに童子は
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、大納言の鼻さきを、二本の指でちょいとつまんだ。
紫大納言
(新字新仮名)
/
坂口安吾
(著)
飛退く女の帯際を
猿臂
(
えんぴ
)
を延してむんずと
掴
(
つか
)
んだ偽家光。
銭形平次捕物控:001 金色の処女
(新字新仮名)
/
野村胡堂
(著)
がんりきはこんなことを言って、さて
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして稲荷の扉の中へ手を入れて、何物をか引き出そうとしました。
大菩薩峠:16 道庵と鯔八の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
とたんに、息をひそめて、死骸そのもののように、地上に俯ッ伏していた老先生は、いきなり、
猿臂
(
えんぴ
)
をのばして、怪美人玉枝の袖をグイとつかまえた。
牢獄の花嫁
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
洋服が突然
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして——全くえんぴという感じだった——太った男の手をとった。
一寸法師
(新字新仮名)
/
江戸川乱歩
(著)
「どッこい。」驚いて
猿臂
(
えんぴ
)
を
伸
(
のば
)
し、
親仁
(
おやじ
)
は
仰向
(
あおむ
)
いて鼻筋に
皺
(
しわ
)
を寄せつつ、首尾よく肩のあたりへ押廻して、手を
潜
(
くぐ
)
らし、掻い込んで、ずぶずぶと
流
(
ながれ
)
を切って引上げると、びっしょり舷へ胸をのせて
葛飾砂子
(新字新仮名)
/
泉鏡花
(著)
と答えるまでもなく、立ちあがった
木隠
(
こがくれ
)
が、やらじと
猿臂
(
えんぴ
)
をのばしたので、
胆
(
きも
)
をとばした
斧
(
おの
)
大九郎、にげみちをうしなって
無我夢中
(
むがむちゅう
)
に松のこずえへ飛びついた。
神州天馬侠
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
飲みかけた茶碗を下へ置いて、つと
猿臂
(
えんぴ
)
を伸ばして、その蓋をいったん宙に浮かせ、それから横の方へとり除けて、座右の
真向
(
まっこう
)
のところへ上向きに置いたのです。
大菩薩峠:36 新月の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
彼はそこで必死に誰かを呼ぼうとしたが、追いついて来た自斎の
猿臂
(
えんぴ
)
が、ムズと彼の帯際を引っ掴む。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
そこで、白雲が、いきなり
猿臂
(
えんぴ
)
をのばしたのは、この青二才をなぐろうとしたのです。
大菩薩峠:31 勿来の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
「かッ!」とばかり、目のくらむような
気当
(
きあて
)
と一緒に、
猿臂
(
えんぴ
)
のばしにふりつけてきた
岩砕
(
がんさい
)
の
太刀
(
たち
)
。
鳴門秘帖:03 木曾の巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
と言って、
猿臂
(
えんぴ
)
をのばしてその猫をかいつかんで、
己
(
おの
)
れが膝の上に
掻
(
か
)
きのせたままで
大菩薩峠:40 山科の巻
(新字新仮名)
/
中里介山
(著)
もうこれまでだとなると、彼は猛然と捨身になって右肩の上に
発矢
(
はっし
)
と刃を受けるや否、横に飛び退いて身を沈め、
猿臂
(
えんぴ
)
伸ばしにピューッと新九郎の足許を地摺りにすくった。
剣難女難
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“猿臂”の意味
《名詞》
猿の腕。
猿のように長い腕。
(出典:Wiktionary)
猿
常用漢字
中学
部首:⽝
13画
臂
漢検1級
部首:⾁
17画
“猿臂”で始まる語句
猿臂将軍