湯女ゆな)” の例文
湯女ゆなのお寿々すずは、持て余したように、上り口へ打っ伏したままでいる若い浪人の体から手を離して、呆れ顔に、ただ眺めてしまった。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
更にその上へ青い藺笠いがさを被って顔をつつみ、丁字屋の湯女ゆなたちにも羞恥はにがましそうに、奥の離れ座敷に燕のように身を隠します。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
これより悪行面白く、辻斬りして金子きんすを奪いぬ。その頃鎌倉河岸に風呂屋と称するもの十軒あり。湯女ゆなに似て色を売りぬ。
三甚内 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
山中の湯泉宿ゆやどは、寂然しんとしてしずまり返り、遠くの方でざらりざらりと、湯女ゆなが湯殿を洗いながら、歌を唄うのが聞えまする。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わて小山田が討入前といふ大事な晩やのに、ついふらふらと湯女ゆなところた、あの余裕ゆとりのある気持が気に入つてまんね。」
山口は好人物の坊主のような円顔を急にてかてかきおい込ませると廊下へ出た。彼はそこで、お杉をひと目と、急がしそうに湯女ゆな部屋を覗いてみた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
帝展以外の方面もひっくるめてやっと思い出しのが龍子りゅうしの「二荒山ふたらさんの絵巻」、誰かの「竹取物語」、百穂ひゃくすいの二、三の作、麦僊ばくせんの「湯女ゆな」などがある。
帝展を見ざるの記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
中は大体八五郎が説明してくれた通り、この辺は湯女ゆななども置かず、本当の銭湯一式で、実体じっていに商売をしております。
つまり、最も世俗的なものであり、風流人の顔をしかめさせた湯女ゆな的な、今日のパンパン的現実の線で大衆にアッピールしていたものであったに相違ない。
“歌笑”文化 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
其のころ喜多村さんは、道頓堀の旭座で吉原心中のことを執りあつかった芝居をやっていたが、それには泉鏡花氏の湯女ゆなの魂の一節を髣髴さするものがあった。
とんだ屋の客 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
ちょっといきがった髪の結いよう、お化粧、着こなし、緋縮緬ひぢりめんの前掛、どう見ても湯女ゆな気分の色っぽい女。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「ほうれ、そがあなことよ。温泉に行って、一週間も帰らんといやあ、そこで、淫売みたよな湯女ゆなと、でれついとるに定まっとる。そがあな男は早よ見切りんさい」
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
そ、そ、そうなんですよ。深川のついこの川上で、湯女ゆなをしているんだというんだ。だから、血を
なに、それが伯母の家でも何でもない、天神下の湯女ゆなの宿だとは、俺もとうから見抜いていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
六郎兵衛との関係はもちろん、おみやのこと、お久米のこと、湯女ゆなを買いにゆくため、石川らの道場の金をごまかしたことまで、誇張もしないが、少しも隠さずに語った。
湯女ゆな遊女ゆうじょ、掛茶屋の茶酌女ちゃくみおんな等は、公然と多くの人に接しるから、美貌はすぐと拡まった。
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
湯女ゆなの後身かも知れない。そのこともついでにいわずにはおかなかった。
湯女ゆながいて、三味線も弾き、酒ものませ、吉原よりも安直に、客も泊めたり、居続けもさせる——遊び風呂の多い横丁の一軒だった。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
黒い外套を来た湯女ゆなが、総湯の前で、殺された、刺された風説うわさは、山中、片山津、粟津、大聖寺だいしょうじまで、電車で人とともに飛んでたちまち響いた。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
小山田庄左衛門は人も知つてゐる通り、赤穂浪人の一人で、討入の前夜湯女ゆなとこに泊つて、覚えずぐつすり寝込んで、勢揃ひに洩れたといふ男である。
彼の銭湯には湯女ゆながいる。土地柄に名をかりて、巧みに手を廻して湯女の営業を公然とやっている。一方に建築請負業もやっているし、漁船も持っている。
その上、こっちには曲者の素姓までも大方解っている。桜湯の湯女ゆなで、お浪というのがその仲間の一人だ。
ドアーの外で、湯女ゆな周章あわてる声がした。お柳はシャワーをひねると、甲谷の頭の上から雨が降った。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
湯女ゆな、遊女、水茶屋の女たちは顔が売ものである。
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
前借ぜんしゃくなどという事は計ってくれませんし、前借のできる勤め奉公では——お茶屋、湯女ゆな船宿ふなやど、その他、水商売など種々いろいろございますが
死んだ千鳥 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
清水しみづ清水しやうづ。——かつら清水しやうづ手拭てぬぐひひろた、とうたふ。山中やまなか湯女ゆな後朝きぬ/″\なまめかし。清水しやうづまできやくおくりたるもののよし。
寸情風土記 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
鳥羽とばへ遊びに行って、松風村雨まつかぜむらさめ気取りの海女あま姉妹を手に入れ、さんざんもてあそんだ挙句、江戸までいて来られ、一と騒ぎやったとか、——箱根の湯女ゆなに追っかけられて
浴場の奥から湯女ゆなたちの笑う声と一緒に、ポルトギーズの猥雑の歌が聞えて来た。時々蒸気を抜く音が壁を震動させると、テーブルの上の真赤なチューリップが首を垂れたままふるえていた。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
昔は床屋や銭湯が町内風景の見本のやうになつてゐたが、バリカンの床屋や湯女ゆなのゐない銭湯には、もはや町内風景がない。僕の出入する限りでは、碁会所に一番町内風景が漂つてゐるやうである。
市井閑談 (新字旧仮名) / 坂口安吾(著)
湯女ゆなの開けて行った小窓の障子は、こんにゃく色に明るくなっているが、世間の音もしない雪の日は、朝とも昼ともケジメがつかない。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だぶだぶと湯の動く音。軒前のきさきには、駄菓子みせ、甘酒の店、あめの湯、水菓子の夜店が並んで、客も集れば、湯女ゆなも掛ける。
みさごの鮨 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
櫻湯のお浪といふ湯女ゆなの噂は、平次も薄々は聞いて居ります。その頃江戸中に流行り始めた町風呂の湯女ゆなには、どうかすると飛んでもない代物しろもの——美しくも凄くもあるのがゐた時代です。
そのご機嫌を見計らって、取りまきの湯女ゆなのおかんとお千代が、しきりに浅草の景気をそそったので、つい、かごを四つあつらえてしまった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さてこれは小宮山こみやま良介という学生が、ある夏北陸道を漫遊しました時、越中の国の小川という温泉から湯女ゆなの魂をことづかって、遥々はるばる東京まで持って参ったというお話。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
桜湯のお浪という湯女ゆなの噂は、平次も薄々は聞いております。そのころ江戸中に流行はやり始めた町風呂の湯女には、どうかするととんでもない代物しろもの——美しくも凄くもあるのがいた時代です。
ゆうべ夜半よなか過ぎ迄、そこでは猥歌わいかの手拍子や音曲が聞え、こういう武家の住宅地にはあるまじき湯女ゆなの姿が出入りしていたという事である。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お話をしますうちに、仔細しさいは追々おわかりになりますが——これが何でさ、双葉屋と言って、土地での、まず一等旅館の女中で、お道さんと言う別嬪べっぴん、以前で申せば湯女ゆななんだ。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旗本はおろか、勤番者きんばんものですら、吉原を知らない者はないし、湯女ゆなを相手に、江戸唄の一節ぐらいは弾く者が多い。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
華奢きゃしゃな事は、吹つけるほどではなくても、雪を持った向風むかいかぜにゃ、傘も洋傘こうもりも持切れますめえ、かぶりもしないで、湯女ゆなと同じ竹の子笠を胸へ取って、襟を伏せて、俯向うつむいてきます。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっともそこは、喜撰きせんという額風呂がくぶろの奥で、湯女ゆなを相手に、世間かまわず騒げるような作りなので、さっきからの半鐘も、聞こえぬくらいに静かなのである。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山清水の小流こながれのへりについてあとを慕いながら、いい程合で、透かして見ると、坂も大分急になった石磈道いしころみちで、誰がどっちのを解いたか、扱帯しごきをな、一条ひとすじ湯女ゆなの手からうしろに取って
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
湯女ゆな奉公しているうちに、又十郎から柳生家の内状をそれとなく探り、大機——お由利——と順々に手段てだてをかえて、但馬守の生命いのちから、十兵衛、又十郎、右門
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
娘はふとすると、湯女ゆななどであったかも知れないです。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
煙村の少女おとめ温泉いでゆ湯女ゆな、物売りの女など、かえって、都人みやこびとのすきごころをうずかせたことでもあろう。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
曙染あけぼのぞめの小袖に、細身の大小をさし、髪はたぶさい、前髪にはむらさきの布をかけ、更にその上へ青い藺笠いがさかぶって顔をつつみ、丁字屋の湯女ゆなたちにも羞恥はにかましそうに
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まさか、湯女ゆなをあいてに、酒ばかりのんで、いたずらに大義を楯に俗衆をののしるのみを能としてみずから慰めていられるほど、おぬしの性格は、都合よく出来てもいないしな……
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いや、湯女ゆなのお駒に家を持たせて、屋敷をけがちになってからは、よけいにあの眼が、あの眉が、いつも自分をめまわしている気がした。あたかも司直と罪人とがにんの間のように。
柳生月影抄 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯女ゆなのお仙から、兄の仁吉が、太左衛門橋で、髪結床をしているということは有馬の逗留中に、度々聞いていたが、今日ここへ来たのは、伸びた髯を剃るだけの用事ではなかった。
治郎吉格子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
湯女ゆななどのいる風呂屋の情景も、いちどは見ておこうかと、それらしい一軒のかどをくぐったところ、そこの二階で、湯女をあいてに、さかんに飲んでいたのが、棒の又四郎であった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
夜更けまでどこかで聞こえる湯女ゆなの笑い声も、横丁をゾロゾロ流れる下駄の音も、万太郎の枕には妙な交響をまろばせてくる。そして、この世間の物音が面白すぎて寝つかれません。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)