為替かわせ)” の例文
旧字:爲替
一、この年の中頃から為替かわせは不幸な偏倚をつづけていた。三月目みつきめにはむかしの半分に、半年の終りには約三分の一になってしまった。
黒い手帳 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
当座の費用として金を少し送っておくという意味を簡単にしたためて、永田から送ってよこした為替かわせの金を封入して、その店を出た。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかし、幕末まえ頃まで判っていたその二軒も、何か他の職業と変ったとやらで、堺屋は諸国雑貨販売と為替かわせ両替りょうがえを職としていた。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
断っておくが目下の為替かわせでは一ルピーは邦貨約一円二十四銭を唱えている。六万五千ルピーではざっと八万六百円ばかりの勘定になる。
ナリン殿下への回想 (新字新仮名) / 橘外男(著)
しかし為替かわせが来なくっては本も買えん、少々閉口するな、そのうち来るだろうから心配する事も入るまい、……ゴンゴンゴンそら鳴った。
倫敦消息 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
海港からは、拡大する罷業ひぎょうにつれて急激に棉製品が減少した。対日為替かわせが上り出した。銀貨の価値が落っこちると、金塊相場が続騰した。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
郷里の山地のほうにいる太郎あてに送金するには、その支店から為替かわせを組んでもらうのが、いちばん簡単でもあり、便利でもあったからで。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
郵便局の為替かわせ受け口には、黒繻子くろじゅすとメリンスの腹合はらあわせの帯をしめた女が為替の下渡さげわたしを待ちかねて、たたきを下駄でコトコトいわせている。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼はサイゴンとプノンペンを往来する商権の保持と、為替かわせブローカーをやり、かたわらカンボジヤとシャムの国境に巨大なゴム園を経営していた。
新種族ノラ (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
部落といっても、見すぼらしい蒲鉾小舎かまぼこごやが、四ツ五ツ固まっているきりであったが、それでも郵便や為替かわせも来るし、越中富山の薬売りも立ち寄る。
いなか、の、じけん (新字新仮名) / 夢野久作(著)
万国為替かわせというような便利なものができて、外国へ行っても電報一本で何千円の金でもすぐに受け取れるから、地球上のどこへ行っても何の不便もなく
人間生活の矛盾 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
東儀はそれへ手もつけないで、すぐに、為替かわせの調べにかかった。その方の話は、店のことだけに簡単に分明した。
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
三百は念を押して帰ってった。彼は昼頃までそちこち歩き廻って帰って来たが、やはり為替かわせが来てなかった。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
そう言われて、銀子もその気になり、組んだ為替かわせをそのまま留保し、次ぎの月もずるをきめていたのだったが、母の返辞が来てみると、金の催促もあった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
為替かわせしてきらめくものをつかませて、のッつッつの苦患くげんを見せない、上花主じょうとくいのために、商売冥利みょうり随一ずいいち大切なところへ、偶然受取うけとって行ったのであろうけれども。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このあいだ、きよが、おとうとおく為替かわせのはいった手紙てがみとしたといっていたでしょう。あのひとがごみにあったのをひろって、とどけてくださったのですよ。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
為替かわせ三百円たしかにいただきました。こちらへ来てから、お金の使い道がちっとも無くて、あなたからこれまで送っていただいたお金は、まだそっくりございます。
冬の花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
通して、あなたのおふくろさんの振り出しなさった為替かわせが、わっしどもの事務所へ参っておりますので
言ってやった金が来たかと、急いで開いて見たが、為替かわせも何もはいっていないので、文句は読む気にもならなかった。それをうッちゃるように投げ出して、床を出た。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
これはその地方から特別に運んで来ますので、決して金を為替かわせで送るというような便法はない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
郵便局の前に来ると、玄は私を待たせておいて為替かわせの受渡口の前に立った。多分お金を受け取って来たのであろう。洋服の内ポケットの中に手を入れながら玄は戻って来た。
為替かわせや手形にデュープリケートの写しを添えるよりもいっそう手堅いやり方なのである。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
なお、国許くにもとから月々なり、或いは相当の時分に為替かわせを組んでよこすか、または人をつかわす故、何かについて不足があらば申し越してもらいたい……証文? 左様なものは要らぬ。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
待っていた為替かわせが家から届いたので、それを金に替えかたがた本郷へ出ることにした。
泥濘 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
為替かわせにして送ることは勿論出来ない相談ですから、国の大臣やお金持と相談して、運動費をこの大変な金高になる宝石にかえ、ストラドヴァリウスの偽物のヴァイオリンを造らせて
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
国元では伜が今までにない初めての入用いりよう、定めし急な買物であろうと、眼鏡は掛ても書簡てがみの裏は透さずに、何がしという為替かわせを早速送り越したので、貞之進は見るより早くその暮方
油地獄 (新字新仮名) / 斎藤緑雨(著)
ある霜柱の残っている午後、わたしは為替かわせをとりに行った帰りにふと制作慾を感じ出した。それは金のはいったためにモデルを使うことの出来るのも原因になっていたのに違いなかった。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
月々幾何いくら幾何と、定めておいても圭子も美和子も、ムダな浪費をする習慣がなかなか止まず、本好きの姉は、この頃為替かわせ相場の関係でめっきり高くなった洋書を、買ったりするのである。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わけても貧しい女工のむれが、日給の貯金通帳を手にしながら、窓口に列をつくつて押し合ってゐる。或る人人は為替かわせを組み入れ、或る人人は遠国への、かなしい電報を打たうとしてゐる。
田舎の時計他十二篇 (新字旧仮名) / 萩原朔太郎(著)
すなわち、天国へ贈る郵税為替かわせに当たるわけで、すこぶるおもしろい考えである。この金紙、銀紙はみな南清より輸入するそうだが、その年額五十万円以上に達すとは驚かざるを得ない。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
ぼくはたちまち逆上して、身体からだ中や其処そこらを探しまわった揚句あげくの果は、おそらく、ゴルフ場で落したに相違そういないときめてしまいました。百五十弗は、当時の為替かわせ率で、四百五十円位にあたります。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
局へ手紙や為替かわせを受け取りに来るのは、タクシーの運転手とか、酒場のボーイとかで、かれ自身は一度も姿を現わさなかったし、それらの使いの者も、もしうさんくさい尾行者などがあれば
影男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
盆の上に電報と電信為替かわせが乗っている。五郎は起きて、電報を開いた。
幻化 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
私も加勢かせいしてその弗を拾集ひろいあつめて袋に入れて元の通り戸棚に入れたことがあるが、元来船中にこんな事の起るその次第は、当時外国為替かわせと云う事につい一寸ちょいとも考えがないので、旅をすれば金が
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
陣場からはその後の節季にこの間の北京楼ペキンろうの勘定書を封入して来て、勝手ながらこの半額を受け持って戴きたいと云って来たので、折り返して為替かわせを送ってやり、それでこの縁談は打切りになった。
細雪:01 上巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その金が日本へ戻って来ることは確実だったが、異国で使う金額と、日本で使う同額とは、為替かわせ関係の意味ではなく、まったく別のものだった。
旅愁 (新字新仮名) / 横光利一(著)
思いのほか巨額の為替かわせをちょいちょい送ってよこして、倉地氏に支払うべき金額の全体を知らせてくれたら、どう工面くめんしても必ず送付するから
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
仲間に笑われながら京都に居残り、為替かわせで金を取寄せて芸者末社の機嫌を取り、満月との首尾のためには清水の舞台から後跳うしろとびでもいとわぬ逆上のぼせよう。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
もはや、私の前には、太郎あてに銀行でつくって来た為替かわせを送ることと、三郎にもこれを知らせることとが残った。
分配 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
「オオ、しかもこの金には、佐渡平さどへい刻印こくいんが打ってある。あの両替屋りょうがえやから、為替かわせとして受け取った金であろうが」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
このあいだは、おとうとに、おくってやる為替かわせ手紙てがみといっしょにとしたのです。その母親ははおや病気びょうきというらせがきたので、きよは、おどろいて田舎いなかへたったのでした。
雪の降った日 (新字新仮名) / 小川未明(著)
書籍を買う条件で国から為替かわせを取り寄せて、これを別途に支弁するからが、すでに間違っているのに、使い道もあろうに身を持ちくずすために使い果したとあっては
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
郵便局の前には為替かわせを受け取りに来た若い女が立っているし、呉服屋の店には番頭と小僧とがかたまって話をしているし、足袋たび屋の店には青縞と雲斎織うんさいおりとがみ重ねられたなかで
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
翌々日河田さんから二十五円の為替かわせが来た。河田さんの親切に感謝しながら、私はそれを郵便局から受け取って来た。そして、せっかくだがおひまをいただきたいと大奥さんに願い出た。
柳を植えた……その柳の一処ひとところ繁った中に、清水のく井戸がある。……大通りかどの郵便局で、東京から組んで寄越よこした若干金なにがし為替かわせ請取うけとって、まきくるんで、トず懐中に及ぶ。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この女は、信州にたった一人の肉親の弟があるとか言って、私の集めて来るお金はたいていその弟のところへ為替かわせで送られるのでした。そうして、私の顔を見るとすぐ、金、金、金と言うのです。
男女同権 (新字新仮名) / 太宰治(著)
手紙と共に数枚の為替かわせ証書だった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「よい所で会った。おまえは、これからすぐに、本石町の為替かわせ屋、佐渡屋和平の店へ飛んで行ってくれんか」
牢獄の花嫁 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
東京に帰ったらためて置いた預金の全部を引き出してそれを為替かわせにして同封するために封を閉じなかった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
もし京都から為替かわせが届くならばとも考えたが、まだ届くか届かないか分らない前に、苦しい思いをして、それだけの実意を見せるにも及ぶまいという世間心せけんしんも起った。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)